カレントアウェアネス
No.263 2001.07.20
CA1405
読書をしながら飲んだり食べたりしたいですか?
米国で公共図書館内(閲覧室内ではないことに注意)における飲食についての調査が行われた。調査対象は,50州から各々3館を選ぶことにした。まず,既に飲食を許容していることが広く知られている23館を選び,その他については,American Library Directoryからランダムに抽出した。なお,先の23館に含まれる図書館が4館ある州が二つあり,それをすべて含めることにしたため,全体で152館が調査対象となった。期日までに回答のあった96館(63%)が今回の分析の対象である。
飲食を可とする館(許容派と呼ぶ)が4分の1,否とする館(禁止派と呼ぶ)が4分の3という結果であった。さらに,禁止派に対しては,なぜそうしているのか,方針を変えたら何かよいことがあると思うか,許容派に対しては,なぜそうすることにしたのか(元々は禁止していただろうから),その結果どうなっているのか,について尋ねている。いろいろ面白い数字が出ているが,以下では,五つの点について,回答の多かった選択肢上位5位まで(「その他」を除く)を挙げる。
(1)禁止派が想定した問題点
- カーペットや図書館の設備への被害(89%)
- 食べ物から出るゴミの放置(86%)
- パソコンや付属品への被害(80%)
- 図書・雑誌・資料への被害(72%)
- 清掃関係費の増加(72%)
ちなみに,禁止派も自館職員に対する飲食の許容度は92%であった。
(2)禁止派が期待する利点
- 利用者の図書館滞在時間が長くなる(72%)
- 来館者が増える(44%)
- 図書館に対する関心が高まる(32%)
- 図書館が食べ物や飲み物の提供で利益を上げられる(28%)
- 宣伝になる(28%)
なお,何か一つは選ぶよう求めていたものの,「なし」が14%に上った。
(3)許容派が想定した利点
- 図書館のイメージや魅力を高める(80%)
- 利用者の居心地をよくする(64%)
- 宣伝になる(32%)
- 利益が上がる(32%)
- 利用者は,家で図書館の本を読むときにも食べたり飲んだりしている(20%)
なお,特別のイベントがある場合に限っている図書館が36%ある。持ち込みは認めない館が30%,許容場所に限定がない館が8%であった。
(4)許容派が実感している利点
- 図書館に対する関心が高まる(48%)
- 利用者の図書館滞在時間が長くなる(40%)
- 宣伝になる(40%)
- 来館者が増える(32%)
- 図書館が食べ物や飲み物の提供で利益を上げられる(32%)
(5)許容派が実感している問題点
- 食べ物からでるゴミの放置(40%)
- カーペットや図書館の設備への被害(32%)
- 清掃関係費の増加(28%)
- 害虫の増加(12%)
- ねずみなどの増加(8%)
なお,何か一つは選ぶよう求めていたが,「なし」が32%に上った。
この結果を米国の図書館員がどう分析しているかは報告記事の原文を見ていただくとして,日本人としての視点を含め,感想を少々述べておきたい。(3)では7位に「大きな書店チェーンに対抗できる」(12%)や9位に「美術館や博物館は長年にわたって食べ物や飲み物を提供してきた」(4%)という回答があり,(1)では13位に「利用者が酒類を持ち込む」(17%)という回答もあった。書店や博物館・美術館と張り合おうとするところや,酔っぱらいの心配までするところが米国らしい。また,寝っ転がって本を読んだり,本を踏んだりすると叱られた世代としては,(3)の5位などを見ると隔世の感があるが,日本でも今日の状況は似たようなものなのであろう。そう考えれば館内でのみ禁止することには意味がないともいえる。また,わが国で貸出中心が唱えられて久しいが,(2)の1位,(4)の2位のようなことを米国の図書館が重視しているのは意外であった。
さて,調査者も指摘しているが,許容派の経験では,禁止派の懸念のほとんどは杞憂に終わっているようである。(1)で3,4位の回答は,(5)では回答者なし(0%)であり,また,(1)で12〜15位の回答も(5)では0%,7〜11位も1桁に過ぎない。残る問題は1,2,5,6位の回答,すなわち建物の清掃に関することであるが(6位は「害虫の増大(56%)」),この点は館内で飲食を禁止する根拠となり得るだろう。
しかしながら,(2),(4)を見ると,飲食を禁止せず,清掃にさらに費用をかけることにしても,サービス機関としては得策かもしれない,という考えが浮かんでくる。遊園地や球技場などは,そういうことを前提に入場料を設定しているといえよう。
図書館の収入になるから((4)の5位),というのは日本では考えにくいが,今後,もし独自の収入源の確保を考えるようになった場合は,来館者増との考量が必要であろう。利用者に迎合するのかという意見もあろうが,サービス機関は人が来てくれなければ話にならない。
国立国会図書館の職員としては,(5)で「図書・雑誌・資料への被害」が0%となっているのには疑念が残るが,(3)の5位をみると,被害があっても公共図書館としての許容の範囲なのだと理解する。切り取りや書き込みなどの故意による被害との関係が気になるところである(そちらの方が多ければ,うっかりの汚損を論じてもしょうがない)。
また,国立国会図書館では,携帯電話の使用を当初,全面禁止にしたが,その後,場所を限定して解禁した。この経緯を見ると,日本の場合,最も気に掛かるのは(1)の8位であった「食べ物・ゴミ・騒音に対する利用者の苦情が増える」であろうか。
坂本 博(さかもとひろし)
Ref: Lyons, D. B. No food, no drink – no more? : a study of food and drink policies and practices in public libraries. Pub Libr 39(6) 338-347, 2000