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4. 1. 電子図書館業務
電子図書館事業は、国家図書館が近年特に重点的に取り組んでいる事業の一つである。国家図書館では長らく、パッケージ系電子出版物、ネットワーク系電子出版物、デジタル化事業、ホームページ管理など、電子図書館事業関連の業務を担当する部署が複数に分散していた。2007年末の機構改革により、新たにデジタル資源部が設置され、電子図書館に関するこれらの業務は、全てデジタル資源部に集約された。電子図書館関連業務を一元的に担当するデジタル資源部は、その後も人員増など業務体制の強化が図られている。本節では、デジタル資源部の業務の概況を紹介する。
同部内には、収集を担当するデジタル資源収集組、組織化を担当するデジタル資源組織化組、所蔵資料のデジタル化を担当する文献デジタル化組、利用提供を担当するデジタル資源サービス組、ホームページを管理するウェブサイト管理組、著作権を始め法律に係る業務を担当する著作権管理組、国家デジタル図書館分館に係る事務を担当する国家デジタル図書館分館サービス組の7つの組が設けられている。職員は107名である。
(1)収集
デジタル資源収集組は、パッケージ系電子出版物【实体型电子出版物】の収集ならびに国内オンラインデータベースの契約事務を担当している(1)。職員は12名である。
2008年度年報によると、パッケージ系電子出版物の年間の受入数は、録音映像資料が7,383種15,399点、その他の電子出版物が2,765種4,945点である。収集経費は、資料購入費全体の約8%を占めている(2)。
電子出版物については、「電子出版物出版管理規定」(3)及び「録音映像製品出版管理規定」(4)によって、国家図書館、版本図書館、新聞出版総署に納本するよう定められている。従って、パッケージ系電子出版物の収集においては、納本が約70%と主な手段となっているものの、納本漏れも多く、管理体制の不十分さが指摘されている(5)。
一方、オンラインデータベースについては、納本に関する法的な枠組みがないため、購入契約や許諾契約など他の方法によって収集している。
(2)組織化、インターネット情報の収集、ナビゲーションサービス
デジタル資源組織化組は、パッケージ系電子出版物とネットワーク・データベースの組織化、インターネット情報の収集組織化、ナビゲーションサービスなどを担当している。職員は19名である。
①インターネット情報の収集
国家図書館では、2003年1月より「ウェブ情報資源収集保存実験プロジェクト(Web Information Collection and Preservation:WICP)」を実施しており、主に政府ウェブサイトと主題ウェブサイトを対象とした選択的な収集を行っている(6)。
政府ウェブサイトの収集は、「gov.cn」ドメインを対象とする。収集・組織化したウェブサイトは、収集した時点の状態のまま保存して館内PCで閲覧提供する。さらに、「中華人民共和国政府情報公開条例」(7)の施行にともない、政府情報の総合的な検索窓口としての機能を果たすため、2009年4月から「中国政府公開情報統合サービスプラットフォーム【中国政府公开信息整合服务平台】」(8)を公開し、WICPで収集した政府情報のほか、各政府機関ウェブサイトへのリンクなどを提供している(図4.1)。さらには、過去に紙媒体で出された政府出版物のデジタル化を行い提供することも視野に入れている(9)。
主題ウェブサイトの収集は、北京オリンピックや四川大地震など、政治、文化、経済、科学技術などの分野において、その年の大きな出来事を中心に主題を設定し、関連ウェブサイトの収集を行っている。これまでに30主題500種のサイトを収集・保存している。収集したウェブサイトは「中国事典」(10)でインターネットを通じて提供している(図4.2)。
図4.1 中国政府公開情報統合サービスプラットフォーム
図4.2 中国事典
②ナビゲーションサービス
ナビゲーションサービスは、「図書館界【图书馆界】」、「新農村建設【新农村建设】」、「電子逐次刊行物ナビゲーション【电子报刊导航】」の3種類がある。
「図書館界」(11)は国家図書館が主体となって作成するポータルサイトで、図書館に関する最新情報、会議情報、研究動向、機関リポジトリサービス、そして図書館、文書館、類縁機関のホームページへのリンクなどを提供する(図4.3)。
「新農村建設」(12)は農業科学院がコンテンツを作成しており、農林分野の最新情報、研究機関案内、論文、会議情報などを提供する(図4.4)。
「電子逐次刊行物ナビゲーション」(13)はインターネット上で公開されている電子版の雑誌と新聞をナビゲートする(図4.5)。
図4.3 図書館界
図4.4 新農村建設
図4.5 電子逐次刊行物ナビゲーション
(3)デジタル化事業
所蔵資料のデジタル化事業は文献デジタル化組が担当している。
国家図書館における資料デジタル化の嚆矢となったのは、国際敦煌プロジェクトの一環として、1998年から行ったデジタル化事業である。その後、2003年に科学技術部のデジタル化プロジェクトに参加するなどして、経験を蓄積してきた。2005年には国家デジタル図書館プロジェクト建設開始が国務院により承認され、「2003-2005年国家図書館デジタル資源構築計画」「2006-2010年デジタル資源構築計画」などの関連諸計画を策定して、所蔵資料のデジタル化を進めている。2008年末現在で、図書30万冊分、メタデータ54万件分のデジタル化が終了している。毎年のデータ増加量はメタデータ単位で14万件である。
主なコンテンツは、地方志、甲骨資料、金石拓片、西夏文献、年画、民国図書、民国雑誌、民国法律などで、全て国家図書館のホームページで閲覧することができる(14)(図4.6)。また、2.2.でも紹介した通り、中国語の新刊書を年間5万冊、博士論文を年間3万冊の規模でデジタル化を進めている。最近では、民国期の新聞をデジタル化するプロジェクト「DiNeR」が開始され(15)、2008年には試験的に『益世報』400版面分のデジタル化と全文テキスト化が行われた(図4.7)。また、2006年からは、ネットで公開されているPDF版の新聞についても、新聞社の許諾が得られたものについて保存を行っている。
図4.6 地方志のデジタル化
図4.7 新聞のデジタル化
(4)著作権処理
資料のデジタル化に係る著作権の処理は著作権管理組が担当する。法律の専門知識を有する職員6名のほか、外部の法律顧問2~3名から成っており、著作権処理に関する規程の策定や著作権処理の実務のほか、図書館全体の法律に関わる事項、及び図書館法の立法活動に関わる業務も担当している。
また、内部刊行物『デジタル著作権通報』【数字版权传真】を発行して、国内外の最新動向を紹介するほか、館内の関係部署を対象に研修を開催するなどして、館内全体の著作権に対する理解の向上を図っている。
(5)閲覧サービス
電子資料は、主に本館二期館の4階にあるデジタル共有空間で提供されている(図4.8)。同空間は、全体が7つのエリアに区分され(16)、約250台のPCが設置されている。設計当初はエリアごとに異なったコンテンツを提供する予定であったが、現在は実質的な区別はなく、一部を除いてほぼ全てのPCで同じコンテンツが提供されている。
国内外の電子ジャーナル、データベース、電子書籍、視聴覚資料など約130種類以上のコンテンツが提供されており(17)、インターネットも利用できる。利用者カードのID・パスワードを入力すれば、1時間は無料で利用できるが、1時間を越えて利用する場合には、事前に利用者カードに料金をデポジットしておかなければならない。利用料金は1時間当たり3元である。さらに、携帯型の電子書籍リーダーの貸与も行っており、これに閲覧PCから電子資料をダウンロードして、館内の随意の場所で利用することもできる(図4.9)。
インターネットが1時間無料で利用できるため、ネットサーフィンが目的の利用者が多く、常に満席の状態で空きがない。そのため、他の電子資料の利用に支障をきたしており、近い将来には、インターネットの利用は有料に、その他の電子資料の利用は無料に切り分けることを検討中である。
図4.8 デジタル共有空間
図4.9 携帯型電子書籍リーダー
商用データベースの中で利用率が高いのは、中国学術データベース(CNKI)(18)と方正電子図書(19)である(図4.10)。紙への複写ができるほか、契約で許諾を得ている電子資料については、USBメモリへ保存して持ち帰ることもできる。紙に複写する場合は、PCからネットワークを通じて複写センターに印刷指示を送信し、センターに設置されたリーダーに利用者カードを読み込ませて、複写物を受け取る。利用者カードにはデポジット機能が備えられているので、カードを読み込ませると同時に複写料金の精算も行われる(図4.11)。
図4.10 方正電子図書
図4.11 プリントシステム
(6)国家デジタル図書館分館
国家図書館では2005年より、国家デジタル図書館分館事業を推進している。これは、国家図書館のデジタル資料を、ミラーリングや直接配信などの方法により、中国各地の図書館で利用できるようにする事業で、2010年8月末現在、四川省図書館、山西省図書館、陝西省図書館など合計16の図書館が分館となっている。また、電子図書館分野における人材育成を目的として、分館の職員を対象とした研修なども開催している。本事業に係る業務は国家デジタル図書館分館サービス組が担当している。
(前田直俊)
(1) 海外のオンラインデータベースの契約業務は外国語収集整理部が担当。
(2) 全資料費144,915,793元のうち12,055,311元(内訳:録音映像資料159,451元、電子出版物11,895,860元)。2008年末の為替(1元≒13.2円)で換算すると、全資料費約19億円のうち、約1.6億円となる。
(3) 新聞出版総署令第34号(2008年2月21日公布)
(4) 新聞出版総署令第22号(2004年6月17日公布)
(5) 王志庚. 国家图书馆的数字资源建设. 国家图书馆学刊. 2008年第3期, p. 18-22.
(6) 李春明. “中国国家図書館におけるネットワーク情報保存の現状と将来計画”. 国立国会図書館. 2009-11-26. http://www.ndl.go.jp/jp/aboutus/pdf/theme1_nlc.pdf, (参照 2010-09-02).
(7) 概要と全文訳は、岡村志嘉子, 刈田朋子. 中国の政府情報公開条例. 外国の立法. 2008, (235), p. 146-168. http://www.ndl.go.jp/jp/data/publication/legis/235/023505.pdf, (参照 2010-09-02).
(8) 中国政府公开信息整合服务平台. http://govinfo.nlc.gov.cn/, (参照 2010-09-02).
(9) “国家图书馆专家谈政府公开信息资源的开发和利用”. CNET科技资讯网. 2009-02-06.
http://www.cnetnews.com.cn/2009/0206/1337541.shtml, (参照 2010-09-02).
(10) 中国事典. http://210.82.118.162:9090/webarchive/index.swf, (参照 2010-09-02).
(11) “图书馆界”. 中国国家图书馆・中国国家数字图书馆. http://www.nlc.gov.cn/yjfw/, (参照 2010-09-02).
(12) 网络资源科学信息导航. http://navi.nlc.gov.cn:8080/science_navi/webcenter/index.jsp, (参照 2010-09-02).
(13) 电子报刊导航. http://navi.nlc.gov.cn:8080/newspaper_navi, (参照 2010-09-02).
(14) 各コンテンツの詳細については、以下を参照。
陳力. “中国国家図書館の中国語デジタル資源構築”. 国立国会図書館. 2007-11-06.
http://www.ndl.go.jp/jp/aboutus/data/pdf/nlc27_2_chen.pdf, (参照 2010-09-02).
(15) 李春. “中国国家図書館新聞デジタルリポジトリー(DiNeR)プロジェクト”. 国立国会図書館. 2007-11-07. http://www.ndl.go.jp/jp/aboutus/data/pdf/nlc27_6_li.pdf, (参照 2010-09-02).
(16) 「eラーニングエリア」、「研究調査エリア」、「特別サービスエリア」、「ビジネスエリア」、「ネットワーク交流エリア」、「メディアセンター」、「全国文化情報資源共有プロジェクト体験エリア」の7つ。
(17) 提供コンテンツはホームページで確認できる。
数字资源检索系统. http://dportal.nlc.gov.cn:8332/nlcdrss/database/sjk_lb.htm, (参照 2010-09-02).
(18) 清華同方が提供する総合的な学術情報データベース。学術雑誌、新聞、学位論文、会議論文、年鑑などを収録している。
(19) 方正Apabiが提供する電子書籍データベース。