E2034 – 議論を通じた将来ビジョン策定の取組“IFLA Global Vision”

カレントアウェアネス-E

No.348 2018.06.14

 

 E2034

議論を通じた将来ビジョン策定の取組“IFLA Global Vision”

 

    国際図書館連盟(IFLA)は,2017年4月,現代の図書館が直面する課題は全世界の図書館が連携し包括的に対応することによってのみ克服可能との認識のもと,全世界の図書館による議論を通じた将来ビジョン策定の取組“Global Vision”を開始した。2018年3月には,スペインで開催されたIFLAのPresident’s Meetingで中間報告が行われ,その報告書にあたる“Global Vision Report Summary”も公開された。現在,英語・スペイン語・フランス語・ドイツ語・ロシア語・中国語・アラビア語・イタリア語・ラトビア語・韓国語版が公開されている。本稿では,本報告書及び今後の同取組の流れを紹介する。

    同取組では,2017年度,キックオフミーティング(ギリシャ)に続き,地域ワークショップ(米国・カメルーン・エジプト・アルゼンチン・シンガポール・スペイン)を開催したほか,世界中で185回の関連ワークショップが催され,9,291人の関係者が参加して,図書館間の連携強化方法,図書館の将来,今後取り組むべき課題の優先順位等に関する意見交換が行われた。8月から10月にかけては,オンラインアンケートも行われ,2万1,772件の意見が寄せられた。本報告書は,190の国連加盟国・地域の図書館員からこのように集められた意見を集約・分析したものである。

    意見を寄せた図書館員の属性は,地域別では,欧州(58.2%),アジア・オセアニア(14.0%),北米(12.0%),ラテンアメリカ・カリブ海地域(7.6%),アフリカ(4.9%),中東・北アフリカ(3.3%),館種別では,公共(37.1%),大学・研究(33.7%),学校(10.2%),専門(7.1%),国立(4.6%)の順に多く,勤務年数20年以下が全体の約3分の2を占めている。

    報告書では,得られた重要な知見として,「地域・館種や図書館での勤務年数を問わず,図書館の永続的な価値・役割について全世界の図書館員が共有している」「各地域の特徴・要件を知ることが,共通課題を解決するために図書館界が一体化するにあたって必須である」の2点をあげる。また,取組から判明した,全世界の図書館員が共通して認識している図書館の重要な役割(highlight)10点,及び,それを改善するために必要な具体的条件(opportunity)10点を以下のようにまとめている。

   1点目の共通認識は,「情報・知識への平等で自由なアクセスへの貢献」で,図書館員が最も認めているものである。そして,その改善のため,図書館は「知的自由の擁護者となるべき」とする。2点目は,「リテラシー・学習・読書支援への継続的な深い関与」で,伝統的な役割として普遍的に自己認識されている。しかし,今後もその役割を持続するには「図書館の伝統的な役割をデジタル時代に合わせてアップデートするべき」とする。3点目は「コミュニティへの奉仕」で,奉仕活動の拡充には「コミュニティのニーズの深い理解と,効果的なサービスの策定が必要」とする。4点目は社会を豊かにする図書館の潜在能力を高めるための「デジタルイノベーションの受容」で,そのためには「技術革新の最新情報に通じておくべき」とする。

    5点目は,図書館界における「強力なアドヴォカシー活動の必要性を理解する指導者の存在」で,今後は「全ての図書館員による,より多くの,かつ,より優れたアドヴォカシー活動が必要」とする。6点目は,コミュニティのニーズに対して効果的に対応するために「資金調達が重要課題」となっており,政策決定者からの財政支援の理解を得るため「図書館の価値と効果を理解してもらう」必要があるとする。7点目は,図書館界の強化のための「外部との連携・協働の重要性」で,そのためには,孤立を避け,図書館員の「連携・協働の精神を涵養」することが必要とする。

   8点目は「官僚主義や変化への抵抗を減少させたい」と考えているということで,そのために「現在の図書館界の構造・行動様式を変化」させるべきとする。9点目は未来のための「世界の記憶の守護者」という自己認識であり,その具現化には,法的・技術的・財政的課題を解決し「世界の文書遺産へのアクセスを最大化する」努力が必要となる。10点目は「若手図書館員が図書館の未来の形成に深く関与したいと考えている」ということで,その育成のため「若手図書館員に学習や能力開発,リーダーとしての機会を与える必要がある」とする。

   IFLAでは,2018年3月から7月にかけて,再度,キックオフワークショップ(スペイン)及び地域ワークショップ(チリ・カナダ・チュニジア・フランス・ベトナム・南アフリカ)を開催している。今後は,2018年8月にマレーシアで開催される世界図書館情報会議(WLIC):第84回IFLA年次大会での“Global Vision”活動の成果報告(2018年8月)や,再度の意見募集を経て,“Global Vision”の活動計画を公表し(2019年3月),2019年8月には,IFLAの「戦略計画2019-2024」が策定される予定となっている。

   「実行無きビジョンは幻影である」(A vision without execution is hallucination)とするIFLAによる本取組が,各種計画に如何に反映されていくか,今後も注目していきたい。そして,意見募集に際しては,日本からも積極的に提案することが求められよう。

関西館図書館協力課・武田和也

Ref:
https://www.ifla.org/node/11900
https://www.ifla.org/node/11901
https://president2018.ifla.org/programme
https://president2018.ifla.org/sites/president2017.ifla.org/files/uploads/images/gerald-leitner-gv.pdf
https://www.ifla.org/node/34321
https://www.ifla.org/node/11905
https://www.ifla.org/files/assets/GVMultimedia/publications/gv-report-summary.pdf
https://www.ifla.org/node/36891