CA1404 – 図書館サービスの質の測定指標LibQUAL+の開発 / 須賀千絵

カレントアウェアネス
No.263 2001.07.20

 

CA1404

図書館サービスの質の測定指標LibQUAL+の開発

近年米国の学術図書館界では,これまでの測定指標,すなわち投入,産出,蔵書規模に関わる指標に加えて,利用者にとっての図書館の効果を測定する必要性が認識されている。このような背景のもとで,研究図書館協会(ARL)では,新たな測定指標の開発に力を入れている。特に注目を集めている指標が,図書館サービスの質を測定するLibQUAL+である。

LibQUAL+の開発プロジェクトは,2000年10月に開かれたARLの大会において,テキサスA&M大学図書館(Texas A&M University Libraries)を中心に発足した。2003年の完成を目指し,現在,研究が進められている。

LibQUAL+は,サービスの質を「期待」と現状の「認知」のギャップによって測定するSERVQUALの手法を,図書館に応用しようとするものである。SERVQUALは,マーケティング分野において,パラスラマン(A. Parasuraman)らによって構築されたサービスの質の測定指標である。具体的には,あるサービスについて,22項目の質問群に対して,それぞれ期待する値と実際に認識する値を7段階で回答させ,両者の値の差をサービスの質として測定する。各質問は,施設,設備や職員の服装などが好ましいものであることを示す「具象性」,約束したサービスを正確に達成することを示す「信頼性」,職員の能力や人柄等の面から判断して安心してサービスの提供を受けられることを示す「確実性」,顧客を援助し迅速にサービスを提供することを示す「反応性」,顧客のニーズを理解しコミュニケーションがとりやすいことを示す「共感性」というサービスの次元のいずれかを表現した内容となっている。これら五つの次元は,4種類のサービス業(クレジットカード,機械の修理,長距離電話,銀行)の顧客に対する面接調査から導き出されたものである。

SERVQUALを図書館に応用する試みは,ARLの開発プロジェクトの発足以前から各地で進められ,その結果,SERVQUALで設定されたサービスの次元を図書館の実情に合わせて見直す必要性が明らかになってきた。

テキサスA&M大学図書館では,図書館のためのSERVQUALの手法をLibQUAL+と名づけ,ARLの開発プロジェクト発足以前から,研究を進めてきた。その一環として,図書館サービスの次元を導き出すために,ARLの会員館9館の利用者(教員・大学院生・学部生)を対象に,面接調査を実施した。2000年春には,60件の面接調査を終了した。その分析の結果,五つのサービスの次元に加えて,図書館サービス独自の新たな次元が浮かび上がってきた。すなわち,資源への「アクセス」,施設が快適で機能的であることを示す「場所としての図書館」などである。

この研究結果を受けて,ARLの開発プロジェクトでは,図書館サービスの質に対する利用者の認識の構造を検証するために,会員館11館に属する学部生,大学院生,教員,職員など合計3,987名を対象とする大規模な調査を実施し,このたび,その概要が公表された。この調査では,SERVQUALの22項目に図書館独自の次元を測るための19項目を追加した合計41項目の質問群に対して,図書館サービスの質に対する認知(今回の調査では期待値を使用していない)を9段階で回答するよう求めた。なお,この調査の実施,回答の回収には,ウェブが利用された。

データの分析には,2段階の因子分析(ある現象に影響を与えている要素を見つけ出すための統計手法)を行う高次因子分析と呼ばれる手法が用いられた。まず,最初に因子分析を行った結果,五つの因子(一次因子)を抽出した。続いて五つの因子に対して再び因子分析を行い,二次因子を一つ抽出した。つまりLibQUAL+の結果は,最終的にある単一の要因に左右されるものであること,言いかえればLibQUAL+の測定結果がある一定の方向を示すものであることが確認された。さらに,二次因子の影響を除去したうえで,改めて一次因子の因子負荷量(影響の強さを示す値)を算出したところ,一次因子がある程度の独自の影響力をまだ保持していることが明らかになった。この一次因子は,41項目の質問との相関の高さから,「利用者のニーズへの共感性」,「場所としての図書館」,「アクセス」,「コレクション」,「信頼性」と解釈された。つまりこの測定手法では,一次因子が表すサービスの質の次元のうちで,二次因子に還元されていない部分が残っていることがわかった。

LibQUAL+の開発はまだ途上ではあるものの,ARLでは,新たな測定指標となり得る有力な候補としてさらに研究を続けていく模様である。今後の動向に注目していきたい。

慶應義塾大学大学院:須賀 千絵(すがちえ)

Ref: LibQUAL+ home [http://www.arl.org/libqual/] (last access 2001. 6. 11)
Zeithaml, V. A. et al. Delivering Quality Service. Free Press, 1990. 226 p.
Cook, C. et al. Users’ hierarchical perspectives on library service quality: a “LibQUAL+” study. Coll Res Libr 62 (2) 147-153, 2001
Cook, C. et al. Users’ perceptions of library service quality: a LibQUAL+ qualitative study. ARL Measuring Service Quality Symposium, Washington, D.C., 2000-10. [http://www.arl.org/libqual/events/oct2000msq/papers/HeatCook/heatcook.html] (last access 2001. 6. 25)
杉山誠司 学術図書館における新尺度開発の国際的な動向 情報の科学と技術 51 337-343,2001