E2502 – Gallicaの利活用促進・創出戦略<報告>

カレントアウェアネス-E

No.436 2022.06.09

 

 E2502

Gallicaの利活用促進・創出戦略<報告>

日仏図書館情報学会・豊田透(とよだとおる)
 

  2022年3月19日,日仏図書館情報学会主催の「フランス国立図書館(BnF)の電子図書館 Gallicaの利活用促進・創出戦略」がオンラインにより開催された。資料のデジタル化は日仏とも相当進み提供方法も洗練されてきた中で,新たな利用の掘り起こし,様々な利用者を想定した利活用機能の向上,さらなる魅力の創出戦略が求められている。本イベントは,Gallica(CA1193,CA1905参照)の多彩で斬新なサービスを詳しく知り,日本におけるデジタルライブラリーの活動を踏まえて意見交換する機会となることを目的として企画された。

  構成は,前半がBnF副館長補(デジタル担当)兼サービス・ネットワーク部長のボーフォール(Arnaud Beaufort)氏による講演「Gallica-その戦略のゆくえ」,後半はコメンテータとして参加した国立国会図書館(NDL)電子情報部長の大場利康氏とのディスカッション,参加者との質疑応答であった。Gallicaは知名度に比して日本語の情報が少なく,また担当責任者から直接に話を聞く貴重な機会であり,幅広い分野から178人の参加があった。

  講演では,まずBnF及びGallicaの概要紹介があった。強調すべき点として,GallicaがBnFと多くのパートナー機関との協力によって構築されてきたことがある。2021年時点の収録数約890万点のうちパートナー機関から提供されているものが約20%を占める。また,この890万点のうち約300万点が1年に少なくとも1回閲覧されており,これは全体の30%に相当する驚異的な数字である。時宜的にコロナ禍の影響についても触れられ,外出規制があった2020年には訪問者数が1,900万件,前年比22%増に達した。

  Gallicaの戦略は3つのテーマに沿って説明された。まず,Gallicaの拡大について。資料デジタル化やパートナー機関との協力の推進といった量的な拡大に加え,検索手段の高度化など質的な向上に努力が払われている。講演では,光学文字認識(OCR)によるテキスト化,画像検索ツールGallicaPix,新サービスである近傍検索の紹介があった。こうした努力は,Googleなどの単純な検索では見つからないことを見つけられる仕組みにより差異化を図ることで,国の文化財を提供する公共機関としての責務を果たす,という意識に基づいている。

  これは,インターネットにおけるGallicaの位置付けという2つ目のテーマに関連する。「ウェブ上で見える,見つけられる」ことが重要であり,例えばBnFの蔵書目録とデジタル資料を統合的にLinked Open Dataとして提供するdata.bnf.frがインターネット上に公開され,BnFによる詳細な書誌データ,所蔵データ,著者情報などが利用でき,デジタル資料が閲覧可能なものはGallicaにリンクする。また,国の機関として著作権を尊重するため,Gallicaで閲覧できる資料の範囲は,インターネット上,BnF館内,職員で区別される。館内限定公開制度は“Gallica inter muros”と呼ばれ,考え方はNDLとほぼ同様である。なお,NDLにおける図書館向け・個人向けデジタル資料送信サービスに相当するサービスは,BnFでは行われていない。

  3つ目のテーマとして,Gallicaが外部に対してどう開かれ,外部の力をどう取り込んでいくかが挙げられた。そのためには媒介者としてオープンに活動することが求められる。研究者から信頼を得ると同時に,Gallicaの資料が若い世代によりSNSで楽しくやり取りされる状況も望まれる。

  多岐にわたったコメント・質疑について,数件紹介する。

  Gallicaへの外部の貢献に関し,「里親制度」について質問があった。これは利用者がデジタル化を希望する資料を指定しそのための寄附をする制度で,寄附者の名を残すことができる。また,研究者が手稿をテキストに翻刻した場合にそれをGallica上で活用することの可否について,信頼性の問題が生じること,将来的には人工知能(AI)によるテキスト化が進むのではないかという回答であった。

  Gallicaの画像でも対応しているIIIFにより研究者がアノテーションを付加することが可能となったが,それを国立機関として蓄積する意図はあるか,という質問に対して,両氏とも,現時点では技術の標準化に重点を置いており,学術研究成果の発表・流通・保存はより大きな仕組みで考える必要があるとの認識であった。

  Gallicaの若い世代へのアウトリーチ戦略については,SNSでのプレゼンスを重視しており,その中でもTikTokなどのより新しいSNSサービスを注視している。また,親世代に向けた戦略も重要で,例えばGallicadabraというアプリケーションは親がおとぎ話を読み聞かせるのに利用でき,また俳優による語りを聞くこともできる。

  本イベントでは,事業を展開する側の主体性という観点から「戦略」というテーマを掲げたが,それは実はユーザーに負うところが大きいと実感させられる機会であった。それは,大場氏の「研究者が使う,研究の発展に生かす,SNSで話題になる,つまりユーザーが電子図書館を支えてくれる」という言葉に端的に示されている。

Ref:
“日仏図書館情報学会創立50周年記念イベント”. 日仏図書館情報学会.
http://www.sfjbd.sakura.ne.jp/gallica_j.html
Gallica.
https://gallica.bnf.fr/
GallicaPix.
https://gallicapix.bnf.fr/
data.bnf.fr.
https://data.bnf.fr
“Gallicadabra”. BnF Éditions.
http://editions.bnf.fr/gallicadabra
永野祐子. Gallica−フランス国立図書館による電子図書館の試み−. カレントアウェアネス. 1998, (226), CA1193, p. 2.
https://current.ndl.go.jp/ca1193
服部麻央. フランス国立図書館の電子図書館Gallicaの20年. カレントアウェアネス. 2017, (333), CA1905, p. 5-7.
https://doi.org/10.11501/10955541