E2033 – 映像コンテンツの国際展開と情報基盤の構築<報告>

カレントアウェアネス-E

No.348 2018.06.14

 

 E2033

映像コンテンツの国際展開と情報基盤の構築<報告>

 

 シンポジウム「映像コンテンツの国際展開と情報基盤の構築──知的資源としての映像を,いかに活用するか」が,2018年3月30日,筑波大学東京キャンパス文京校舎において,筑波大学図書館情報メディア系,同・図書館情報メディア研究科,同・知的コミュニティ基盤研究センターの主催によって開催された。

 訪日客や留学生の増加とともに,言語の壁を越える可能性を持つ映像コンテンツの活用が,さまざまな分野において課題となっている。そうした状況を背景とし,映像資料を知的資源として活用する方策について,国際展開と情報基盤構築の観点から考察することが,このシンポジウムの目的だった。当日は,図書館情報学を始めとした各分野の研究者に加え,ヤフー株式会社および日本放送協会(NHK)からも講師を招き,講演とパネルディスカッションをおこなった。

 冒頭,ファシリテーターの筆者が,イントロダクションとして,シンポジウム開催の背景と目的を示した。すなわち,デジタル化の進展とインターネット配信の興隆によって,映画や放送番組など,映像コンテンツの国際的な流通が,従来よりもはるかに容易に,かつ瞬時におこなわれるようになったこと,写真や画像と動画を混在させたウェブサイトやオリジナル動画の配信など,インターネットを通じた映像コンテンツの利用が盛んになっていること,映像コンテンツの国際展開にあたっては,インターネット配信を基盤とすることによって,新たな可能性と課題が生じていることを述べた。そして,本シンポジウムの中核をなす「問い」として,次の3点を提起した。

  1. (1)映像コンテンツの国際展開に関して,文化の多様性という観点から,相手国の文化をいかにして理解し共存するか。
  2. (2)映像コンテンツの情報資源化に関して,デジタル化とインターネット配信の普及にどう向きあうか,とりわけ著作権とメタデータの問題にどう対応するか。
  3. (3)コンテンツの供給と受容の新たな態様が現れている状況下で,理論と実際ないし研究と実務の乖離をいかにして乗り越えるか,両者の協働がもたらす可能性にはどのようなものがあるか。

 もとよりこれらの問いは容易に答が得られるものではないが,本シンポジウムでは,前半に各分野の研究者と専門家による講演,後半にパネルディスカッションをおこなうことによって,これらの問いに向き合おうとした。

 講演では,まず,筑波大学図書館情報メディア研究科長(当時)の溝上智恵子が「国際交流と文化の伝播──カナダ日系人収容所の事例から」と題した講演をおこない,第2次世界大戦時の強制収容という極限の状況下にあって教育による文化の伝播がおこなわれたことを,収容所の様子を記録した映像の一部を紹介しつつ,述べた。

 次に,筑波大学知的コミュニティ基盤研究センター長(当時)の綿抜豊昭が「浮世絵画像のインタラクティヴ展示とインバウンド需要への対応」と題した講演をおこなった。訪日客や留学生に対する日本文化理解促進の方策として,綿抜は,浮世絵に記された文化的背景の読み解き方を,AR(拡張現実)などを活用して展示する試みについて述べた。

 次に,ヤフー株式会社メディア事業本部エグゼクティブ・プロデューサーの宮本聖二が,「映像コンテンツのインターネット展開とサイト連携──東日本大震災アーカイブおよび戦争証言アーカイブ」と題した講演をおこない,ウェブサイトにおける映像コンテンツ配信に関するこれまでの取り組みと現状について述べた。

 最後に,NHK国際放送局専任局長の高井孝彰と同・国際企画部副部長の西川美和子および堀亨介が「放送とインターネットによる映像コンテンツ国際発信の最前線」と題した講演をおこない,放送番組の国際展開に関する現状と,多言語化やオンデマンド配信などの新たな施策について述べた。

 シンポジウム後半では,筑波大学教授の呑海沙織が参加して,ヤフーおよびNHKの講師と共に「映像コンテンツの国際展開と情報基盤の構築──研究と実務の連携がもたらす可能性をめぐって」と題したパネルディスカッションをおこなった。まず,呑海が,自身の活動における研究と実務の連携について述べた。その後,パネリストのこれまでの経験をもとに,映像コンテンツの国際展開における課題と可能性について意見が交わされた。また,会場参加者からも質問や意見が相次いだ。議論の結果,(1)映像コンテンツの国際展開においては,自国文化のどのような部分が相手国文化に馴染みやすいのかを探ることが有用であること,(2)デジタル化とインターネット配信の普及に対しては,実務の側における最新動向を研究の側が把握し,両者が協働する必要があること,(3)著作権やメタデータの課題解決についても,両者が情報を共有して取り組む必要があること,などの知見が得られた。

 終わりに,筑波大学図書館情報メディア系長(当時)の松本紳が知的コミュニティ基盤研究センターのこれまでの活動に触れながら,今回のシンポジウムが映像コンテンツの国際展開に資するものになったことについて述べて,閉会した。本シンポジウムによって得られた知見が,今後,映像コンテンツの国際展開における情報基盤の構築に寄与することが期待される。

筑波大学図書館情報メディア系・辻泰明

Ref:
http://www.kc.tsukuba.ac.jp/lecture/symposium/2018.html