カレントアウェアネス
No.229 1998.09.20
CA1210
BLセント・パンクラス新館の開館式
−財政難,そして有料化?−
英国図書館(BL)のセント・パンクラス新館では,今年6月25日にエリザベス女王を迎え開館式が行われた。新館は,大きなブックショップを含む展示スペースと11の閲覧室(1,206の閲覧席),1,200万冊収蔵可能な地下4階の書庫からなっている。
この新館構想は,BLが大英博物館の図書部門から独立組織となった1973年前後にさかのぼる。当初ブルームズベリーの大英博物館の隣接地が候補となったが採用されず,現在のセント・パンクラス新館が計画された。1976年にはサー・サンディ卿(Sir Colin Alexander St John Wilson)による設計が完成したが,財政状況の悪化等に伴い計画は縮小・延期されて(CA960,CA990),1996年ようやく完成した。
その後各種のテストランやスタッフのトレ−ニングが行われ,ロンドン各所の図書館から順次資料が移転した。1997年10月25日に一般・人文閲覧室が(CA1166),今春には,展示室やキングズ・ライブラリー,貴重書・音楽閲覧室がオープンし,ようやく開館式に至ったものである。資料移転は引き続き行われており,完了するのは1999年の予定である。
新館は,チャールズ皇太子の「秘密警察本部のような建物だ」という批評等も報じられたが,開館後は,インテリアを始めとして,閲覧席が増え各席でパソコンが使用できること,これまで3時間もかかった出納時間が1時間以内になったこと(将来は30分を目標としている)など好評で,利用者は以前より44%も増加して,1週間に9,000人平均となった。
しかし,BLの前途は相変わらず多難である。財政難は深刻化する一方で,昨年4月,利用者を対象に利用料金に関するアンケート調査が行われた。さらに開館式前後に具体的に利用料金の徴収を計画していることが報じられたが,7月9日,BL理事会は「ひとつの選択肢として」利用料金の徴収を勧告したことを正式に発表した。
勧告によれば,課金の方法として3つの案が考えられている。1)1年に10回以内の利用は無料。それを超える場合は4半期ごとか1年ごとに利用料金を課す。2)商業的利用者とそれ以外の利用者を区別する。3)平日のみ利用料金を課し,土曜日は無料とする(日曜日は閉館)。これによって年間300万〜600万ポンドの収入が見込まれる。
理事会は,この勧告の背景として予算削減をあげている。1998/99年度予算は225万ポンド削減されて8,000万ポンドになった。これでは収集や保存等の基本事業のために必要な額にも800万ポンド不足しており,数年のうちには1年間に2,000万ポンド不足することになるという。事実BLではすでに購入を打切らざるをえない資料も続出している。
しかし,BLのこうした動きに利用者は強く反発している。利用者グループの代表であるブライアン・レイク氏や,クロムウェルやメアリ・スチュアートの伝記作家として有名な歴史家レイディ・アントニア・フレイザー,作家マルコム・ブラッドベリらの著名人が反対意見を述べており,さらに,Keep the British Library Freeをスローガンにして,インターネットを通じて広範な反対運動が組織されつつある。
これに対して,BLのスポークスマンは「理事会は基本的には有料制には反対しているのだが,こういう時勢ではしたくないこともしなければならない」と言っており,またラング館長は「今や英国図書館は商業的に利用されるようになった。歴史家や小説家の独占物ではない」と言っている。
同様に財政難にあえぐロイヤルオペラハウスのコリン・サウスゲート会長などは「予算が増額されなければ閉館もまぬがれない」とコメントして,新聞に「政府を脅迫している」と報じられたほどで,BL理事会の勧告も同様の意味合いを持っているのかもしれない。しかし,フランス国立図書館はすでに利用料金を課しており(CA1125参照),さらにBLが利用料金を徴収することになれば,世界の図書館への影響は大きいであろう。大英博物館図書部以降245年の歴史をもつBLで,有料制について検討が行われたのは今回が初めてである。その帰趨に注目したい。
吉本 恵子(よしもとけいこ)
Ref: Readers face 300 British Library fee. The Independent 1998.7.10
Most costly building must balance the books. Financial Times 1998.6.25
BL cuts may cost small businesses. Libr Assoc Rec 99 (3) 30, 1997
“Keep the British Library Free” [http://www.geocities.com/Athens/Aegean/8435/Library.html] (last access 1998.8.25)
Press and Public Relations Department. The British Library at St. Pancras. Libr Manage 19 (6) 371-378, 1998
欧州図書館視察報告書 (財)日本海発構想研究所21世紀情報図書館研究会 1996. p. 1-27