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カレントアウェアネス
No.278 2003.12.20
CA1512
動向レビュー
電子ジャーナルの出版・契約・利用統計
1.電子ジャーナルの出版傾向
電子ジャーナルの出版タイトル数の推移を正確に追跡することは容易ではない。年刊で刊行され,世界の定期刊行物を収録しているUlrich’s International Periodicals Directoryに初めて電子ジャーナルの項目が登場したのは1988-1989年版からである。これに基づいて電子ジャーナルの出版タイトル数の推移が示されることが多い(図1)。しかし年によって出版タイトル数の精度にばらつきが見られる。
米国研究図書館協会(Association of Research Libraries: ARL)では1991年にDirectory of Electronic Journals,Newsletters and Academic Discussion Listsを創刊しているが,この中から査読付き(peer reviewed)電子ジャーナルを抜き出してまとめることもある(図2,表1)。
ARL Directory of Scholarly Electronic Journals and Academic Discussion Lists. (online), available from < http://dsej.arl.org/ >, (accessed 2003-05-04).
分野 | タイトル数 | 割合 |
人文科学 | 520 | 10% |
社会科学 | 1,969 | 36% |
生命科学 | 2,390 | 44% |
物理科学 | 1,139 | 21% |
工学 | 963 | 18% |
一般 | 32 | 1% |
人物・地域 | 248 | 5% |
キング(Donald W.King)等(1)は,Ulrich’s International Periodicals Directoryの2002年版に基づき,収録されている250,000タイトルの定期刊行物のうち約15,000タイトルが査読付きの学術雑誌であり,その内10,200タイトルがオンラインで利用できると述べている。
大手の出版社やアグリゲータの電子ジャーナルのタイトル数は次頁(表2)のとおりである。
出版社等 | タイトル数 |
エルゼビア・サイエンス | 1,800 |
クルーワー | 750 |
ブラックウェル・パブリッシング | 681 |
シュプリンガー・フェアラーク | 500 |
ワイリー | 300 |
テイラー&フランシス | 760 |
セイジ | 300 |
エメラルド | 150 |
オックスフォード大学出版局 | 168 |
ケンブリッジ大学出版局 | 150 |
米国化学会 | 34 |
IEEE | 100 |
米国物理学協会 | 100 |
ACM | 250 |
ハイワイヤー・プレス | 343 |
プロジェクトMUSE | 200 |
JSTOR | 353 |
2.電子ジャーナルの価格モデルと契約
スエッツ・ブラックウェル社が2003年に出版社50社を対象として行った電子ジャーナルの調査(2)によれば冊子体雑誌と電子ジャーナルのバンドル価格を設定している出版社は83%,冊子体雑誌とは別に電子ジャーナルの価格を設定している出版社が58%(価格は冊子体雑誌の80%から100%相当),冊子体雑誌への追加料金として電子ジャーナルの価格を設定している出版社が23%(価格は冊子体雑誌の3%から35%相当)あった。EU諸国では電子ジャーナルに付加価値税(VAT)がかかるので(例:英国17.5%)冊子体雑誌と電子ジャーナルのバンドル価格が多くなっているようである。
同社の調査によれば,電子ジャーナルの購読契約に当たってコンソーシアム価格体系又は複数サイトユーザ用の価格体系を用意している出版社が63%あり,そのうち冊子体雑誌の購読実績に基づき価格を設定している出版社が6%,パッケージのカタログ価格から値引きしている出版社が55%,その他が33%となっている。
図書館コンソーシアムの国際的な団体である国際図書館コンソーシアム連合(International Coalition of Library Consortia: ICOLC)は,2001年12月に『電子的情報の選択と購入を巡る現在の情勢と望ましい方向への実施策に関する声明』の改訂版その1『電子ジャーナルの利用許諾をめぐる新たな進展』を発表し,電子ジャーナルの価格設定を冊子体雑誌から切り離し,冊子体雑誌は電子ジャーナルのオプションとすること,料金を定額料金,従量料金,定額料金と従量料金の組み合わせから選択できるようにすること等を主張している(3)。
現在,商業出版社が図書館コンソーシアムに提供するコンソーシアム・サイト・ライセンスはビッグ・ディール(Big Deal)と呼ばれるもので,出版社が刊行する雑誌の全タイトルを一括して提供するものである。これは一般に契約期間が3年から5年で過去の冊子体の購読総額に電子ジャーナルの利用料金として冊子体購読総額の5%から15%を追加して利用するものであり,冊子体雑誌の値上り率が6%から7%と低く押さえられ,ILLや授業用教材作成への利用も認められている。その反面契約期間内は冊子体雑誌の中止が原則としてできない。ビッグ・ディールは1990年代の後半から急速に普及し,中・大規模出版社の総収入の20%から58%を占めるといわれている。ビッグ・ディールは図書館にとっては利用できる雑誌の種類が増え,出版社にとっては安定した収入をもたらしている。しかしながら,ビッグ・ディールについて根本的な疑問が出されている。それは出版社またはコンソーシアムにとってビッグ・ディールが持続可能なモデルであるかということである。ビッグ・ディールは図書館の通常経費ではなく,特別な予算で賄われていることが多い。ビッグ・ディールの更新時期の財政事情によっては図書館が他の財源を劇的に削減するか,現在とは別のモデルを模索せざるを得ない状況のようである(4)。
3.電子ジャーナルの利用統計
ARLの統計によるとARL加盟館106館の図書館資料費に電子情報資源(electronic resources)の予算が占める割合は平均16.25%であり,全体で132億ドルが支出されている。また,1992-1993年に比べると電子情報資源の予算は5倍近く増加している(5)。このように電子情報資源の図書館予算に占める割合が増えてくると,導入している電子情報資源の費用対効果が問われてくるのは当然であろう。図書館で利用している電子情報資源の多くは,利用の際にインターネットを通じて出版社等のサーバにアクセスするネットワーク情報資源である。これらの情報資源は従来の図書館蔵書と異なって図書館内部で利用実態の把握をすることができない。異なる出版社,ベンダーから電子情報資源の利用統計レポートを入手し,比較することが必要となる。
ICOLCは,『ウェブベースの情報資源利用に関する統計的測定のガイドライン』(6)を2001年12月に刊行した。このガイドラインでは,提供されるべき最低限のデータ要素として,セッション回数(ログイン回数),クエリー数(検索回数),メニューの選択回数,利用者に提供されたコンテンツ単位の数,アクセス拒否件数を挙げ,それぞれのデータの集計単位についても規定している。
ARLが開始した電子情報サービスの統計・評価方法を構築するための研究プロジェクト,E-Metricsでは2000年11月から2001年6月にかけて行われたフェーズ2でICOLC等の先行事例を基に統計・評価の実地検査を実施した。その結果,多くのベンダーが利用統計データを全く提供していない,レポートが整合性に欠ける,レポートのフォーマット,項目が異なる,レポートが比較できない,ベンダーによって計数の仕組みが異なる,等の問題点が明らかになった(7)。
一方,英国の出版社・図書館問題解決委員会(Publishers And Libraries Solutions Committee: PALS)利用統計ワーキング・グループの活動から発展した取り組みであるCOUNTER(Counting Online Usage of NeTworked Electronic Resources)(8)は,電子ジャーナルやデータベース等のオンライン情報資源の利用状況を的確に把握しようとするものであり,そのためには信頼性があり,比較可能で,整合性のある利用統計(usage statistics)が必要である。この達成に向けての重要なステップは,利用データの記録と交換を管理する国際的に合意された実務指針の開発である。COUNTERの最初の主要目的はそのような実務指針を開発することであった。実務指針については,2003年1月14日にリリース1(2002年12月)が公表された(9)。リリース1は電子ジャーナルとデータベースに焦点を合わせた指針であるが,将来的には電子ブックも対象とされるようである。リリース1で規定された利用統計レポートは次のとおりである(表3)。現在,実務指針を遵守している出版社等は,アニュアル・レビューズ,ブラックウェル・パブリッシング,インジェンタ,ISI,オックスフォード大学出版局,ポートランド・プレス,トムソン・ラーニング/ゲールである(10)。今後は,出版社,ベンダーおよび図書館関係団体が創設したCOUNTERがISOやNISOなどの規格制定団体と協力してオンライン情報資源の利用統計についての標準化を国際的に推進していくと予想される。
種 類 | 内 容 | レベル |
雑誌レポート1 | 月別および雑誌別の成功した論文単位での フルテキスト要求件数 | 1(必須) |
雑誌レポート2 | 月別および雑誌別のアクセス拒否数 (このレポートは利用者アクセスモデルが 最大同時ユーザ数に基づいている場合にのみ 適用される) | 1(必須) |
雑誌レポート3 | 月別、雑誌別、およびページタイプ別の成功 したアイテム要求数とアクセス拒否数 | 2(推奨) |
雑誌レポート4 | 月別およびサービス別の総検索実行数 | 2(推奨) |
データベースレポート1 | 月別およびデータベース別の総検索数及び 総セッション数 | 1(必須) |
データベースレポート2 | 月別およびデータベース別のアクセス拒否数 | 1(必須) |
データベースレポート3 | 月別およびサービス別の合計検索数および 合計セッション数 | 1(必須) |
熊本大学附属図書館:加藤 信哉(かとうしんや)
(1) King, D. W. et al. “The role of library consortia in electronic journal services”.The consortium site licence: Is it a sustainable model?Oxford,Ingenta Institute,2002,19.
(2) 2003 Swets Blackwell e-journal survey.Lisse,Swets Blackwell,2003,20p.
(3) ICOLC.”Statement of Current Perspective and Preferred Practices for the Selection and Purchase of Electronic Information (Update No.1: New Developments in E-Journal Licensing)”.(online),available from < http://www.library.yale.edu/consortia/2001currentpractices.htm >, (accessed 2003-10-12).
(4) Rowse,Mark.The consortium site license: a sustainable model? Libri.53(1),2003,1-10.
(5) Young,Mark.et al.ARL supplementary statistics 2000-01.ARL,2002,40p.(online),available from < http://www.arl.org/stats/pubpdf/sup01.pdf >, (accessed 2003-10-12).
(6) ICOLC.”Guidelines for statistical measures of usage of web-based information resources”.(online),available from < http://www.library.yale.edu/consortia/2001webstats.htm >, (accessed 2003-10-12).
(7) Shim,W.et al.Improving database vendors’ usage statistics reporting through collaboration between libraries and vendors.Coll Res Libr.63(6),2002,499-514.
(8) COUNTER.(online),available from < http://www.projectcounter.org/ >,(accessed 2003-10-12).
(9) COUNTER.Code of Practice.(online),available from < http://www.projectcounter.org/code_practice.html >,(accessed 2003-10-12).
(10) COUNTER.”Register of Vendors”.(online),available from < http://www.projectcounter.org/articles.html >, (accessed 2003-10-12).なお,Shepherd,P.T.COUNTER: from conception to compliance.Learned Publishing.16(3),2003,201-205.によれば,2003年中に遵守予定の出版社等には米国化学会,米国物理学協会,BMJパブリッシング・グループ,CABIインターナショナル,エブスコ,エルゼビア・サイエンス,エクステンザ,ハイワイヤー・プレス,物理学協会出版,リッピンコット・ウィリアムズ&ウィルキンズ,ネイチャー・パブリッシングおよびワイリーが含まれる。
加藤信哉. 電子ジャーナルの出版・契約・利用統計. カレントアウェアネス. 2003, (278), p.9-12.
http://current.ndl.go.jp/ca1512