CA2024 – 関西館の20年:この10年の動きを中心に / 小坂 昌, 辰巳公一, 依田紀久, 前田直俊, 松井祐次郎

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カレントアウェアネス
No.353 2022年09月20日

 

CA2024

 

関西館の20年:この10年の動きを中心に

関西館図書館協力課長:小坂 昌(こさかまさし)*1
関西館電子図書館課長:辰巳公一(たつみこういち)*2
関西館文献提供課:依田紀久(よだのりひさ)*3
関西館アジア情報課長:前田直俊(まえだなおとし)*4
関西館収集整理課:松井祐次郎(まついゆうじろう)*5

 

1. はじめに

 国立国会図書館(NDL)関西館は2002年10月に開館し、2022年10月で20周年を迎える。本誌では、開館10周年の2012年9月に、関西館の三つの基本機能(電子図書館事業、図書館協力事業、資料提供サービス)(1)に即して、関西館の当時の現況と以後の展望を述べる記事を掲載した(CA1774参照)。

 本稿では、2012年の記事以降、現在までの10年間に関西館が取り組んできた活動について概観する。また、2020年に書庫棟が新設された後の資料配置の現状と今後の課題についても述べる。

 

2. 電子図書館事業

2.1 事業の目標

 関西館は、NDLの電子図書館事業のうち「デジタル・アーカイブの構築」で主要な役割を果たし、次の三つを目標としている(2)

  • ① 利用における地域的格差を改善し、利用者の利便性を高めるために当館所蔵資料の電子化を推進する。
  • ② オンライン系情報資源を広く収集し、消失を防ぐ。
  • ③ 収集した資料の永続的な利用確保に力を注ぐ。

 ここでは、この三つの目標に係る直近10年の取組を紹介する。

 

2.2 所蔵資料のデジタル化、他機関デジタル化資料の収集およびそれらの提供(目標①)

 毎年度の通常予算でのデジタル化に加え、補正予算によるデジタル化(3)もあり、「国立国会図書館デジタルコレクション」(以下「デジコレ」)(4)で提供しているデジタル化資料は、この10年間で大幅に増加した(5)(表1)。

 他機関の所蔵資料をデジタル化した資料の収集も進んだ(6)。東京大学附属図書館がデジタル化した資料のうちNDLが未所蔵かつ絶版等の理由で入手困難なものを受け入れ、図書館向けデジタル化資料送信サービス(以下「図書館送信」;E1540CA1911参照)で送信を開始した(7)のは、その一例である。

 提供面では、図書館送信(8)および個人向けデジタル化資料送信サービス(以下「個人送信」;E2529参照)の開始(それぞれ2014年と2022年)が大きな変化であった。著作権処理によりインターネット公開している資料と併せて、絶版等の理由で入手困難な資料がNDLに来館せずに利用可能となり(表1)、利用における地域的格差の改善につながった。このほか、一部の図書・雑誌に対して光学文字認識(OCR)処理で作成したテキストデータを用いて、デジコレでの全文検索を2021年から可能にした(9)

 

表1 直近10年間のデジタル化資料に関係する数値の変化
  2012年7月 2022年5月
デジコレで提供しているデジタル化資料 約220万点 約311万点
うちインターネット公開の対象 約41万点 約57万点
うち図書館送信/個人送信の対象 約152万点
うち他機関の所蔵資料をデジタル化した資料 約3万点 約18万点

出典:CA1774および国立国会図書館のウェブサイト「資料デジタル化について」ならびに内部資料に基づき作成(10)

 

2.3 インターネット上の資料の収集(目標②)

 ウェブサイト等のインターネット資料は、公的機関のものは網羅的に、民間のものは選択的に収集し、国立国会図書館インターネット資料収集保存事業(WARP)(11)で公開している。東日本大震災、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)、2020年東京オリンピック・パラリンピック等の関連ウェブサイトを収集する取組も行った。着実な収集により、提供点数およびデータ量は大幅に増加した(表2)。

 また、オンライン資料(電子書籍・電子雑誌)の収集および電子版博士論文の収集を新たに開始した。

 公的機関のオンライン資料はインターネット資料として収集しているが、民間のオンライン資料は、無償かつ技術的制限手段(DRM)のないものに限定して、2013年から収集を開始し(E1464参照)、デジコレで公開している(12)(表2)。有償又はDRMが付されたオンライン資料(以下「有償等オンライン資料」)についても、2023年から収集を開始する予定である(13)

 電子版博士論文は、学位規則の改正により博士論文の公表がインターネット上で行われることになったことを受けて収集を開始し、2014年からデジコレでの提供を行った(表2)。

 

表2 直近10年間のインターネット資料・オンライン資料等に関係する数値の変化
  2012年3月 2022年5月
WARPで提供しているインターネット資料
 サイト数
7,053タイトル 1万3,886タイトル
データ量 138TB 2,455TB
デジコレで提供しているオンライン資料 約9万点 約141万点
うちオンライン資料収集制度による収集 約11万点
デジコレで提供している電子版博士論文 約9万点

出典:『国立国会図書館年報』平成23年度版および内部資料に基づき作成(14)

 

2.4 デジタル資料の長期保存に係る取組(目標③)

 デジタル資料には、媒体の脆弱性、再生装置の入手困難化、技術の陳腐化など課題があり、長期保存に係る対策と技術的な調査研究を電子情報部とともに進めている。

 収集したパッケージ系電子出版物については、USBメモリ等の資料の一部からマイグレーションを行い、2022年にデジコレで公開した(15)

 デジタル化資料については、長期保存に用いる媒体の変更についての検討を進めている(16)

 

2.5 今後の展望

 「デジタル・アーカイブの構築」の3つの目標では、①と②で大きな進展が見られ、③も一定の成果が見られた。

 今後の展望については、①は、「国立国会図書館ビジョン2021-2025」(以下「ビジョン2021-2025」)(17)で、資料デジタル化の加速を重点事業として掲げており、更なる進展を図ることが課題となる。②は、有償等オンライン資料の収集を着実に進めていくことが課題になる。③は、マイグレーションの検討を進め、安定的な長期保存を実現することが求められる。

 

3. 図書館協力事業

3.1 総合目録およびレファレンス協同データベース

 総合目録ネットワークおよびレファレンス協同データベースは、この10年間安定的に事業を継続し、着実に登録データの件数が増加している。いずれも、NDLが提供するサービス基盤を活用して、全国の図書館が相互に連携する仕組みとして定着している。ただし、総合目録ネットワークの参加館数は、近年大きな増加が見られず、ネットワークとしての広がりは、おおむね上限に達したと考えられる(18)

 

3.2 図書館員向け研修

 受講者が会場に集まって行う集合形式の研修(レファレンスサービス研修、アジア情報研修等)のほか、インターネットを通じて行う遠隔研修(eラーニング教材の提供、講義動画の配信)も充実させてきた。また、各図書館等が開催する研修会へのNDL職員の講師派遣は、従来はレファレンスサービス、資料保存等の業務を担当する東京本館の部局を中心として実施していたが、2015年度から関西館図書館協力課が一元的に運営を担うこととした。

 2020年度以降は、COVID-19感染拡大の影響を受け、集合形式の研修と講師派遣は、ウェブ会議システムを使用するオンラインでの実施が主となっている。オンラインの場合、参加者や講師の移動に伴う時間的、経済的な負担がないため、これまでは参加していなかった図書館からの申込が増えている。

 

3.3 障害者サービスを行う図書館への支援

 2014年1月から、音声DAISYや点字データをインターネット経由で提供する視覚障害者等用データ送信サービスを開始した。NDLが製作した学術文献の音声DAISYに加え、公共図書館が製作したデータも収集して提供対象とした。同年6月からは、サピエ図書館とのシステム連携を実現し、サピエ図書館の会員がこのサービスで提供するデータを利用できるようになった(19)。その後も、データの収集・提供範囲を拡大したほか(20)、マラケシュ条約(21)E1455E2041CA1831参照)に基づいて海外の機関から入手したデータも提供し、サービスの充実に努めている。このサービスは、障害者サービスを行う図書館を支援すると共に、個人の利用者にも直接データを提供しており、図書館協力の枠を超えた取組と言える。

 また、デジコレで図書等の全文検索を可能にするために作成したテキストデータ(2.2参照)を視覚障害者等用データ送信サービスで提供することを検討しており、2023年3月に提供を開始する予定である。

 

3.4 今後の展望

 研修や各種イベントについては、オンラインでの実施が増えたことにより、従来に比べて参加者の裾野が広がってきている。オンラインの場合は、国内向けと海外向けを厳密に区別することは不要であるため、今後は海外の日本研究司書や日本研究者に役立つ研修を行う機会を増やしていきたい。また、参加者が会場に集まる形式の研修やイベントは、単に以前の方法に戻すのではなく、参加者同士の交流など、会場に集まる意義をより重視した内容にする必要がある。

 視覚障害者等用データ送信サービスや個人送信に見られるように、デジタル化やデジタルアーカイブの進展に伴い、図書館を経由せず、インターネットを通じて個人に直接デジタルコンテンツが届けられるようになってきた。一方で、各図書館が作成したデータをNDLが収集したり、システム間でデータの連携を行ったりするなど、個別の図書館等が有するデジタル情報資源を集約・共有して提供する動きが加速している。利用者が多様な情報資源にアクセスできるようにするため、図書館や関係機関の相互協力が今後一層重要になると考えられる。

 

4. 利用者サービス

4.1 遠隔利用サービス

 関西館では、開館以来、図書館に対する資料の貸出し(図書館間貸出し)と、図書館および個人への遠隔複写サービスの窓口を担ってきた。これに加え、図書館および個人へのレファレンスサービスについても関西館の役割を拡大することとし、電話レファレンスについては2014年4月に、文書レファレンスについては2015年10月に、窓口業務を東京本館利用者サービス部から関西館に移管した(22)

 

4.1.1 図書館間貸出しおよび遠隔複写サービス

 図書館間貸出しおよび遠隔複写サービスの利用の推移は、図1のとおりである。

 

図1 関西館遠隔利用サービスの推移

出典:『国立国会図書館年報』平成23年度版~令和2年度版および内部統計に基づき作成(23)

 

 遠隔複写サービスにおいては、関西館での和雑誌等の資料の収集・蓄積が進み、またデジコレや契約データベースが拡充したことにより、これらの資料についてのサービスを担っている関西館の果たす役割は拡大している。COVID-19感染拡大においては、やむなくサービスを一時休止した(24)一方で、申込件数は総体的には大幅に増加し、サービス提供が長期間に渡り遅延する事態が生じた。件数の増加に現れている以上に、安定的な運用の舵取りが困難な期間であった。

 また、2014年1月に開始された図書館送信は、いわば、これまで物流により行ってきた図書館間貸出しをデジタルに置き換えるものともいえる。実際、開始当初は図書館間貸出しの申込件数は減少したが、近年は下げ止まっている。

 

4.1.2 レファレンス(電話・文書)

 NDLオンライン等の資料検索ツール、リサーチ・ナビをはじめとする調べ方案内情報が充実してきた。また、これらのツールの多くはインターネットに公開され、依頼者(個人、図書館)と職員が同様のツールを使えるようになってきた。これにより、レファレンス質問の内容、当館による案内の内容ともに、それを踏まえたものに変質しつつある(25)

 

4.1.3 今後の展望

 2022年5月に個人送信が始まり、2023年1月には、個人送信対象資料を自宅等でもプリントアウトできるようになる見込みである。これにより利用ニーズが即時的に充足されるケースが増大し、遠隔複写サービス等の申込みの一部を代替する可能性がある。その一方で、情報の発見可能性の高まりとともに、新たなニーズも喚起されていくものと考えられる。

 レファレンスについては、従来のニーズが情報発信により充足される一方で、利用者のニーズもその次を求める内容に高度化していくことが予想される(26)

 まずは情勢変化についての分析を行い、ニーズの変遷に寄り添いつつ丹念に対応にあたっていく必要があると考えている。

 

4.2 来館利用サービス

 関西館は、その地理的特性を踏まえ、関西文化学術研究都市(けいはんな学研都市)や近畿圏における文化学術研究のための情報拠点としての役割を期待されてきた。しかしながら、開館10周年を迎えたころの来館者数は、開館当初に比べ減少しており、時代とともに変遷していくニーズに即し、大規模な調査研究図書館としてより利便性の高い閲覧空間を用意することが、当時の課題として認識されていた。

 

4.2.1 閲覧室の利便性を高める取組

 潜在的な利用者へのアプローチを強化し、既存の利用者アンケートに加え、2015年からは近隣機関の要望把握のため意見交換を実施した(27)。あわせて、共催によるセミナー(28)や利用ガイダンス(29)を積極的に開催し、また2020年度からは、双方向的あるいは共創的な企画シリーズとして、関西館ライブラリーカフェを開始した(30)。これらの機会を通じて、より具体的なニーズの把握に努めた。

 量的・質的に把握したニーズを踏まえつつ、総合閲覧室に配置する資料の見直しを進めた。データベース等の代替検索手段がある資料等を書庫に移しスペースを捻出する一方で、ビジネス情報、健康医療情報、けいはんな学研都市等のコーナーを立ち上げた(31)。これらのコーナーには、開館以来蓄積してきた豊富な研究書を、入門書から専門書まで幅広く開架するようにした。結果として、辞書・事典類を中心とした閲覧室から、近刊の研究書や概説書のブラウジングも可能な閲覧室へと変質した。関西館の立地するけいはんな学研都市では、産学官民連携やオープンイノベーションが強みであり、隣接領域についての情報収集ニーズが高い。このようなニーズにフィットした空間に成長したと捉えている。

 2018年度には、地域資料のアーカイブ機能の期待に応え受け入れた「関西文化学術研究都市アーカイブ」について整理を完了し、利用提供を開始した(32)

 来館者数および各サービスの利用状況を図2に示す。来館者数は、COVID-19感染拡大により一時休館した2020年度は減少しているが、再開後は再び活発に利用されている(33)

 

図2 関西館来館サービスの推移

出典:『国立国会図書館年報』(平成23年度版~令和2年度版)および内部資料に基づき作成(34)

 

4.2.2 今後の展望

 手元の情報端末で行う情報収集の比重が増す中、個別具体的なニーズに合わせて調べ方を丁寧に案内する司書の役割、情報発信や選書等を通じて人と資料とをつなぐ役割、大規模調査研究図書館の閲覧空間や「場」に求められる役割については、いずれも改めて考えなおす時期に来ている。知的刺激が得られる空間としての価値を高めつつ、社会の抱える様々な課題の解決において、貢献度を高めていけるよう、歩を進めていきたいと考える。

 

4.3 アジア情報サービス

4.3.1資料収集

 アジア情報室が所蔵する図書は、2012年3月の約34万7,000冊から2022年3月の約50万4,000冊に増加した(35)。2014年には、それまでの幅広い分野を対象とした蔵書構築(36)の見直しを行い、国会サービスに有用なものを中心に社会科学の資料をより重点的に収集する方針に切り替えた。結果、所蔵するアジア言語図書の分野別割合はこの10年の間に、社会科学が27%から32%に増加し、人文科学が68%から63%に減少している。逐次刊行物は、学術雑誌や主要新聞を中心に約9,300タイトルを所蔵するとともに、従来のCNKI(37)やKISS(38)に加えて、DBpia(39)等の大型データベースを新たに導入し、それらを用いた遠隔複写サービスも提供している。

 

4.3.2 情報発信

 書誌情報については、2015年にビルマ語図書のデータ提供を開始し、これにより整理済みアジア言語資料の全てがオンライン目録で検索できるようになった。また、『アジア情報室通報』(40)の刊行、リサーチ・ナビの「アジア資料」(41)、「AsiaLinks」(42)、「アジア情報機関ダイレクトリー」(43)の維持・整備のほか、近年の新たな取組として、社会科学分野の新着資料紹介(44)や「アジア情報室ミニ展示」の実施(45)、書誌情報への解題等の付加情報の付与(46)、各種コンテンツの認知度向上に向けたTwitterやYouTube(47)での情報発信を行っている。

 

4.3.3 連携協力

 この10年間のうちに、従来のアジア情報研修(48)やアジア情報関係機関懇談会(49)に加え、関係機関との新たな連携協力を積極的に展開してきた。大学図書館やアジア研究者と協力してアジア情報の探索方法についてのガイダンスを実施したり、大学・公共図書館とアジア言語資料の書誌作成に関する勉強会を開催したりしている(50)ほか、当室の所蔵資料を研究者により一層活用してもらうため学会と連携した研究会(51)も開催している。

 

4.3.4 今後の展望

 10年前に挙げた課題のうち、「収集資料の質的強化」については社会科学を軸に強化を行った。ただし、「中国語、朝鮮語以外のアジア諸言語資料の充実」については、現地における書籍流通の制約等のため安定的な収集が実現できておらず、利用者ニーズに的確に応えられるよう着実に取り組んでいかなければならない。

 「情報発信の質的量的充実」については新たな取組も含めて進展が見られた。今後とも各種コンテンツを作成・維持するだけではなく、必要とするユーザに確実に届けられるよう効果的な情報発信を行っていきたい。

 「国内外の関係機関等との連携協力」のうち国内との連携は10年前に比して活発化したが、国外との連携については大きな進展はなかった。今後もより多くの関係機関や研究者と協力を深めながら、国外との連携も視野に入れつつ、アジア情報資源の流通に寄与できるよう努めていきたいと考えている。

 

5. 書庫棟の新設と資料移送

5.1 書庫棟の新設

 2014年11月17日、第8回国立国会図書館建築委員会(52)において、NDLの書庫の収蔵能力を確保するため、関西館第2期施設の第1段階の建設につき、国会に対する勧告がなされた(53)。増加し続ける蔵書に対し、東京本館および関西館の書庫の全体収蔵能力は、2019年度には限界に達すると予測されていたため、同年度を完成時期とすることが妥当とされた。

 これを受け、2014年度から設計業務を開始し、2016年9月から建築工事が始まり、3年半にもおよぶ工期の末、2020年2月に関西館書庫棟(以下「書庫棟」)が竣工した(E2257参照)。

 

5.2 資料移送

 NDLでは、計画期間を原則5年とする書庫計画を策定し、書庫への効率的な資料配置を図っているが、2017年を始期とする現行の書庫計画では期間を2023年度までの7年として、書庫棟竣工後の2019年度第4四半期から2021年度の約2年間におよぶ東京本館から関西館への大規模資料移送と、関西館本館書庫から書庫棟への資料移転が組み込まれた。COVID-19の影響により、移送の開始は2020年6月にずれ込んだが、当初の計画通り2021年度中に完了し、メディア変換済の和雑誌約49.5万点および和新聞約173.7万点のほか、洋図書経年資料約64.2万点、アジア地域発行洋新聞約23.6万点が書庫棟に運び込まれた。また、既に東京本館から関西館本館地下書庫へ移送されていた和図書、和雑誌等のメディア変換済資料約71.4万点を書庫棟へ移転した。

 さらにこの移送とは別に、2021年度以降大規模に実施しているデジタル化済みの原本などは、順次書庫棟へ移送されている。この事業により、2021年度に書庫棟に移送された国内刊行図書は、約42万点であった。2022年度も引き続き、デジタル化済み国内刊行図書約37万点の書庫棟への移送が予定されている。

 

5.3 次期書庫計画

 関西館では、国内刊行図書・雑誌に加え、科学技術関係資料、アジア関係資料、洋雑誌、博士論文等も多く所蔵しており、デジタル化済の東京本館資料の移送も含め、引き続き所蔵資料の増加への対応が必要である。今後は、書庫棟を含む関西館書庫全体における計画的かつ効率的な資料配置を図るため、2024年度を始期とする次期書庫計画の策定作業が課題となっている。

 

6. おわりに

 関西館が設置された目的は、所蔵資料の増加に対応するための大規模な書庫の確保と、情報通信技術の発展に対応した図書館サービスの提供である(54)。前者については、関西館開館以来、NDL全体の大規模収蔵施設としての役割を果たしており、2020年には書庫棟の新設も実現した。後者については、デジタルアーカイブや遠隔利用サービスの拠点としての機能を高め、特にインターネットを活用したサービスの提供に力を注いできた。

 また、関西地域に立地するという地理的条件をいかし、関西文化学術研究都市の研究機関や近畿圏の図書館との連携協力、東京本館での災害発生時に備えたバックアップ機能の強化にも努めてきた。

 NDLは、「ビジョン2021-2025」においてデジタルシフトの推進を掲げ、国のデジタル情報基盤を拡充し、その基盤を活用して情報資源と利用者を的確に結び付けることを目指している。このビジョンの下で、関西館の各事業・サービスをさらに発展させ、次の10年に向けて着実に歩みを進めていきたい。

 

*1 第1章、第3章、第6章を担当
*2 第2章を担当
*3 第4章1節、2節を担当
*4 第4章3節を担当
*5 第5章を担当

(1)“関西館の設置目的・基本機能”. 国立国会図書館.
https://www.ndl.go.jp/jp/kansai/about/functions.html, (参照 2022-06-27).

(2)“国立国会図書館電子図書館中期計画2004(2004年2月17日策定)”. 国立国会図書館.
https://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/11542361/www.ndl.go.jp/jp/dlib/project/plan2004.html, (参照 2022-06-27).

(3) 2014年度補正予算により約8.8万点の防災関係の図書・雑誌、2020年度補正予算により約30万点の図書のデジタル化を行った。

(4) 国立国会図書館デジタルコレクション.
https://dl.ndl.go.jp/, (参照 2022-06-27).

(5) NDL所蔵資料のデジタル化資料は、紙媒体の紙面の画像のみから録音映像資料の音声や映像まで対象が広がった。

(6) 2012年時点では、歴史的音盤アーカイブ推進協議会(HiRAC)が、SPレコードや金属原盤等に収録された音楽・演説等をデジタル化した「歴史的音源」の一部(約2万6,000点。2013年9月までに全約4万9,000点を公開。)程度であった。この10年間で、「日本占領関係資料」(米国国立公文書館等が所蔵する戦後の日本占領に関する米国の公文書等をデジタル化したもの)、「プランゲ文庫」(米国メリーランド大学が所蔵する戦後GHQが検閲のために集めた日本国内出版物のコレクションをデジタル化したもの)、「科学映像」(NPO法人科学映像館を支える会が科学分野の記録フィルムをデジタル化したもの)等を収集し、デジコレで公開した。

(7) 2015年に著作権法第31条第1項第3号の解釈が明確化され、大学図書館・公共図書館等がデジタル化した資料のうち、NDLが未所蔵かつ絶版等の理由で入手困難なものをNDLが収集し、図書館送信で全国の図書館等に対して送信することが可能となったことによるもの。デジコレでは2017年1月から提供を開始し、図書館等への送信も開始した。

(8) 2014年1月に開始した図書館送信は、2022年5月時点で、国内1,364館、海外5館が参加している。

(9) デジコレは、2022年12月にリニューアルを予定しており、検索結果の適合度順表示、画像検索機能等を実装するとともに、全文検索可能な資料の大幅な拡充を行う予定である。

(10)“資料デジタル化について”. 国立国会図書館.
https://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/12301396/www.ndl.go.jp/jp/preservation/digitization/index.html, (参照 2022-06-27).

(11)国立国会図書館インターネット資料収集保存事業(WARP).
https://warp.da.ndl.go.jp/, (参照 2022-06-27).

(12)このほか、WARPで収集したウェブサイトからオンライン資料に該当するものを切り出したもの(2022年5月現在約69万点)、国立情報学研究所の電子図書館事業(NII-ELS)の終了に伴いNII-ELSから2017年度~2018年度に移管を受けた学術論文等(約60万点)、NDL刊行物(約1万点)も含まれている。

(13)2022年5月の国立国会図書館法の改正により、有償等オンライン資料についてもNDLへの提供が義務付けられた。なお、長期間にわたり利用可能であり消去されないと認められるリポジトリ収録コンテンツについては、収集対象から除外され、リポジトリでの利用提供に委ねることとされている。
“2022年5月26日 オンライン資料の収集に関する国立国会図書館法の一部改正について”. 国立国会図書館.
https://www.ndl.go.jp/jp/news/fy2022/220526_01.html, (参照 2022-06-27).

(14)国立国会図書館. 国立国会図書館年報平成23年度. 2012, 305p.
https://doi.org/10.11501/4020281, (参照 2022-06-27).

(15)媒体がUSBメモリ、MO、書換型光ディスクのもの338点を2022年3月に公開した。長期保存に向いていない媒体や再生装置が入手困難になりつつある媒体の利用を確保する観点から優先してマイグレーションを行った。

(16)NDLでは、デジタル化した資料のデータをBD-RやDVD-Rなどの光ディスクに収録して書庫で保存している。光ディスクは、定期的なマイグレーションの負担が大きいため、リニアテープオープン(LTO)を用いた保存システム又はクラウドに保存することとした。

(17)“国立国会図書館ビジョン2021-2025 -国立国会図書館のデジタルシフト-”.国立国会図書館.
https://www.ndl.go.jp/jp/aboutus/vision_ndl.html, (参照 2022-06-27).

(18)各事業の参加館数の変化は、次のとおりである。なお、館数にはNDLを含む。
総合目録ネットワーク事業
2002年3月末 512館(うち、データ提供館39館)
2012年3月末 1,101館(うち、データ提供館67館)
2022年3月末 1,152館(うち、データ提供館68館)
レファレンス協同データベース事業
2004年3月末(実験事業の初年度末) 148館
2012年3月末 560館
2022年3月末 881館

(19)サピエ図書館.
https://library.sapie.or.jp/, (参照 2022-06-27).
サピエ図書館において、NDLの視覚障害者等用データ送信サービスのデータを検索し、ダウンロードまたはストリーミングで利用できるほか、国立国会図書館サーチの障害者向け資料検索でサピエ図書館の書誌データを検索することも可能である。

(20)収集対象とする機関を著作権法第37条第3項により視覚障害者等のための著作物の複製が認められる機関全体に拡大し、また、データ種別にマルチメディアDAISY、テキストDAISY、プレーンテキストを追加した。

(21)NDLでは、2019年11月からマラケシュ条約に基づいて視覚障害者等用データの国際交換(海外からの入手、海外への提供)を行っている。

(22)『国立国会図書館年報』平成26年度版および内部資料による。
国立国会図書館. 国立国会図書館年報平成26年度. 2015, p. 32.
https://doi.org/10.11501/9550075, (参照 2022-05-27).

(23)“国立国会図書館年報”. 国立国会図書館.
https://www.ndl.go.jp/jp/publication/annual/index.html, (参照 2022-05-27).

(24)作業体制の維持が困難となったため、2020年4月15日から5月19日まで申込受付を休止した。

(25)2015年時点での全館的な変化については下記文献で紹介している。
中野真理. 特集, レファレンスサービスの変容: 国立国会図書館におけるレファレンスサービスの現状と今後の展開. 図書館雑誌. 2015, 109(5), p.288-289.

(26)国立国会図書館関西館図書館協力課編. 日本の図書館におけるレファレンスサービスの課題と展望. 2013, 256p., (図書館調査研究リポート, no. 14).
https://doi.org/10.11501/8173850, (参照 2022-05-27).

(27)国立国会図書館. 国立国会図書館年報平成27年度. 2016, p. 35-37.
http://doi.org/10.11501/10224291, (参照2022-05-27).

(28)事例を紹介した記事として、以下のものがある。
関西館で柿渋のイベント!? : 柿渋の魅力と課題、そして情報基盤を考える. 国立国会図書館月報. 2017, (670), p. 18-21.
https://doi.org/10.11501/10268624, (参照 2022-05-27).
関西館の地域連携を目指す取り組み :ビジネス情報月間「イノベーションについて考える」を中心に. 国立国会図書館月報. 2016, (663), p. 20-23.
https://doi.org/10.11501/9999116, (参照 2022-05-27).

(29)例えば2016年度には126回1,904人に対し、2017年度には98回1,371人に対しガイダンスを実施している。
“国立国会図書館年報”. 国立国会図書館.
https://www.ndl.go.jp/jp/publication/annual/index.html, (参照 2022-05-27).

(30)例えば、2021年8月には「ジャパンサーチ・タウンで京阪奈を盛り上げる:アーバンデータチャレンジ京都2021」、2022年3月には「独学を考える―南方熊楠の方法から」(E2509参照)を開催した。

(31)ビジネス情報コーナー、健康医療情報コーナーは2015年度に、また、けいはんな学研都市コーナーは2016年度に開設した。

(32)けいはんな学研都市の建設プロジェクト関係者から寄贈を受けた、都市の建設に関連する調査報告書および会議資料等約580点からなる。
“けいはんな学研都市に関する資料”. リサーチ・ナビ.
https://rnavi.ndl.go.jp/jp/collection/post_36.html, (参照 2022-07-05).

(33)2020年4月11日から臨時休館した。その後、座席の配置を見直すなどの対策を行い、6月4日から再開した。来館者数は、2021年度には7万403人となった。
“国立国会図書館年報”. 国立国会図書館.
https://www.ndl.go.jp/jp/publication/annual/index.html, (参照 2022-05-27).

(34)“国立国会図書館年報”. 国立国会図書館.
https://www.ndl.go.jp/jp/publication/annual/index.html, (参照 2022-05-27).

(35)『国立国会図書館年報』平成23年度版および内部資料による。
国立国会図書館. 前掲. 2012.

(36)富窪高志. “国立国会図書館のアジア情報サービスの現状と課題”. アジアへの知的探求と図書館サービスの新展開 : シンポジウム記録集. 国立国会図書館関西館編. 国立国会図書館, 2004, p. 68-74.
https://doi.org/10.11501/1001817, (参照 2022-05-27).

(37)“アジア情報室所蔵資料の概要: 中国関係資料: 電子資料”. リサーチ・ナビ.
https://rnavi.ndl.go.jp/jp/asiaresource/asia_02data_chn_elect.html, (参照 2022-07-05).

(38)“アジア情報室所蔵資料の概要: 韓国・北朝鮮関係資料: 電子資料”. リサーチ・ナビ.
https://rnavi.ndl.go.jp/jp/asiaresource/asia_02data_korea_elect.html, (参照 2022-07-05).

(39)前掲.

(40)“アジア情報室通報”. 国立国会図書館デジタルコレクション.
https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/3051635, (参照 2022-05-27).

(41)“アジア資料”. リサーチ・ナビ.
https://rnavi.ndl.go.jp/jp/asiaresource/, (参照 2022-07-05).

(42)“AsiaLinks -アジア関係リンク集-”. リサーチ・ナビ.
https://rnavi.ndl.go.jp/asialinks/jp/index.html, (参照 2022-07-05).

(43)“アジア情報機関ダイレクトリー”. リサーチ・ナビ.
https://rnavi.ndl.go.jp/asiadirectory/jp/index.html, (参照 2022-07-05).

(44)“アジア情報室の社会科学分野の新着資料紹介”. リサーチ・ナビ.
https://rnavi.ndl.go.jp/jp/asiaresource/shinchaku/list.html, (参照 2022-07-05).

(45)“アジア情報室ミニ展示”. リサーチ・ナビ.
https://rnavi.ndl.go.jp/jp/gallery/asia_exhibition.html, (参照 2022-07-05).

(46)例えばhttps://id.ndl.go.jp/bib/029643130。「別タイトル」に邦訳タイトル、「注記」に解題、「内容細目」に目次の邦訳を付与している。

(47)“国立国会図書館公式チャンネル-関西館”. YouTube.
https://www.youtube.com/channel/UCHpDnv60i1LxOszXgBSE7DA/playlists?view=50&sort=dd&shelf_id=3, (参照 2022-07-05).

(48)“アジア情報研修”. リサーチ・ナビ.
https://rnavi.ndl.go.jp/jp/asiaresource/asia-workshop/list.html, (参照 2022-07-05).

(49)“アジア情報関係機関懇談会”. リサーチ・ナビ.
https://rnavi.ndl.go.jp/jp/asiaresource/asia-meeting/list.html, (参照 2022-07-05).

(50)“その他の研修・ガイダンス・情報交換会”. リサーチ・ナビ.
https://rnavi.ndl.go.jp/jp/asiaresource/guidance/list.html, (参照 2022-07-05).

(51)丹治美玲. 新たな現代中国研究の推進―国立国会図書館関西館および東洋文庫の所蔵資料をめぐって―国立国会図書館関西館・(公財)東洋文庫共催研究会 概要報告―. アジア情報室通報. 2021, 19(3), p. 10-11.
https://doi.org/10.11501/11778019, (参照 2022-05-27).

(52)国立国会図書館建築委員会は、国立国会図書館建築委員会法(昭和23年2月9日法律第6号)に基づき、NDL施設の建築について、両議院の議長を経由して国会に勧告することを任務として設置されたものである。委員長にはNDLの館長、委員には各議院の議院運営委員長、国土交通大臣および両議院の議長が任命する建築専門家1人が充てられている。

(53)“平成26年11月 国立国会図書館建築委員会が国会に対し関西館第2期施設(第1段階)の建設を勧告”. 国立国会図書館.
https://www.ndl.go.jp/jp/kansai/about/history_201411.html, (参照 2022-05-27).

(54)“関西館の設置目的・基本機能”. 国立国会図書館.
https://www.ndl.go.jp/jp/kansai/about/functions.html, (参照 2022-06-27).

 

[受理:2022-08-18]

 


小坂昌, 辰巳公一, 依田紀久, 前田直俊, 松井祐次郎. 関西館の20年:この10年の動きを中心に. カレントアウェアネス. 2022, (353), CA2024, p. 2-8
https://current.ndl.go.jp/ca2024
DOI:
https://doi.org/10.11501/12345002

Kosaka Masashi
Tatsumi Koichi
Yoda Norihisa
Maeda Naotoshi
Matsui Yujiro
20 Years of the Kansai-kan: The Progress of the Last Decade