CA1194 – 電子図書館構築への動き−カナダ− / 佐藤従子

カレントアウェアネス
No.226 1998.06.20


CA1194

電子図書館構築への動き−カナダ−

1997年はカナダ図書館界にとって,電子図書館構築に関する共通の基盤をつくり,コンセンサスを得るための下準備が行われた年だったと言えよう。すなわち,2月にカナダ国立図書館(National Library of Canada; NLC)は国内の各図書館で行われている電子図書館プロジェクトの実態調査を行い,3月には同図書館で電子化コレクションに関わる代表者会議を開催,さらにこの会議の結果を受けて,Canadian Initiative on Digital Librariesが発足したのである。

これらを順を追って紹介すると,まず2月に行われたアンケートでは,カナダの公共図書館,大学図書館,連邦および州の議会・政府図書館など,50の図書館から回答を得た。このうち,独自に資料の電子化プロジェクトを実施している館は33(66%),外部制作の電子化資料を収集・保存している館が23(46%),インターネットウェブ上の電子化情報へのアクセスを提供している館は40(80%)であった。

電子化プロジェクトの対象資料は,郷土資料やその館の特殊コレクションが多く,書籍(全文),写真・スライド,検索ツール,雑誌記事などである。電子化コレクションを永久保存すると決めている館は少ないが,大部分の館が今後も電子化を続ける意志を持っている。94%が電子化の重複を避けるため,国内での登録制度の設置を希望している。

外部制作の電子化資料を収集している23館の約半数は大学図書館である。対象資料は,統計や辞書・事典,目録などの参考図書,あるいは全文データベースが多い。多くの館がこれらの資料の永久保存には反対か,あるいはまだ方針を決めかねている。今後プランを拡張するかどうかは館によって様々である。

インターネット上の電子資料については,職員すべてがインターネットにアクセスできるようにしている館が78%,利用者がアクセスできる館が84%であった。利用者へ提供している端末の数はノバスコシア大学の500が最多である。提供しているサービスは,自館のウェブサイト(93%),ウェブ上のデータベース(58%),ウェブの一覧,ウェブ上のOPAC公開などで,ほとんどの館が有益なウェブサイトへのリンクを整備して提供している。また多くの館が今後もインターネットへのアクセスサービスを継続,あるいは拡張する方針である。

運営面では,ほとんどの館が電子化資料に対してまだ明確な方針を持っていないことがわかった。全国規模での話し合い,あるいは協力はどんな点で有益かという問いに対しては,1. 対象資料の選択,2. 長期の利用・保存の方法の決定,3. 重複の回避,4. 的確な基準の適用,に有益という回答が多かった。

2月の調査に続いて,NLCは3月下旬に国内の25の図書館・機関から代表者を招いて会議を開いた。2日間の会議で,参加者たちは,各図書館では電子化が進み国全体として共同して今後の問題に当たる段階にきているとの認識を得,まず,今後の協力活動の土台となる原則を次のように定めた。

  1. カナダ人は情報を知る権利を有する。
  2. 図書館は,情報を整理し的確な方法で提供することによって,あらゆる形態の情報への平等なアクセスを促進する。
  3. カナダの図書館は情報ハイウェイへのアクセスの提供において、重要な役割を果たす。
  4. カナダの図書館は,他の情報提供者と協力し,科学技術の可能性を追究し,すべてのカナダ人がその望む情報へのアクセスを得られるよう努める。

続いて会議では次の事項が優先的に検討された。すなわち,1)共通の問題を解決するための全国規模の機関の設置,2)電子図書館のための標準の定義,3)コミュニケーションを促進するための戦略を発展させること,の三つである。

まず,NLCは新しく設立する機関(Canadian Initiative on Digital Libraries)の目的と行動計画を説明し全国に参加を呼びかける文書の作成を要請された。会議参加者の意図では,この機関は,第一にカナダの図書館のために,電子図書館の運営・発展にともなって生じるさまざまな問題を解決・調整するための自選自決機関であるが,また同時に出版社,ソフトおよびハードウェアの提供者や政府など外部機関との関係から生じる問題にも当たることになる。

標準化に関しては次の原則が定められた。すなわち,専門家のグループが適切な国際標準に従って,コンテンツの作成,記述,保存,アクセスと検索,互換性の各領域における優れた実践例を調査すること。各図書館は,これらの専門家と協力して,前記各領域における適切な標準の確立に努めること。標準の作成と普及に際しては,合意を重視し,また実践例に基づくこと。カナダ独自の状況(たとえば二言語使用)が考慮されられること。

さらにコミュニケーションの方法として,現在ある電子化コレクションの登録と,ワークショップ,研修,標準に関するクリアリングハウスの設置が提案された。

以上の3月の会議を受けて,NLCはCanadian Initiative on Digital Librariesの設置を提案する文書を作成,国内の図書館に送付した。文書はまず3月の会議で合意を得た原則事項をあげ,この機関の使命を次のように述べている。「Canadian Initiative on Digital Librariesは,カナダの電子図書館資源に対する長期のアクセスと相互操作性を容易にするため,電子コレクションとそのサービスの発展を奨励,調整,および促進するものである。」さらに文書は具体的にこの機関の組織を説明している。まず1年任期の7人のメンバーからなる運営委員会が機関の活動をリード・調整する。さらに,3つのワーキンググループが設置される予定である。事務局はNLCに置かれる。

この提案文書を受けて,1997年12月の時点で,29館が正規会員,24館が準会員として登録を済ませている。また,初代の運営委員会のメンバーも正会員の投票によって選出され,11月に最初の会議が開かれた。新しく発足したこの組織が今後どのようにカナダの電子図書館構築に貢献していくかが注目される。

佐藤 従子(さとうよりこ)

Ref: Digital resources in Canadian libraries: analysis of National Library survey. Nat Libr News 29 (6) 1-7, 1997
National Consultation on Digital Collections: meeting report. Nat Libr News 29 (7/8) 1-4, 1997
Canadian Initiative on Digital Libraries [http://www.nlc-bnc.ca/cidl/