CA1156 - フィルタリングソフトと公共図書館 / 松井一子

カレントアウェアネス
No.219 1997.11.20


CA1156

フィルタリングソフトと公共図書館

アメリカでは利用者に端末を開放する公共図書館が増え,誰もがネット上のあらゆる情報に自由にアクセスすることが可能になってきた。しかし,ネット上の情報の中には多くの人々が有害と感じる表現・描写を含むものがあり,特に子どもに与える影響を憂慮した地域住民から図書館に苦情が寄せられるようになった。そこで解決策として注目を集めているのが,そのような情報の接続を拒むことのできるフィルタリングソフト(用語解説T23参照)である。発信側を規制するのではなく,受信側の意志で受け取る情報を制限できるところに特色がある。

ALAは,このソフトの利用は図書館の権利宣言を侵害するとの見解を発表している。知的自由部(OIF)のクラグ(Judith Krug)は反対の理由として,1)わいせつな情報を探そうとする子供は実際にはほとんどいない,2)図書館はネット上の有益なサイトを探すという活動に重点を置くべきである,3)最終的に子供の責任を持つのは親である,4)現在の技術では必要な情報まで遮断してしまう,と述べている。なかでも4)については,知る権利を妨害するものではないかと危惧されている。フィルタリングソフトは人間の手作業による分類,またはキーワードやPICS(Platform for Internet Content Selection:HTML文書に組み込まれたサイト内容の分類様式)を手がかりとして有害なサイトかどうかを判断するのだが,その際必要な情報(乳ガン−breastという単語が引っかかってしまうのか?−や薬物投与,またはただ単に除外したいキーワードの含まれた単語を持つもの:詩人Anne Sextonのサイト等)まで遮断してしまうことがあるのだ。逆に,有害な情報を通してしまうこともあり得る。画像情報に関しては,現在の技術で,実際に見ることなく内容を識別するのは不可能だと言われている。ソフトを使用するとしても,現時点では全ての機能を使わず部分的に取り入れるにとどめておくほうが安全であるとして,チャットグループや成人向き画像のみを遮断するように認定した上でソフトを使っている図書館もある。

政府がソフトを使うよう要請してきた例もある。オハイオ州議会では,OPLIN(Ohio Public Library Information Network:オハイオ州内公共図書館のネットワーク)にフィルタリングソフトの導入を求める予算案が提出されたが,図書館員たちの働きかけもあり,上院の審議で導入は個々の機関の判断に委ねるとされた。

代替手段も模索されている。ノースカロライナ州のシャーロット・メクレンバーグ郡公共図書館は,利用者が12歳以下の場合は親同伴,13〜17歳の場合は親の署名が必要と決めた。しかしこの方法は親が協力的でない場合について考慮されておらず,問題が残されている。前掲のOPLINが注目しているのは,vImpact社のLibrary Channelというソフトである。このソフトを使えば,図書や雑誌を選択するのと同じようにネット上のサイトを選択し,図書館のコレクションと同じように組織して,主題別のリンク集を作成することができる。どのような情報を選ぶかはユーザーの判断に任されており, Library Channelを経由するかしかないかという選択も可能である。この製品の情報はhttp://www.vimpact.netで提供されている。

一方シカゴでは,青少年の自由なアクセスを保障するよう提供方針が改訂された。問題を抱えているとはいえ,書架スペース以上の情報を提供し,公衆の興味を図書館に向けることができるインターネットの有用性は誰もが認めている。ただ,フィルタリングソフトは家庭や学校のように決まった保護者がいて判断を下せる場所向きであり,不特定多数の人々が利用する図書館には適さないと多くの図書館員は考えている。しかし子供の自由な利用にはやはり問題があると考える人も多く,図書館の児童室に子供向けの資料が置かれているのと同じように,児童室の端末に限りアクセスを制限してはどうかという意見もある。

このように図書館によって対応は様々であるが,OIFとALAの知的自由委員会では,現在インターネットの利用に関する方針について討議しているところである。クラグは,今後それぞれの親の都合に合わせてソフトの設定が簡単に変えられるようになれば,ALAもその利用を認めるだろうと言う。しかし,不安定な状況の中で実際に苦情に対応しなければならない現場の不安は募る一方である。

The Internet Access Cookbookの著者シュナイダー(Karen Schneider)は,司書や技術者の協力を得て,フィルタリングの技術を図書館の視点から研究し,その成果をThe Internet Filter Assessment Projectとしてネット上で発表している(http://www.bluehighways.com/tifap/)。そして,フィルタリングソフトが図書館界に投げかけている問題点として以下の事柄を挙げている。1)ソフトを使って,インターネットをある人には利用させ,ある人には利用させないということは許されるのか。2)ネットワーク環境における蔵書構築の在り方とはいかなるものか。3)選択と検閲の差はどこにあるのか。

日本ではまだ端末を解放している図書館は少なく,この種のソフトはもっぱら教育関係者の間で問題になっているようである。しかし,これらの問題点は遅かれ早かれ日本でも懸案事項となることであろう。

松井 一子(まついかずこ)

Ref: Oder, Norman. Krug's toughest fight? Libr J 122 (8) 38-41, 1997
Libr J 122 (10) 13-14; 122 (11) 13-14, 1997
Libraries nationwide pressured to install Internet filters. Am Libr 28 (4) 14, 1997
Ohio lawmakers weigh web filters for every public library. Sch Libr J 43 (6) 12. 1997
日本経済新聞(夕刊) 1997. 6. 2
PICS: frequent asked questions. 最終更新1996. 10. 29 [http://www.w3.org/pub/WWW/PICS/#FAQ]