E2037 – IFLAグローバル・ビジョン・ワークショップ<報告>

カレントアウェアネス-E

No.349 2018.06.28

 

 E2037

IFLAグローバル・ビジョン・ワークショップ<報告>

 

 2018年5月23日から25日にかけて,ベトナム国立図書館において国際図書館連盟(IFLA)グローバル・ビジョン・ワークショップ(アジア・オセアニア地域)が開催された。アジア・オセアニア地域の28の国や地域から31人が集い,日本からは3人が参加し,うち2人が国立国会図書館(NDL),1人が日本図書館協会(JLA)からの参加であった。

 IFLAグローバル・ビジョン(E2034参照)は,IFLAが2017年に立ち上げたプロジェクトで,世界各国の図書館員の議論を通じて,次期戦略計画を策定することを目的とする。今回の策定のプロセスは,これまでのIFLAの諸活動とは異なり,ボトムアップで行われる点が特徴である。2017年の活動の成果は,2018年3月に“IFLA Global Vision Report Summary”(以下「レポート・サマリー」。本稿の抜粋はNDL総務部支部図書館・協力課で訳出した。)として発表された。2018年7月中旬まで,世界中の図書館・図書館員からレポート・サマリーをアクションにつなげるためのアイデアを募集する。その成果は「IFLA戦略計画2019-2024」に盛り込まれ,2019年8月にギリシャ・アテネで開催されるIFLA年次大会で発表予定である。

 本ワークショップは,2018年3月にスペインで開催されたキックオフ会議を受けて,4月から7月にかけて開催される地域ワークショップのうちアジア・オセアニア地域を対象としたもので,各国の図書館協会や国立図書館から参加があった。

 参加者は4グループに分かれ,グループごとにレポート・サマリーに挙げられている図書館がその役割を果たすための「好機」(Opportunity)を実現するために,国レベルで考えられる取組,アジア・オセアニア地域のレベルで考えられる取組,IFLAと協力して実施できる取組についてアイデアを出し,全体で各グループの議論や意見を共有するという形で進行した。各グループに英語を母語とするファシリテーターを配置し,参加者は各自で意見を書き留めてから発表し,ファシリテーターが付箋紙やホワイトボードを活用して,議論を総括するという形で進められ,英語を母語としない参加者が英語でも議論や意見交換ができるよう工夫されていた。

 1日目は,レポート・サマリーの鍵となる発見(Key Finding)について議論した後,10の好機のうち,各国にとって,アジア・オセアニア地域にとって,それぞれどれが重要か話し合った。全体討論では,各グループでの選択結果は異なるものの,「好機7. 私たちは,協力の精神を育まなければならない。」「好機10. 私たちは,若い世代の図書館員に,学習し,能力開発し,リーダーと育つよう効果的な機会を与えなければならない。」はどのグループでも選択されていることが確認された。その後,各グループで「好機5. 私たちは,全てのレベルにおいて,より多くのより良い図書館のための提唱者を必要とする。」「好機7. 私たちは,協力の精神を育まなければならない。」を実現するための取組について話し合い,議論の結果を全体で共有した。

 2日目の午前は,前日に議論した好機5と7を除く8つの好機について,各グループに2つずつが割り当てられて議論を行った。各グループは割り当てられた好機について,国ごとに考えられる取組のアイデアを3つ,アジア・オセアニア地域でできる取組のアイデアを5つ挙げた。その後,各グループのうち2人が割り当てられた好機を実現するための取組のアイデアの説明者となり,残りのメンバーは他のグループのテーブルを巡回し,意見交換を行い,各グループのアイデアをブラッシュアップした。最後に各グループは全員に対して議論の結果を報告して共有した。午後のセッションはこれまでと異なり,グループ全員が参加して,寸劇や,同じ内容を口頭による発表とスライドや動画による発表で行い比較する等,工夫を凝らして議論の結果を発表した。

 最後に,IFLA会長のペレス・サルメロン(Glòria Pérez-Salmerón)氏から,各国における状況は様々であるからこそ,ビジョンや目標を共有し緊密に協力をする必要がある,グローバル・ビジョンの活動が,互いを知り,信頼関係を構築する機会になれば幸いであるとの閉会の挨拶があり,ひとりひとりに修了証が授与された。

 本ワークショップにおいて具体的な取組のアイデアに関して合意に達したわけではない。しかし,各国の違いを踏まえつつもレポート・サマリーに掲げられた目標を意識して,参加者と議論や意見交換ができたことは示唆に富む体験であった。まだ図書館が十分に整備されていない国や地域もあり,図書館の発展にかける参加者の熱い思いにも圧倒された。

 IFLAグローバル・ビジョンの活動では,世界各国からレポート・サマリーを実現するための取組のアイデアを募集している。IFLAグローバル・ビジョンのウェブサイトに,ワークショップ開催に当たっての手引きやIFLAに提出する報告書の書式等をまとめた“2018 Toolkit”が掲載されている。ワークショップは誰でも開催できる。ワークショップは英語以外の言語で実施してもよいが,IFLAに提出する報告書は英語で作成する必要がある。報告書の締切は2018年7月16日である。日本の多くの図書館関係者にも,ぜひワークショップを開催して,IFLAグローバル・ビジョンの議論・活動に参加してほしい。

総務部支部図書館・協力課・熊倉優子

Ref:
https://www.ifla.org/node/11900
https://www.flickr.com/photos/ifla
https://www.ifla.org/node/47281
https://www.ifla.org/files/assets/GVMultimedia/publications/gv-report-summary.pdf
https://www.ifla.org/node/11317
http://www.kla.kr/jsp/info/association.do?procType=view&f_board_seq=54022
https://www.ifla.org/node/36893
E2034
E1974