カレントアウェアネス-E
No.406 2021.01.14
E2346
著作権とライセンスからみるオープンアクセスの現況
北海道大学附属図書館・山形知実(やまがたともみ)
「著作権はオープンアクセスへの鍵を握る課題」。SPARC Europeは,2020年9月に公開した報告書“Open Access: An Analysis of Publisher Copyright and Licensing Policies in Europe, 2020”の序文で,こう述べている。本報告書は,出版社各社の著作権・出版権に係る規約やオープンライセンス方針が,どの程度オープンアクセス(OA)の推進を支援できているかという調査の結果を,関係者への提言とともにまとめたものである。2021年1月に発効したPlan S(CA1990参照)に留意しつつ,内容を概説する。
調査は,次の4つの問いから組み立てられている。
- 著作権・ライセンスに関する出版社の方針は,著者等による学術論文のオープンな共有や,リポジトリへのセルフアーカイブをどの程度制限しているのか?
- 著作権・出版権の許諾や譲渡に関して,出版社と著者等の間ではどのような契約が結ばれているのか?
- 学術論文に対して,どのタイプのクリエイティブ・コモンズ・ライセンス(CCライセンス;CA1973参照)の付与が許可されているか?
- 規約や方針に関する情報へのアクセスしやすさと,内容の一貫性はどうか?
なお,Plan Sでは,資金助成を受けた研究成果の即時OA化の他に,著作権やライセンスに関して次の事項が求められている。
- 著者またはその所属機関が,出版物の著作権を保持すること。
- Plan Sの対象となるすべての出版物が,オープンライセンスの下で出版されること。CC BY(表示)を求めるが,CC BY-SA(表示-継承)またはCC0も許容する。助成の獲得者から特に正当な求めがあれば,CC BY-ND(表示-改変禁止)も認められることがある。
上記の問いに答えるため,調査は1. 大手学術出版社10社,および2. OA誌のデータベースDOAJに掲載されている欧州41か国2,986出版社の7,106誌を対象に行われた。調査1,2から,購読型論文のエンバーゴ期間,著者による著作権・出版権保持の可否やCCライセンスなどについて,道半ばと言える現況が見えてくる。具体的に見てみよう。
調査1によれば,購読型論文では,5社は著者が著作権を保持できず,4社は雑誌により異なった。SAGE社のみ全誌で著者が著作権を保持できるが,出版権は出版社への譲渡が求められている。また,著者最終稿のセルフアーカイブは全10社が認めているが,エンバーゴ無しはSAGE社とEmerald社のみであり,他社では分野による制限やエンバーゴがあった。ゴールドOA(E1287参照)論文については,ウェブサイトの記述をまとめて各社に確認を求めると,著作権は全10社で著者が保持可能,出版権も5社が保持できるとわかった。しかし,例えば出版権について,ウェブサイトからは当初9社が記述無しまたは保持できないと見られていた。このように,出版社の方針はウェブサイトに簡明に示されているとは限らなかった。ゴールドOA論文に対するCCライセンスは,10社ともPlan Sが求めるCC BYを可としている。多くの出版社がPlan Sの要求を視野に規約等を見直しており,少なくとも6社が今後2021年にかけて変更を行うという。
次に,調査2によれば,著者が著作権も出版権も保持できる雑誌が54.5%,いずれも保持できないのが39.5%だった。採用されているCCライセンスは, CC BYが45.5%で最多,次が最も制限の強いCC BY-NC-ND(表示-非営利-改変禁止)の27.4%で,出版社独自のライセンスも2.3%ある。一方,調査対象誌のうち44.9%で,著者に制限なしの出版権が認められていない。本来一定の条件のもとに万人に著作物の利活用を認めるのがCCライセンスであり,著者が出版できないことは不可思議で特筆すべき点である。著作権とライセンスに関するPlan Sの要求を満たすのは,調査対象誌のうち40.6%だった。なお,上記の一部は,報告書中の値に誤りがあると思われ,報告書と合わせて公開されているデータセットから筆者が算出した。
以上の内容を踏まえ,出版社にはエンバーゴを廃し,ゴールドOA論文ではCC BYを基本とし,ウェブサイト上でわかりやすく著作権等に関する情報を示すこと,研究者には,学術雑誌の編集者または著者の立場から,学術雑誌における現行の著作権方針について議論し,出版社に説明を求めることなどが推奨されている。また,cOAlition Sは2020年7月に権利保持戦略を定め,助成を受けた論文の著者最終稿または出版社版をCC BYでセルフアーカイブすることによって,購読型論文でも即時OAを可能とし,Plan Sに準拠できる道を整えている。この戦略を踏まえていると思われるが,研究機関や資金助成機関には,雇用契約や助成に際して,あらかじめ将来的な研究成果にCC BYを付与可能にしておくことなどが推奨されている。
著作権はOAを進める上で確かに大きな課題であり続けているが,欧州での転換契約(CA1977参照)やPlan Sを契機に,出版社の規約見直しなども少しずつ行われている。また,Plan Sは,学術雑誌やプラットフォームがPlan Sに準拠しているかを確認できるツールを公開予定である(ベータ版は公開済)。このようなツールは,今後著者や研究機関の業務の一助となるものだろう。
Ref:
“New in-depth OA look at copyright and licensing practices among journal publishers”. SPARC Europe. 2020-09-30.
https://sparceurope.org/oacopyrightlook2020/
“Open Access: An Analysis of Publisher Copyright and Licensing Policies in Europe, 2020”. Zenodo. 2020-09-28.
https://doi.org/10.5281/zenodo.4046624
“About CC Licenses”. creative commons.
https://creativecommons.org/about/cclicenses/
Plan S.
https://www.coalition-s.org/about/
“Plan S Rights Retention Strategy”. Plan S.
https://www.coalition-s.org/rights-retention-strategy/
“Development of Plan S Journal Checker Tool: tender results”. Plan S. 2020-07-03.
https://www.coalition-s.org/development-of-plan-s-journal-checker-tool-tender-results/
“cOAlition S releases the Journal Checker Tool, a search engine that checks Plan S compliance”. Plan S. 2020-11-18.
https://www.coalition-s.org/coalition-s-releases-the-journal-checker-tool/
林豊. ユネスコがOAポリシー策定を支援するガイドラインを発表. カレントアウェアネス-E. 2012, (214), E1287.
https://current.ndl.go.jp/e1287
船守美穂. プランS改訂版発表後の展開―転換契約等と出版社との契約への影響. カレントアウェアネス. 2020, (346), CA1990, p. 17-24.
https://doi.org/10.11501/11596736
数藤雅彦. Rights Statementsと日本における権利表記の動向. カレントアウェアネス. 2020, (343), CA1973, p. 19-23.
https://doi.org/10.11501/11471491
尾城孝一. 学術雑誌の転換契約をめぐる動向. カレントアウェアネス. 2020, (344), CA1977, p. 10-15.
https://doi.org/10.11501/11509687