カレントアウェアネス
No.226 1998.06.20
CA1195
アメリカ公共図書館のインターネット利用方針
アメリカでは公共図書館でのインターネット利用が広がっており,利用方針の確立の必要に直面している。ある調査によれば,1998年初で約80%の公共図書館がインターネットに接続しており,また,1997年1月以来公共図書館を通じたインターネットの利用は86%も増加したという。しかし,統一的な利用方針がないため,現在は各館が他館の情報を参考にしながら独自に方針を定めている状況である。
バートが1996年5月から1997年1月にかけて行った調査によると,各館の利用方針の内容はかなり多岐にわたっており,また,大図書館の方が小図書館よりも利用の制限が緩やかである傾向が見られた。
この調査はインターネット上で公開されている公共図書館のホームページにアクセスし,掲載されている利用方針の内容を分析する方法で行われた。調査の結果75の公共図書館の利用方針が集められた。各図書館はサービス対象人口によって大,中,小図書館に分けられ,各グループ毎に結果を集計した。
方針の内容には大きく分けて禁止行為,利用条件,その他の3種類がある。
禁止行為
図書館の規模による違いはあまりなく,特に高頻度で現れるのはシステムセキュリティ破壊(全体の32%),違法行為(36%),著作権法やソフトウェア許可違反(32%)の3つである。その他,他人への嫌がらせ,ポルノを見る,メールの送信,持込みソフトの利用,利益を目的とした広告などの商業目的での利用があがっている。
利用条件
図書館の規模によってかなり違いが見られた。利用同意書へのサインが必要(大図書館0%,中図書館22%,小図書館23%),利用申込書が必要(大7%,中26%,小24%),などのほか,子供の利用の制限等に関しては,小図書館の方が厳しい傾向にある。具体的には,保護者の許可が必要(大0%,中11%,小24%)というのが一番多く,他に保護者の同伴を求める館もある。子供専用の端末を用意している館もあるが,子供へのサービスを差別することは『図書館の権利宣言』に反するため,子供専用端末の設置はごく少数に止まっている。又,多くの図書館では,子供の利用は従来の図書館資料と同様に,親の責任であるとしている(全体の60%)。利用に際して料金を徴収する館は全体で4%に過ぎず,特に大図書館では今回1館も無かった。これに対してプリントアウトに何らかの制限を設けている図書館は大図書館で29%にのぼり,全体では19%であった。
その他
かなり多くの図書館で見られたのは,図書館はインターネットへのアクセスをコントロールしたり監視したりせず,利用者がインターネット上で見つけた情報について,図書館は責任を負わないという否認声明である(全体の80%)。この他,不快な情報の存在に関する警告(50%),利用方針に違反した場合,以後利用を禁止する可能性があるという警告(44%)は今回の調査でもっとも顕著に現れた傾向である。従来の図書館資料と違って,利用者がインターネットを使って情報を探す場合,図書館ではその情報を選別することができないため,このような否認声明が多く見られるわけだが,この問題を解決する手段の一つとして,フィルタリングソフトの利用が一部で行われている。しかし,既報(CA1156参照)のように,このソフトは知的自由との関係で問題が多いために,導入に慎重な図書館が多く,今回の調査では,フィルタリングソフトを利用していたのは全体の4%に過ぎなかった。
今回の調査はサンプル数が75と少ないため,結果の信頼性には問題がある。しかし,その後1997年4月に高鍬裕樹が行った同様の調査ではサンプル数が134に増えているが,利用方針の内容には今回の調査と大きく異なる傾向はないようである。ただ,この2つの調査のような方法をとった場合,調査対象がホームページを作成し,その上で利用方針を公開しているという比較的インターネットの利用に熱心な図書館ということになるため,全公共図書館を対象とした調査を行った場合には,今回とは違った結果が出てくる可能性もある。
これまでにインターネットの提供を行ってきた図書館では,当初予想されたほど利用の際に問題は起きていないという報告をしている。しかし,従来の図書館が関わってきた活動,サービス,資料との違いのため,インターネット利用方針の確立にはまだまだ時間がかかると思われる。日本ではまだインターネットの利用は主に大学図書館,専門図書館でなされており,提供に付随する問題も少ないが,将来的にはアメリカと同じく,公共図書館での提供が議論を呼ぶことになるだろう。
金井 ゆき(かないゆき)
Ref: Burt, David. Policies for the use of public Internet workstations in public libraries. Publ Libr 36 (3) 156-159, 1997
高鍬裕樹 アメリカ公立図書館ではどのようにインターネットを利用できるのか 図書館界 49(4)212-230,1997