1. 中国国家図書館概況

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1. 1. 役割・機能

 中国国家図書館は中華人民共和国唯一の国立図書館であり、文化部(「文化省」に相当する。)が所管する。

 その機能としては、「国の総書庫」「国家書誌センター」「国家古籍保護センター」の3つが掲げられている。このうち「国家古籍保護センター」機能は、国の重点政策として2007年から推進されている「中華古籍保護計画」と連動する形で新たに加えられたものである。

 3つの機能は、より具体的には次のように説明されている(1)

  • 国内外の出版物の収集と保存を責務とし、全国の資料保存事業の指導と調整を行う。
  • 中央政府機関、社会団体及び一般公衆に対し、文献情報とレファレンスサービスを提供する。
  • 図書館学理論及び図書館事業についての研究を行い、全国の図書館の業務を指導する。
  • 対外的に文化交流機能を発揮し、国際図書館連盟(IFLA)その他関係国際機関に参加し、国内外の図書館の交流協力を促進する。

 

1. 2. 略史

 国家図書館の前身は、清朝末期に創設が決まった京師図書館である。1909年(宣統元年)9月9日、宣統帝によって京師図書館設立の裁可が下された。翌1910年(宣統二年)には、中国で初めての図書館法規となる「京師及各省図書館通行章程」も制定された。京師図書館は広化寺を庁舎と定め開館準備を進めたが、完成を見ぬうちに清朝は滅亡する。正式に開館するのは、辛亥革命を経て中華民国に移管された後、1912年8月27日のことであった。1916年には正式に国内出版物の納本を受け入れるようになり、国立図書館としての機能を拡充していく。1928年には館名が国立北平図書館と変更された。所在地も幾度か変遷した。1931年になって文津街庁舎が完成し、当時の中国国内で最大規模の、最も先進的な図書館となった。

 中華人民共和国成立後、1950年3月6日、国立北平図書館は国立北京図書館と名を改め、1951年6月12日には北京図書館と改称された。文津街の庁舎は増築を重ねたが、蔵書の増加と業務の拡大に伴い手狭となり、周恩来首相の指示の下、1975年3月、北京図書館新館の建設が決まった。新館が落成したのは1987年、所在地は北京市西部の白石橋である。1998年12月12日、北京図書館は国家図書館と改称され、対外的には中国国家図書館と称されることになった。2004年12月からは、国家図書館二期プロジェクトとして国家デジタル図書館の建設が進められた。国家デジタル図書館は2008年9月9日に開館し、国家図書館はまた新たな段階に入った(2)

 

1. 3. 組織・人員

 国家図書館は文化部が所管する非営利の事業単位(3)で、2009年末現在の職員数は、館長1名、副館長5名を含め、計1,365名である。

 内部組織は行政部門と業務部門の2つに大別され、計26の部署で構成される。行政部門の各部署は総務、人事、会計、庁舎管理、国際協力などの事務を司る。業務部門の各部署は収集整理、レファレンス、閲覧などの図書館業務を司る。さらに、中国図書館学会事務局、国家図書館出版社など、組織上の位置付けは直属ではないが、国家図書館内に事務所を置いて密接な関係を有している機関もある(図1.1、巻末「資料2. 中国国家図書館組織一覧」参照)。

 

図1.1 中国国家図書館組織図(2010年9月現在)

図1.1 中国国家図書館組織図(2010年9月現在)

 

 行政部門は業務部門の監督・調整も行っており、その担当部署として業務管理処が設置されている。業務部門に属する各部は、館全体の基本指針である五か年計画(4)に基づき、毎年初めに1年間の具体的な業務遂行計画を策定して、業務計画書を作成・提出する。業務管理処はこの計画書を基に、半年ごとに各部の業務遂行状況について評価を行い、その結果によっては、報奨金または課徴金の措置がなされる。評価の対象となる指標は、例えば収集部門では収集率、納本率など、目録作成部門では作成データの質、作成にかかる時間、資料供用の正確さなど、外国語資料部門では選書の質や重複率などである。そのほか、複数の部門にわたる事項の調整についても、業務管理処が担当している。

 組織運営においては、各部門が職員採用の裁量を有しており、また部門ごとに給与体系が異なっているなど、各部門の独立性が強い点に特徴がある。部門間の人事異動は、それほど頻繁には行われない。

 職員は年頭に契約書を提出することが義務付けられており、年末に1年間の総括報告を行って、業績評価が下される。

 職員の身分体系としては、①給与に係る等級、②ライン(部長、副部長など)、③職称の3系統がある。職称は、図書館業務については「研究館員」、「副研究館員」、「館員」、「助理館員」、「管理員」の5つに分けられており、学位、勤続年数、発表論文数などに基づく評価制度によって認定される。

 国家図書館は、政府の推進する「文化体制改革」のモデル機関の1つに指定され、近年、政府の方針に基づき、組織運営、人事管理などについて新たな制度の試行的な導入が進められてきた。人事管理面では幹部職員の若年化と能力主義の徹底が図られ、かつての年功序列的な組織形態は様変わりした。管理職の任命には、館内外を対象とした公募制が実施され、その任期は3年である。また、新卒者の採用は、大学院修士課程修了以上を基本としている。

 

1. 4. 施設

 現在の国家図書館は、表1.1のとおり北京市内の2か所に分かれている。市内西部の文教地区にある本館は、1987年完成の一期館と2008年完成の二期館からなる。また、北京市中心部、故宮近くにある元の文津街庁舎が現在、古籍館となっている。

 建物延べ面積約25万m2は、世界の国立図書館で第3位の大きさである。

 

表1.1 中国国家図書館の庁舎

 建物延べ面積完成年所在地
本館  北京市海淀区中関村南大街33号
 一期館(南区)14万m21987 
 二期館(北区)8万m22008 
 計  22万m2  
古籍館3万m21931北京市西城区文津街7号
 総計  25万m2  

 

図1.2 本館二期館

図1.2 本館二期館

 

図1.3 本館一期館

図1.3 本館一期館

 

図1.4 古籍館

図1.4 古籍館

 

1. 5. 所蔵資料

 国家図書館は国内出版物を網羅的に収集している。正式出版物だけでなく、市場に流通しない非正式出版物の収集も重視される。国務院学位委員会の指定する学位論文所蔵館でもある。台湾・香港・マカオで刊行された資料については専門の資料室を設けている。外国資料は1920年代から購入が開始され、現在、外国資料の所蔵は中国国内で最も多く、言語の種類は115に上る。国際連合資料の寄託図書館にも指定されている。

 2009年末現在の蔵書総数は27,783,105点である。また、2009 年の年間資料受入点数は829,106点である。貴重な蔵書としては、甲骨資料、敦煌遺書、『趙城金蔵』、『永楽大典』、『文津閣四庫全書』、1470年代のインキュナブラなどがある。

 近年はデジタル資源の構築も重視され、データ総容量は2009年末現在、327.8TBに達している。そのうち、2.02TBが電子新聞の納本、70TBがデータベースの購入、239.1TBが蔵書のデジタル化、16.18TBがウェブアーカイビング等によるものである。電子資料の所蔵点数は、電子図書約1,515,000冊、電子ジャーナル約44,000タイトル、電子新聞約3,100タイトルなどである(5)

 

1. 6. 納本制度

 1916年3月6日、中華民国教育部から「国内で書籍を出版するときは出版法に基づいて必ず登録を行い、登録された図書はいずれも1部を京師図書館(訳注:現国家図書館)に納めなければならない」という内容の通達《教育部片奏内务部立案出版之图书请饬该部分送京师图书馆收藏摺》が出された。これによって、国家図書館に対する出版物の納本が正式に制度化された。以来今日まで一貫して、法令(通達等により国家図書館は納本資料の受入機関に指定されている。

 現行法では、「出版管理条例」(国務院令第343号)をはじめとする関係法規に納本規定がある。具体的な納本部数、納本期限、罰則等については、1991年に新聞出版署から出された「『図書・雑誌・新聞見本の納入方法について』を再通知する通知」((91)新出図字第990号)などに定められている。

 1990年代以降、電子出版物や録音映像出版物の納本が正式に開始された。また、学位論文は「中華人民共和国学位条例暫定実施方法」(1981年5月20日)に基づいて納本され、ポストドクター研究報告書も国家図書館の納本対象と規定されている。

 

1. 7. 利用者サービス

 国家図書館は1年365日開館し、1日当たりの平均利用者数は延べ約12,000人である。利用資格は満16歳以上で、利用者カードの種類に応じて館内閲覧、貸出などのサービスが利用できる。また、本館二期館内には2010年5月、6~15歳を利用対象とする少年児童図書館もオープンした。

 2008年9月の本館二期館、即ち、国家デジタル図書館の開館を機に、国家図書館の利用者サービスは新たな段階に入った。本館一期館は外国語資料や国内外の専門資料を中心に、専門性の高い図書館サービスが行われる。本館二期館は中国語資料や電子資料を中心に、一般閲覧サービスが行われる。古籍館では古典籍資料が利用に供される。

 レファレンスサービスは、有料サービスも含め、主題検索、科学技術文献最新情報調査、委託調査、情報配信サービスなど幅広く業務を拡大している。オンラインでのチャットレファレンスも実施している。近年特に重視しているのが立法・行政に対するサービス機能の強化であり、新たに設置された立法・政策決定サービス部がこの業務を担当している。また、ホームページの拡充により、インターネットを通じた情報発信を強化するとともに、展示会や講演会、セミナーなどの活動にも力を入れている。

 

1. 8. 業務機械化とデジタル化の歩み

 国家図書館で業務機械化に向けた検討が開始されたのは、新館の建設が決まった1975年のことである。1980年代に入ると書誌作成をはじめとして業務機械化への取組みが本格化した。中国語書誌データベースの構築は1987年から始まり、1989年には大型コンピュータ総合管理システムが稼働した。1995年からはデジタル化とネットワーク構築に向けた検討が始まった。1995年に電子閲覧室が開室、1997年には国家図書館ホームページが開設され、また、1999年にはギガレベルの館内LANが本格稼働している。図書館システムに関しては、2003年以降、Ex Libris社のALEPH500図書館統合管理システムが採用されている。

 デジタル図書館の構築に関する研究開発は1996年から始まった。その後、「国家デジタル図書館プロジェクト」が立案され、国家図書館におけるデジタル資源の構築と利用提供体制の整備は、国家重点プロジェクトとして計画的に進められ、今日に至っている。

(岡村志嘉子、前田直俊)

 

(1) “关于国图 历史沿革”. 中国国家图书馆・中国国家数字图书馆.
http://www.nlc.gov.cn/service/gygt_lsyg.htm, (参照 2010-09-02).

(2) 中国国家図書館の沿革は、以下の記述による。
陈源蒸ほか編. 中国图书馆百年纪事(1840-2000). 北京图书馆出版社, 2004, p. 2.
李致忠編. 中国国家图书馆. [中国国家图书馆], 1999, p. 6-8.
“关于国图 历史沿革”. 中国国家图书馆・中国国家数字图书馆.
http://www.nlc.gov.cn/service/gygt_lsyg.htm, (参照 2010-09-02).

(3) 主に公益性の高い分野で実事業を担当する組織・機関。

(4) “关于国图“十一五”规划纲要”. 中国国家图书馆・中国国家数字图书馆.
http://www.nlc.gov.cn/service/gygt_ghgy.htm, (参照 2010-09-02).

(5) “Annual Report to CDNL 2010”. 国立国会図書館.
http://www.ndl.go.jp/en/cdnlao/meetings/pdf/CR2010_China.pdf, (参照 2010-09-02).