E1609 – 大学図書館員の将来を示唆する図書館評価会議<報告>

カレントアウェアネス-E

No.267 2014.09.25

 

 E1609

大学図書館員の将来を示唆する図書館評価会議<報告>

 

 2014年8月4から6日にかけてLibrary Assessment Conference(E563参照)がワシントン州シアトル市のワシントン大学で開催された。同会議は2006年に,北米における大学図書館評価の中心人物である米国研究図書館協会(ARL)のキリルドゥ(Martha Kyrillidiou)氏,ワシントン大学図書館のヒラー(Steve Hiller)氏,ヴァージニア大学のセルフ(Jim Self)氏の発案で始まった隔年開催の会議である。通算6回目にあたる今回は,セルフ氏が引退し,残る2名が共同議長として企画を率いていた。参加者は大学図書館員が中心であるが,その数は約600名と第1回から3倍に増加し,関心の高さがうかがわれた。アジアからは,日本から筆者1名のみ,コンソーシアムでARLが提供するLibQUAL+(CA1404CA1526参照)を実施している香港から4名と,ごく少数であった。

 会議は,3件の基調講演,研究発表やパネル,ライトニング・トークからなる27件のセッション,45件のポスター発表があったほか,前後の日程では継続教育の機会として7種類のワークショップが行われた。今回は,ワシントン大学図書館の見学会も開かれ,2012年から13年にかけ現在の学生の学習行動に合うよう施設の大規模改修を行い,レファレンス図書館員が一斉にライティングセンターのチューターになったOdegaard Libraryや,2010年にResearch commonsを開設したAllen Libraryなどを,多くの参加者が見学した。

 会議では様々な図書館評価の指標や実施事例などが発表されていたが,その範囲は広く,伝統的な図書館サービスの評価から大学における教育そのものの評価にまで及んでいた。また,評価研究の結果をいかに大学当局に訴えるかといったことも含まれていた。大学当局への主張の熱心さは,高等教育および情報環境の変化によって,大学において自明とされていた伝統的な図書館サービスの重要性がすでに過去のものとなっているという大学図書館員の危機意識の表れだと,筆者は受け取った。発表の中では雇用確保(job security)という用語もたびたび聞かれたからだ。

 図書館の存在意義を主張する一つの方向性として,前述のワシントン大学におけるライティングセンターの例のように,図書館員による学生の教育への積極的な関与がある。今回特に強い関心が示されていたのは,その成果を示す上で必要となる教育のアウトカム評価,とりわけ,批判的思考,情報リテラシー,作文,口頭コミュニケーション等の学習効果の測定であった。発表では学生ポートフォリオを使った事例,米国大学協会(AAC&U)の開発したルーブリックを適用した事例,さらに複数のルーブリックを試して標準的な利用を促進しようとするプロジェクト(Rubric Assessment of Information Literacy Skills:RAILS)などが扱われていた。

 伝統的な図書館のサービス評価については,北米では全般的な評価ツールLibQUAL+の実施が既に前提となっているようであった。今回の会議ではその結果を受け,次にどうするかに関する発展的な評価活動についての発表が多くあった。具体的には,LibQUAL+の繰り返しの結果を加工した独自指標による経時的な評価や,さらに詳細なニーズや評価を測定するために設計された,利用者グループ別の質問紙やインタビュー調査などの発表である。また,組織としての健全性を図書館スタッフに問うClimateQUAL+(E938参照)に関するセッションもあった。

 もうひとつ,蔵書評価や研究活動のアウトカム評価のための,電子資料を中心とした利用実態を広く知るための指標も大きな関心事で,COUNTER(CA1512参照)を超えたAltmetrics(E1593参照)などのソーシャルメディアも含めた新しい評価ツールに関する発表も多く見られた。

 初日の基調講演の中で紹介された「絶滅タイムライン」(Extinction timeline)によると,図書館は郵便局などと同じ2019年頃になくなることになっている。今回の会議には米国情報標準化機構(NISO)やCOUNTERなどの標準化プロジェクトの関係者,Ithaka S+Rなどのコンサルタント組織のデータアナリストなども多く参加が見られ,図書館評価のために様々な外部の助けを必要としている現況も見て取れた。一方で,参加者の中には前々回の同会議では62名,前回は82名だった“Assessment”を肩書に持つ図書館員が96名に増えていて,図書館評価に対する自らの積極的な取り組みも共存していることが理解できた。

 大学図書館員の将来を簡単に予想することはできないが,会議冒頭でヒラー氏は3人の頼もしい図書館員がバーを訪れる小噺を披露し,明るい将来の可能性を示した。バーテンダーに飲み物の味を尋ねられ,instruction librarianとcollection development librarianに続いて,3人目の図書館員はこう答えた。「このジントニックはおいしいね。だけど,私はassessment librarianだ。きちんと評価するにはもっと大きな標本が必要だね。あと3杯くれよ,それを全部飲んでから答えるから。」大学図書館への評価文化の根付きとともに,大学図書館員の職業としての危機をあくまでも前向きに対処し,自らを評価することで未来を切り拓こうとするたくましい図書館員の姿勢が印象的な会議であった。

慶應義塾大学文学部・酒井由紀子

Ref:
http://www.libraryassessment.org/
http://www.lib.washington.edu/
http://www.lib.washington.edu/ougl/renovation
http://www.lib.washington.edu/about/news/announcements/research-commons-grand-opening
http://www.aacu.org/resources/assessment/index.cfm
http://www.arl.org/focus-areas/statistics-assessment#.U_R6sPl_t8M
http://railsontrack.info/rubrics.aspx
http://www.projectcounter.org/
http://altmetrics.org/manifesto/
http://www.niso.org/home/
http://www.sr.ithaka.org/
http://www.nowandnext.com/PDF/extinction_timeline.pdf
E563
E938
E1593
CA1404
CA1512
CA1526