カレントアウェアネス
No.343 2020年3月20日
CA1969
早稲田大学・慶應義塾大学コンソーシアムによる図書館システム共同運用に向けた取り組みについて
早稲田大学図書館総務課:本間知佐子(ほんまちさこ)
慶應義塾大学メディアセンター本部:入江 伸(いりえしん)
0. はじめに
2019年9月、早稲田大学と慶應義塾大学のコンソーシアムによる図書館システム共同運用が始まった(1)。このシステム共同運用の実現のため、2017年5月に「早稲田大学図書館と慶應義塾大学メディアセンターのシステム共同利用による連携強化に関する覚書(協定書)」(以下「覚書」)を締結(2)し、それ以来、早慶図書館システム共同運用検討会議(以下「早慶検討会議」)を組織し、具体的な検討を進めてきた。本稿では、システム共同運用が求められることになった背景・共同運用に向けた両館の取り組み、共同運用するシステムの環境構築に関する検討状況・今後の課題と展望について述べる。
1. 紙資料から電子資料への連携
日本の大学図書館(以下「図書館」)では、2000年ごろから電子ジャーナルの導入がはじまり、現在では、早慶ともに電子資料費が資料費全体の60%以上を占めるようになっている。しかし、電子資料を管理する職員数は、極めて少人数であり、紙資料の管理に多くの人手と経費が費やされている。
紙資料の管理は、資料の受入・目録作成・閲覧へと流れ、図書館の中で完結する(図書館間協力のShared Catalogはあるが)。その一方、電子資料の管理は、図書館の外で作られるグローバルなデータ(リンクリゾルバ、ディスカバリー;CA1772、E2125参照)を活用しながら、契約・支払などの各大学固有の情報を追加することで、図書館のサービスにつなげていく。そのため、電子資料に関する業務は、外部データの精度が業務効率に影響することになり、データの精度を上げるためには、出版社・プロバイダーやシステムベンダーとの連携が必須となるため、図書館内で閉じていては業務が進まない。
このように、今の図書館は紙資料と電子資料の2つのワークフローの運用を求められている。紙資料のワークフローを整備し、保存のコストを含め運営を効率化しつつ、電子資料の利用環境を整備し、紙資料と電子資料を統合した新しいサービスを作り上げていくことが急務となっている。
今後、紙資料は、利用のための電子化を進め、電子資料のサービスへ統合させながら、大学毎の蔵書という価値観から離れ、複数大学で紙資料の共同管理を行うShared Print(CA1819参照)の方向へ向かうと考えられる。世界的には、その方向に対応するため大学コンソーシアムを組織し、システム共同運用(CA1896参照)へと進んでいる。早慶ともにこの流れに合流するため、その基盤として大学コンソーシアムでの図書館システムの共同運用が必要であると思っていた。
2. 早慶連携の背景
2.1. 早慶図書館の協力は古くから続いている
早慶図書館間での協力の歴史は古く、早稲田大学図書館(以下「早稲田」)と慶應義塾大学メディアセンター(以下「慶應」)は、今から30年以上前の1986年4月1日に「早稲田大学および慶應義塾大学の図書館相互利用に関する協定書」を締結し、お互いの学内利用に近い条件を定めて早慶間での相互利用を開始している。1990年代には共同研修や人事的な交流等も行うようになった。
2.2. 人事政策の相違と連携
2000年以降、早慶とも図書館員の削減が進んだ一方で、図書館員のスキル維持についての考えが異なってきた。早稲田では図書館職員も一般の事務職員と同様な異動ローテーションとする傾向が強くなり、慶應では、比較的図書館内の異動の割合が高いまま進んだ。それによって抱えている課題を、システム共同運用による連携を進める中で補完していく必要がでてくるだろう。
2.3. 目録をめぐる経験
早稲田は、1980年代からの紀伊國屋書店との共同プロジェクトでOCLCのWorldCatへの目録登録を進めてきた。この結果、世界の図書館からWorldCatを経由して早稲田にILLの依頼が寄せられるようになった。慶應は、1998年のシステムリプレースを契機に目録レコードのデータ形式をCATPからMARC21へ変換し、米国の研究図書館グループ(RLG)のメンバー館となり、和書の目録データのRLGの書誌ユーティリティResearch Libraries Information Network(RLIN;CA1219参照)への登録を行うようになった。2007年には、Google Library Projectへ参加し、著作権切れの12万冊の和書とメタデータを提供し、Google Booksや慶應の検索システムから全文を閲覧することができるようにしている。その経験から、慶應ではISBNが制定される前に発行された資料の識別には、国際的にOCLC番号か米国議会図書館管理番号(LCCN)がURIの基礎となることを思い知らされ、メタデータの相互運用性を確保するために、OCLC番号の必要性を強く感じていた。
2.4. Shared Printへ向けて
早慶ともにシステム共同運用の先にShared Printを考えていたため、システム共同運用が最終目標とは思っていなかった。共同運用を積み上げる中で、相互理解・業務の再構築を進め、Shared Printの流れに向かっていくことが重要であると感じていた。また、Shared Printの効果を出すために、図書館の置かれている環境(紙資料と電子資料、利用者、資料費)が似通っていたほうがいいと思っていた。そのため、共同運用の相手としてお互いに早慶しかないという意識が強かった。
3. 共同運用へ向けて
3.1. 話し合いのはじまり
前章で述べた背景を受け、2015年3月、早稲田の深澤館長と慶應の田村所長で共同運用についての意見交換があり、前向きに検討を進めることが確認され、定期的に勉強会を行うことになった。1年半ほどの勉強会の後、2016年7月に早稲田の深澤館長と慶應の赤木所長との懇談が行われ、システム共同運用の具体的な検討に入ることになった。
3.2. 連携に向けた原則
共同運用に向けて検討する課題は多く、個別に分担割合を決めることが困難だったため、平等(1対1)を原則とし、具体的な議論を進めることにした。また、新しくワークフローを考え直すということも確認し、業者選定にあたっては、早慶で要求仕様をまとめ、複数業者へ提案を依頼し決定することにした。
3.3. 覚書締結からRFP作成まで
早慶での半年以上の検討の結果、2017年5月12日に覚書を締結した(3)。覚書には、以下のように書かれている。
目的
- (1) 両図書館の堅固な連携のもとに、将来に向けて図書館サービスを持続的に発展させてゆくこと
- (2) 両図書館が図書館システムを共同選定、共同利用することにより、
- ア システムの修正や機能改善が、図書館システムサービス提供者により、円滑に実行され、安定的なシステム運用が実現されること
- イ システム運用コストを低減すること
- (3) 目録情報の共同調達による目録作成コストを低減すること
- (4) 最適な図書館サービスを合理的に提供することのできる業務基盤を作ること
覚書を受けて、2017年5月25日、第1回の早慶検討会議が開催された。まずは、提案依頼書(Request For Proposal:RFP)を作成することになり、ほぼ3か月かけて英語版(正式版)と日本語版を作成した。このRFPの冒頭には、共同運用の目的・メリットとして以下の点が記載された。
- システム共同運用による運用の安定化とコスト削減
- 目録形式の標準化、目録作成のコスト削減
- 早慶間での知識/経験の共有、人的交流の促進
- 共同運用による利用者サービス・資料の充実
3.4. システム選定
2017年8月にRFPを国内外の8社へ送付し、回答締め切りを9月とした。国内4社・海外2社は辞退し、海外2社から提案があった。その後、早慶で提案書の採点を行い、2社のプレゼンを受けた。2017年11月、最終的にEx Libris社の提案が採用され、クラウド型の図書館システム(CA1861参照)としてAlma、ディスカバリーインタフェースの統合検索システムとしてPrimo VEで進めていくことになった。
3.5. 選定理由
Ex Libris社のAlmaを選定した主な理由は、以下の通りである。
- 業務に特化したクラウドシステムであること
- 多様なコンソーシアムで利用できるように柔軟なシステムであること
- 紙資料と電子資料の管理が統合されていること
- 国際的なデータ流通が可能なこと
- ディスカバリー機能を有すること
特に、早慶で共同運用を行っていくため、大学毎の独自運用も行いながら、連携可能な業務からコンソーシアム運用へ移行できる柔軟性があること、紙資料のワークフローを簡素化・効率化し、電子資料の業務を最適化していくため紙資料と電子資料を同じように扱えることの評価が大きい。
また、この時期に、Innovative社の図書館システムINNOPACユーザであった香港の大学コンソーシアムがEx Libris社のAlmaを選定する(4)など、国際的に大学図書館コンソーシアムのシステムとしてAlma導入が続いていたことも追い風となった。Primo VEについては、新しいシステムのため不安はあったが、これからの中核システムであるというEx Libris社の提案に期待することにした。
2018年2月、Alma/Primo VEの正式契約を行った(5)。
図 Alma/Primo VE構成図
4. システム導入
4.1. 早慶検討会議における検討の開始
選定後ただちに早慶検討会議で、それぞれのシステムの具体的な検討を開始した。業務ごとに、目録(受入・雑誌を含む)、閲覧(Almaではfulfillmentと呼ばれている)、電子資料、ディスカバリー、システム(総務を含む)のチームをつくり、全体の集約のためにリーダー会議を開催することにした(6)。同時に早慶それぞれの会議体も持ち、個別にシステムの調整も行った。早慶リーダー会議は、現在も継続して開催され、問題の大きな日本語検索などのローカライズや運用で問題となってきたことを継続して検討している。
4.2. 目録統合とWorldCat登録
今回のシステム共同運用にとって最大の課題は、目録であった。基本方針として、早慶の目録を統合すること、統合後は早慶共同目録とし、WorldCat への登録を継続することが決定された。
目録部門の統合にあたっては、慶應で基本的な立案を行い、双方で検討を進めた。書誌統合における目録形式の課題は、これまで日本語の書誌で維持してきた、分かち書き、カナの取り扱い、書誌単位、ローカルタグ、ローマ字表記などがあり、以下のような方針に基づいた処理が決定された。
- 統合のキーはISBN、ISSNとし、無理な統合は行わない
- 分かち書き、カナは採用しない。MARC21の基本的なフォーマットに則り、漢字とローマ字だけを採用する。
- ローマ字はLCの翻字方式に準拠することにする。(早稲田方式)
- 書誌単位は、両者の違いはそのままとする。
上記の方針に合わせて、統合の前に慶應ではローマ字を早稲田に合わせて変換した。この統合処理によって、全体の30%の書誌が統合された。運用開始後は、通常の目録業務の中で統合が進められていき、相互貸借が日常化されることで、紙資料の共有が進み、システム共同運用のさらに先の目標であるShared Printの基盤となっていくだろう。
4.3. 目録委託業者の選定
目録の委託業者の選定についても、連携の原則に則って行った。書誌データの WorldCat への登録を前提としていたため、委託業者のスキルに対する不安はあったが、委託業者に対してそのスキルを必須としなかった。これは、選定業者を狭めたくなかったということと、職員でノウハウを蓄積していくという覚悟によるものであった。この結果、早慶目録ユニットは慶應に置かれ、株式会社キャリアパワーを委託業者として運用を進めている。
4.4. カレントの目録業務フロー
早慶それぞれで受入した資料は、慶應内に設置した早慶目録ユニットへ送付され、そこで共同目録を作成、点検後に各図書館(早稲田は中央館)へ送付される。この資料の物流のために早慶便は毎日運行されている。目録作業中に、統合されていないそれぞれの書誌データがヒットした場合は、データを統合し、全ての図書はWorldCatへ登録する。書誌の作成やWorldCat登録のための支援システムは、Alma のインターフェースから利用できるように個別に開発した。
雑誌の受入については各大学で行うが、書誌に関わる変更があれば、目録ユニットで修正する。早慶とも国立情報学研究所(NII)のNACSIS-CATへの登録は続ける予定である。
5. これから
Almaではコンソーシアム用のネットワークゾーンに早慶の目録だけではなく、発注書誌や電子資料の書誌も共有している。大学毎のゾーンも同様に存在するため、複雑な構造になる。慶應では、紙と電子のデータの整合性を維持していくため、これまで分かれていた紙資料と電子資料の管理部門の統合など、組織改革も行っている。
これからは、早慶間での図書の予約・貸出や分担収集等についても検討を進めていく。その中で、Shared Printも具体的なターゲットにしていく。
システム共同運用の開始後は、早慶資料をWorldCatへ登録していくが、その登録コストを個別大学が長期に負担していくことは難しい。今後、日本語の資料を国際的に流通させ、データ相互運用を実現していくため、国立国会図書館(NDL)と国内の他の図書館が連携し、登録のための仕組みを作っていくことが重要だろう。
電子資料ではディスカバリーから契約済みのタイトルの全文へうまくリンクできない場合があり、この解決のために、出版社・図書館・システムベンダーと連携して、リゾルバ(Knowledge base:KB;CA1784参照)やディスカバリー用のメタデータ流通のための協力体制も必要である。
早慶の図書館システム共同運用の議論の中で、多くの問題はあったが、具体的な議論を深めることで、連携という目的が揺らぐことはなかった。それは、両者が危機感と目的を共有しながら相互理解を進めてきた成果であったと思っている。
まだまだ問題は多いが、国際的な図書館プラットフォームへ移行したことにより、これから強制的にシステムのアップグレードが行われ、図書館業務もそれに合わせて再構築を続けていくことになる。
これからが本当のはじまりである。
(1) “早・慶図書館システム共同運用開始”. 早稲田大学. 2019-09-03.
https://www.waseda.jp/top/news/66247, (参照 2019-10-28).
“早稲田大学図書館・慶應義塾大学メディアセンター日本初となる図書館システム共同運用を開始”. 慶應義塾. 2019-09-03.
https://www.keio.ac.jp/ja/press-releases/2019/9/3/28-62756/, (参照 2019-10-28).
(2) “早稲田大学・慶應義塾大学 日本初・図書館システムの大学間共同運用に向けた覚書締結”. 早稲田大学. 2017-05-16.
https://www.waseda.jp/top/news/51024, (参照 2019-10-28).
“早稲田大学図書館・慶應義塾大学メディアセンター日本初・図書館システムの大学間共同運用に向けた覚書締結”. 慶應義塾. 2017-05-16.
https://www.keio.ac.jp/ja/press-releases/2017/5/16/28-20689/index.html, (参照 2019-10-28).
(3) 前掲.
(4) “Hong Kong Joint University Librarians Advisory Committee JULAC Selects Alma and Primo for Shared Library Services Platform”. Ex Libris. 2016-06-07.
https://www.exlibrisgroup.com/press-release/hong-kong-joint-university-librarians-advisory-committee-julac-selects-alma-and-primo-for-shared-library-services-platform/, (accessed 2019-10-28).
(5) “早稲田大学図書館・慶應義塾大学メディアセンター共同運用図書館システムにEx Libris社のAlma・Primo VEの採用を決定”. 早稲田大学. 2018-03-08.
https://www.waseda.jp/top/news/topic/57500, (参照 2019-10-28).
“早稲田大学図書館・慶應義塾大学メディアセンター共同運用図書館システムにEx Libris社のAlma・Primo VEの採用を決定”. 慶應義塾. 2018-03-08.
https://www.keio.ac.jp/ja/press-releases/2018/3/8/28-42737/, (参照 2019-10-28).
(6) 鈴木努. 「早慶図書館業務共同化プロジェクト」の目標と現状、展望について. ふみくら. 2018, 94, p. 2.
http://hdl.handle.net/2065/00057721, (参照 2019-10-28).
[受理:2020-02-13]
本間知佐子, 入江伸. 早稲田大学・慶應義塾大学コンソーシアムによる図書館システム共同運用に向けた取り組みについて. カレントアウェアネス. 2020, (343), CA1969, p. 6-9.
https://current.ndl.go.jp/ca1969
DOI:
https://doi.org/10.11501/11471487
Homma Chisako
Irie Shin
Challenges of the Keio-Waseda Consortium for the Establishment of a Joint Library System