カレントアウェアネス
No.226 1998.06.20
CA1193
Gallica−フランス国立図書館による電子図書館の試み−
フランス国立図書館(BNF)は,昨年10月,インターネットで見られる「試行」電子図書館Gallicaを開設した。BNFは一昨年12月,パリ・トルビアックの新館のうち一般利用者向けの部分を開館し,現在研究者向けの開館を準備中である(CA1125参照)。この新館は,ミッテラン大統領が提唱した新図書館構想に端を発するものであるが,当初からこの構想の柱であったのが,資料の電子化とリモートアクセスの実現である(CA910参照)。費用と時間の制約によりかなりの規模縮小を強いられたとはいえ,その実現への第一歩として構築されたのがGallicaである。
現在のGallicaは,19世紀フランスの著作を対象としている。タイトル,著者名などによる標準的な検索のほか,年表,分野,著者のリスト,逐次刊行物リストからの検索も可能である。資料が特定できたら簡単にその全文を画面に出すことができる。この部分が電子図書館としての骨格をなしているが,さらに,見ることのできる資料を文章で概観,紹介するページがある。これは,政治,哲学など8つの分野と,写真集など画像をおさめた4つのテーマに分かれている。文章中に出てくる著者名や作品名から,その全文を見る画面へとぶことができ,関連する他のサイトへのリンクもはられている。歴史,文学の分野は特に充実していて,19世紀のフランスそのものを,ここで見られる資料群を通して俯瞰しようというような,文化国家らしい壮大な意図が感じられるほどである。
「(Gallicaは)単なるデータバンクではなく,19世紀の膨大で多様な出版物の間を自由に歩き回るコース」だという紹介ページの言もこのような意図をあらわしているといえようが,その一方で,これがリモートアクセスの実験を目的としたサーバであることも明確に述べられている。現在見ることができるのは画像モードによる印刷物2,300点,それを補完する他の機関で作成されたテキストモードの250点,画像が7,000点であるが,これらも途中段階の数字である。すでに印刷物で8万6,000点が電子化済みであり,画像については最終的に30万点になる予定である。また,電子図書館の「実験」という性格は,データベースとしての使い勝手や利用傾向,利用者の要求や意見を知るためのアンケートのページが設けられていることにもあらわれている。
Gallicaによる実験を足がかりとして,BNFは知識の全分野を網羅した「百科全書的」電子図書館への道を歩むことができるだろうか。そのためには,いまだ解決を要する問題が残っている。著作権の問題である。Gallicaが現在,対象を19世紀に限っているのは,この世紀が文化的に豊かで,出版物に恵まれているという背景もあるようだが,20世紀の作品については著作権の期限が切れていないものが多いという,実際的な理由が強かったようである。現在電子化済みのもののうち著作権のあるものについては,BNFとフランス出版協会との間で協定が結ばれ,BNF及びいくつかのフランスの図書館内の端末でのみ閲覧可能ということになっている。この協定が次の段階に進まない限り,リモートアクセスできる資料の幅は広がらない。しかし,BNFによる電子図書館の試みが成功に近ければ近いほど,次は同時代の作品を含め,20世紀の著作を,という声が高まってくるだろう。著作権への対応は,電子図書館の構築をめざす各国共通の課題であり,容易には解決をみないだろうが,それだけにBNFの試みの今後の展開には関心が持たれる。
永野 祐子(ながのゆうこ)
Ref. La BNF s’ancre dans le virtuel. Le Figaro 1997.10.9
La BNF, Babel virtuelle du reseau. Liberation 1997.10.18/19
BNF: une ouverture par la petite porte. Livres de France (191) 22-25, 1996
Gallica [http://gallica.bnf.fr] (last access 1998.5.21)
BNF [http://www.bnf.fr] (last access 1998.5.21)