CA1511 – Diffuseプロジェクト-欧州における電子情報交換に関わる標準ポータルサイトの構築- / 村上泰子

PDFファイルはこちら

カレントアウェアネス
No.278 2003.12.20

 

CA1511

 

Diffuseプロジェクト 
−欧州における電子情報交換に関わる標準ポータルサイトの構築−

 

 Diffuseは欧州における情報社会技術(Information Society Technologies: IST)計画のひとつで,電子情報の交換に関わる標準や仕様についての包括的なポータルサイトの構築を目的としたプロジェクトである。その維持・管理には主としてフィンランド情報社会開発センター(TEIKE)があたり,1995年に開始されたOII(Open Information Interchange)イニシアチブ(注)に端を発する。Diffuseはこれを受け,欧州研究開発第5次フレームワーク計画(FP5)の資金を得て,2000年2月から2003年1月までの3か年計画で実施された。FP5におけるIST計画は「ユーザーフレンドリーな情報社会」をテーマとし,その観点から4つの重点活動領域を設定している。Diffuseは4領域のうち「新しい業務方法と電子商取引」および「マルチメディアのコンテンツとツール」に関連する。

 欧州においてその後の情報政策の方向性を示したとされるバンゲマン報告(Bangemann Report)を受けて1994年に策定された行動計画の中でも既に明示されていたように,情報社会において欧州が競争力を維持・発展させていくためには,グローバルルールの策定に積極的に関与していくことが必要とされる。国際標準化活動はその重要な一部である。技術の発展速度が早まる中,ある技術が標準となるかどうかは普及率2〜3%の時点で定まるとの見方もあり,既に決定された標準に関する情報のみならず,迅速に幅広く標準に関する情報を提供する意義を見出すことができよう。

 インターネットが商用利用に開放されるようになり,ネットワークを活用してコンテンツを提供しようという試みが激増してきた1990年代半ばは,W3Cが組織されて,業界や団体による標準化活動が活発化し,ダブリンにおいてメタデータに関する議論が開始された時期にあたる。1998年にはW3CでXML勧告が出され,XMLが電子データ交換のユニバーサルな構文として受け入れられはじめた。こうした流れを受けてDiffuseも当初はXML関連の標準や仕様を中心にデータベースが構築されていった。2001年8月に発表された経過報告書によれば,130か国,週3,000サイトからのアクセスがあるという。その情報収集においては,適時に中立かつ質の高い情報を提供するという姿勢を重視し,参考情報やガイダンス情報を含めて,付加価値性の高い単一のアクセスポイントを提供することを目指している。

 Diffuseサイトでは,個々の標準・仕様の一覧,アルファベット順索引,検索エンジン,トピックマップのほか,個々の主要技術領域のコンセプトや発達段階について標準や仕様の応用面からの概観を提供するビジネスガイド,研究・技術開発プロジェクトのリスト,標準策定に関わっている各種フォーラムのリスト,なども用意されている。標準策定プロセスには1990年代後半から,国際標準化団体がトップダウンで策定するデジュール標準,ある規格が広く使用されて事実上の標準として機能するデファクト標準のほかに,同一業種の複数の企業等がフォーラムあるいはコンソーシアムを作成して規格の相互調整を行うという方法も現れた。標準フォーラムのリストが必要とされる背景にはこのような事情がある。

 図書館関連の標準や仕様も,相互貸借,検索,書誌,電子データ交換,統計,MARC,メタデータなど幅広くカバーされている。

 2003年1月にFP5の期間が終了し,今後Diffuseサイトがどのように維持管理されていくか,その体制については未定である。次段階FP6におけるISTの重点活動領域は,「市民および産業界が最も関心を持つ技術領域への研究の再統合」,「コミュニケーションおよびコンピュータの基盤」,「コンポーネントとマイクロシステム」,「情報管理とインタフェース」である。DiffuseがFP6でも引き続きプロジェクト資金を獲得することができるかどうか。そのひとつの道筋を2002年12月開催のDiffuse最終会議(於ブリュッセル)に見ることができる。最終会議では今後のウェブ社会をリードする技術として,ウェブ上での分散処理を実現する「グリッド・サービス」と,XML,RDF,オントロジーなどの階層的構成によりウェブ上での意味的処理を可能にする「セマンティック・ウェブ」とが取り上げられた。すでに関連する数多くの技術が提案されている現在,Diffuseはこれらの技術をターゲットとして標準化合意を推進する過程を支援することに,自らの存続をかけるものと見られる。

梅花女子大学文学部:村上 泰子(むらかみやすこ)

(注)OIIイニシアチブは欧州委員会情報社会総局のIMPACT2プログラムの一部として発足し,INFO2000(CA1068参照)のもとで,電子情報の交換を促進するような標準や仕様についての情報を提供していた。

 

Ref.

The Diffuse Project Home Page.(online),available from < http://www.diffuse.org/ >,(accessed 2003-09-16).

Li,Man-Sze.Diffuse: Interim Report of the IST Diffuse Project.Diffuse,2001,9p.

Diffuse.Convergence of Web Services,Grid Services and the Semantic Web for delibering e-Services?(online),available from < http://www.diffuse.org/conference3-conclusions.html >,(accessed 2003-09-16).

European Commission.The priorities of the Sixth Framework Programme 2002 – 2006(RTD Info Special edition).European Commission,2002.32p.(online),available from < http://europa.eu.int/comm/research/rtdinfo/pdf/rtdspecial-fp6_en.pdf >,(accessed 2003-09-16).

European Commission.Europe’s Way to the Information Society – An Action Plan.19.07.1994.(online),available from < http://europa.eu.int/ISPO/docs/htmlgenerated/i_COM(94)347final.html >,(accessed 2003-11-10).

 


村上泰子. Diffuseプロジェクト−欧州における電子情報交換に関わる標準ポータルサイトの構築−. カレントアウェアネス. 2003, (278), p.8-9.
http://current.ndl.go.jp/ca1511