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3. 3. 立法・行政に対するサービス
3. 3. 1. 業務体制
国の立法及び政策決定に必要な文献情報や各種レファレンスサービスの提供は、国家図書館が一貫して重要なサービス項目の一つと位置付けてきたものである。国家図書館は1998年の全館的な機構改革を機に、担当部局を一元化しサービスを大きく進展させた。
1999年、中央国家機関の立法及び政策決定のためのレファレンスサービスを専門に担当する国家立法・政策決定サービス部が、参考研究部の中に置かれた。参考研究部が国家立法・政策決定サービス部という組織も併せ持つ形で、立法・行政に対するサービスを順次拡大していった。その後、2007年末に国家立法・政策決定サービス部は参考研究部から独立し、専門の部局による本格的なサービス実施体制が確立した。新たに設立された立法・政策決定サービス部は、2008年初頭の職員数が27名、2009年10月には48名まで増員された。さらなる業務拡大と人員増が今後の課題である。
3. 3. 2. 立法・政策決定サービス部の業務内容
立法・政策決定サービス部では、国家図書館の豊富な文献情報資源を基礎に、多様な専門性を有するレファレンス担当職員を通じて、厖大な情報の中から有用な情報を検索、抽出、分析し、サービス対象に提供している。提供するサービスの種類は、クリッピング・サービス、世論分析、戦略情報分析、主題レファレンス、研究動向報告、サービスプラットフォーム構築、中央国家機関附設図書館の全体設計プラン策定、業務研修・講座開講などである。
立法・政策決定サービス部はサービス拡充の一環として、海外中国学文献研究センターと法律参考閲覧室を2009年9月に開室した。また、2010年6月には、立法・政策決定サービスの質的向上を目的として、「国家図書館国情レファレンス顧問委員会」と「国家図書館国情レファレンス専門家委員会」を発足させた。顧問は、政府機関の要職にある者など34名、専門家は各分野の学者など19名が委嘱された。任期はそれぞれ3年である。これら外部有識者の参画によって、立法・政策決定サービスの一層の質的向上を目指している。
3. 3. 3. 重点サービス項目
(1) 中国共産党と国の主要指導者のための文献情報サービスの提供
中国共産党と国の主要指導者に対するレファレンスサービスは、中華人民共和国成立当初から国家図書館の重要な業務と位置付けられ、実施されてきた。近年では恒常的な業務となり、件数も増加している。年間処理件数は少ない年で20件余、多い年には60件余に上る。2003年末、温家宝首相の訪米準備として、「和して同ぜず」について3万字の詳細な調査報告を作成したことが、その代表的な事例である。
(2) 全国人民代表大会代表と中国人民政治協商会議委員に対する文献情報レファレンスサービスの提供
全国人民代表大会と中国人民政治協商会議(中国では両者を併せて「両会」という。年1回、3月開催)の参加者に対し、審議参加、法案・議案作成に必要な文献情報やレファレンスサービスを提供する。1998年3月の「両会」会期中、全国人民代表大会情報センターと連携してサービスを行ったのが始まりである。翌1999年3月の「両会」会期中、「両会レファレンスサービス処」が初めて設置され、「サービス用語の規範化、業務手順の制度化、レファレンス回答は当日中に依頼者に届ける」という方針の下に、24時間レファレンスホットラインサービスを実施した。
2001年以降、国家図書館は全国人民代表大会情報センターとの密接な協力の下、会議が開かれる人民大会堂と参加代表団の宿泊先にサービスステーションを設置し、レファレンス担当職員が直接各参加者に文献情報サービスを提供している。2008年3月、国家図書館立法・政策決定サービス全国人民代表大会プラットフォームがテスト稼働、同12月に本格稼働した。
また近年、国家図書館の「両会」レファレンスサービスをサービスモデルとして、中国国内の各省立図書館も各省の「両会」代表に対するサービスに取り組むようになってきている。
(3) 全国人民代表大会の常務委員会と各専門委員会の委員に対するサービス
全国人民代表大会の常務委員会と9つの専門委員会の委員に対する文献情報提供サービスは、2003年7月から開始された。年1回の「両会」会期中のみのサービスから通年のサービスに転換したことは、中国の最高権力機関ならびに立法機関である全国人民代表大会に対する国家図書館のサービスが、より実質的なサービスを提供する段階に入ったことを意味している。
主なサービス内容は、全国人民代表大会常務委員会で審議中の法案に関する基本資料・背景説明資料、法律の基本概念・定義その他関連文献資料の提供のほか、法案の起草や検討に必要な主題に関するレファレンスなどである。
(4) 行政機関等への分館の設置
国の行政機関等に国家図書館分館を設置し、国家図書館と各分館が自主、平等を基礎とし、人的・文献的資源の共同構築・共同利用という手段によって政策立案・政策決定に必要な情報サービスを提供する。制度整備に当たっては、当館の支部図書館制度が参考にされた。
現在設置されている分館とその設置年月は次のとおりである。
- 人事部分館(1999年6月)
- マクロ経済分館(2000年7月)
- 労働・社会保障部分館(2001年5月)
- 財政部分館(2004年1月)
- 中国民航分館(2006年6月)
- 民政部分館(2008年8月)
- 交通運輸部分館(2009年12月)
- 中央社会主義学院分館(2010年6月)
(5) 「中南海ウェブサイト」デジタル資源構築プロジェクト
2002年末、国家図書館は中南海(=中国共産党中央委員会と国務院の所在地。政権の中枢を指す。)各部門にサービスする「中南海ウェブサイト(国家図書館データベース)」デジタル資源構築プロジェクトを正式に始動させた。第一段階のコンテンツとして構築されたのは、「世界各国基本資料庫」「国際機関資料庫」「世界遺産資料庫」「ホットイシュー資料庫」「二十世紀大事典資料庫」「新刊書推薦」の計6種類の文字・画像・映像資料を一体化した主題データベースである。
「中南海ウェブサイト」は2004年10月18日、国務院弁公庁において本格稼働したのに続き、中国共産党中央弁公庁に対しても、2007年4月26日から同様のサービスを提供している。
(6) 閣僚級指導幹部に対する歴史文化講座
閣僚級指導幹部に対する歴史文化講座は、中国共産党中央国家機関工作委員会、文化部、中国社会科学院が共催し、国家図書館が実施主体となって2002年から開始された。内容は古今の哲学、歴史文化、民族宗教、文学芸術、時事問題、社会経済と多岐にわたり、各分野の著名な学者が講師を務める。開催回数は、2002年の初回から2008年までに100回を超えている。
(7) 国家図書館立法・政策決定サービスプラットフォーム
国家図書館立法・政策決定サービスプラットフォームは、中央国家機関に対し立法・政策決定の参考情報を総合的に提供するデジタル化情報サービスプラットフォームとして、2008年12月に本格稼働した。全国人民代表大会及び各分館向けにカスタマイズされたプラットフォームが整備されている。
(岡村志嘉子)