CA1211 – HMSO民営化のその後 / 飛田由美

カレントアウェアネス
No.229 1998.09.20


CA1211

HMSO民営化のその後

1996年10月,HMSO(Her Majesty's Stationery Office:英国印刷庁)は200年以上の歴史にピリオドを打ち,The Stationery Office Ltdという民間企業に生まれ変わった。このことはイギリスで最も巨大な,最も多様な情報を出版する企業が創り出されたということを意味する。民営化されてから2年近く経つわけだが,The Stationery Officeの現状を見ていくことにしたい。

The Stationery OfficeはNational Publishing, National Print Services, Banner Business Supplies, Sovereign FMという4つの事業部で構成されているが,このうち,出版と販売事業を行っているのはNational Publishing(NP)である。多くの書籍・雑誌・文書・電子出版物を出版するだけでなく,国中に小売店のチェーンを持ち,書誌的サービスと国際的な販売サービスとを結合することによって,The Stationery Officeの出版物のみならず,世界中の政府刊行物を供給できるようにしている。

我々図書館員にとって最も関心のあることだが,民営化されたことにより,政府刊行物の出版に変化はあるのだろうか。刊行事業の第一の目的が公的機関の情報供給者になるということで,この点に変わりはないようだ。政府との間に多くの契約が結ばれ,政府や議会の重要な文献(Bills, Statutes, Statutory Instruments, Hansard,その他の議会文書,官報など)は厳しい管理の下で引き続き出版され,政府刊行物を出版する上での協力関係は維持されている。その上で,市場の需要を見極め,新しい生産活動を進める必要に迫られている。その一つの方向として出版物の電子化がある。

以前マグロウヒル社に勤めていたフレッド・パーキンスはNPのチーフエグゼクテイブに任命され事業の改革を手がけており,電子出版物の生産に多くの可能性を見出している。The Stationery Officeは現在100タイトルのCD-ROMを発行しているが,利益は少ない。現在電子出版物はThe Stationery Officeの年間総売上高500万ポンドの4%にも満たないと言われている。「だからこそチャンスがある」とパーキンスは考えている。The Stationery OfficeではすでにNPのマネジングデイレクターとしてタリー出版社にいたロバート・マッケイを雇用し,電子出版物の開発を進めている。電子化された文献をいくつか紹介すると,1996年10月からイギリス議会と契約し,他のいくつかの文献と共にHansardのdaily updated版がすでにインターネットで発行されている他,Billsの最新号,セレクトされた委員会のレポート,House of Lordsのペーパーや刊行物をインターネットで提供する計画である(http://www.the-stationery-office.co.uk/)。また,過去17年分の政府刊行物のデータベースがチャドウィック=ヒーリー社とThe Stationery Officeの共同で開発された。36万レコードを含み,毎月2千レコードが新しく追加され,その一部はフルテキストを見ることができる。イングランドの古い新聞,London Gazetteの電子化も進められている。出版物の電子化はものすごいスピードで進められているのである。

民営化される以前のHMSO時代には公的機関であるが故の独特の問題を抱えていた。予算が適正でない場合もあり,行政省庁の出版したい物を優先的に出版していたため,出版物を市場の需要に応えるように開発し,利益を生み出すにも限界があった。民営化されたことにより,このような制約から自由になってThe Stationery Officeは単なる出版社ではなく,総合的な情報の供給者として生まれ変わろうとしている。

飛田 由美(とびたゆみ)

Ref: McKay, Robert. It's spelt with an “e”. Law Libr 28 (3) 157-158, 1997
Case study 2: The Stationery Office. Changing product push to market pull. Digit Publ Strateg 1 (6) 7-8, 1997
UKOP Online-UK official publications released to the world via the Web. New Libr Wld 99 (1140) 86, 1998