cOAlition S、国際STM出版社協会の「権利保持戦略」に対する懸念表明へ反論

2021年2月3日付で、cOAlition SによるプランSの実施に関連した見解・インタビュー・方法等を紹介するブログ“sOApbox”に、cOAlition SのCoordinatorであるRobert Kiley氏とExecutive DirectorであるJohan Rooryck氏の連名の声明が掲載されています。

この声明は、同日付で国際STM出版社協会が発表したプランSの「権利保持戦略」に対する懸念表明について、同戦略に対する誤った認識に基づいたものであるとして反論する内容です。cOAlition Sは、国際STM出版社協会の懸念表明で示された点について、主に次のように説明しています。

・出版社版(Version of Record)論文の価値の低下に対する懸念が示されているが、プランSは論文処理費用(APC)・転換契約・転換雑誌等への支援を通して、出版社版論文のオープンアクセス(OA)化を積極的に進めている

・出版社が査読の管理に多大なリソースを割いている点は認識しており過小評価していないが、査読は研究コミュニティが自発的に行う営為である点には留意すべきである

・長年尊重されてきた学問の自由を損なっているという指摘は具体性を欠いており、そのようなことが実際に起こることはまず想定できない

・引用は出版社版から行う条件を定めるなど著者最終稿との関係性の明記が容認されていることや、論文出版時にプレプリントサーバArXivで盛んに行われる出版社版論文や著者最終稿の再投稿が出版社の収益に影響しているように見えないことなどからも、出版社版論文の価値の低下が起こるとは考えづらい

・「権利保持戦略」の活用は著者固有の権利であり、懸念表明が指摘するような個々の雑誌への相談は不要である

・出版社には、公開に関する優先権を主張して投稿された論文をリジェクトするという選択肢もある

結論として、cOAlition Sは出版社版論文の価値を認識しており、公正かつ合理的で透明性があれば、OA化のための費用を負担する用意はできているが、出版社は価格に見合った価値を提供していることを研究コミュニティに証明する必要があると主張しています。

cOAlition S response to the STM statement: the Rights Retention Strategy restores long-standing academic freedoms(sOApbox,2021/2/3)
https://www.coalition-s.org/blog/the-rights-retention-strategy-restores-long-standing-academic-freedoms/

参考:
国際STM出版社協会、出版社・学協会と連名でプランSの「権利保持戦略」に対する懸念を表明
Posted 2021年2月5日
https://current.ndl.go.jp/node/43214

cOAlition S、研究者の知的所有権を保護し不当なエンバーゴを抑止するための「権利保持戦略」を策定・公表
Posted 2020年7月16日
https://current.ndl.go.jp/node/41517

cOAlition S、オープンアクセス(OA)出版費用を設定する際に出版者が遵守すべき「Plan Sに基づく価格透明性のフレームワーク」を公開:2022年7月1日に発効
Posted 2020年5月20日
https://current.ndl.go.jp/node/40988

E2346 – 著作権とライセンスからみるオープンアクセスの現況
カレントアウェアネス-E No.406 2021.01.14
https://current.ndl.go.jp/e2346

CA1977 – 動向レビュー:学術雑誌の転換契約をめぐる動向 / 尾城孝一
カレントアウェアネス No.344 2020年6月20日
https://current.ndl.go.jp/ca1977

CA1990 – 動向レビュー:プランS改訂版発表後の展開―転換契約等と出版社との契約への影響 / 船守美穂
カレントアウェアネス No.346 2020年12月20日
https://current.ndl.go.jp/ca1990