CA1157 – 問題利用者への対処 / 長崎洋

カレントアウェアネス
No.219 1997.11.20


CA1157

問題利用者への対処

他の利用者や図書館員に不快な思いをさせたり,時には犯罪を引き起こす,いわゆる問題利用者については,本誌でも取り上げたことがある(CA757,CA997等)。彼等に対しては,事件となることを防ぐべく,慎重な対処が必要とされる。ここでは,カーリ(Curry)の公共図書館における問題利用者への対処法を紹介する。

問題利用者のタイプを個別に特徴づけると以下の様にできよう。1)トイレの常連 2)静かな又は眠っている酔っ払い 3)騒がしい酔っ払い 4)露出狂 5)心無い汚損者 6)職員の後を付けたり職員をずっと見つめたりする者 7)想像上の仲間と大声で話し合っている者 8)衛生上の問題がある者 9)麻薬使用者 10)盗人 11)罰金,規則等に不満を述べる者 12)騒々しい十代 13)資料を破る或いは切り取る者。

問題利用者が増加した背景に社会の変化があるのはもちろんだが,図書館側の変化が問題行動を誘発している点も見逃すことはできない。かつての閉架書庫と見通しの良い閲覧室,集中化されたサービス・ポイントに比べ,利用者の利便やプライバシーを重視した現在の小さな読書コーナーや書架に囲まれた読書テーブルなどは,問題利用者にとっても活動しやすい環境である。新しいタイプの視聴覚資料やコンピュータ関連機器・資料が次々に導入され,それらを適切に守る方策が追いつけない。同時に財政難のため,多くの図書館において来館者の増加に見合っただけの職員の増加が見られない。

問題のある状況が生じた時に警察または警備員の介入を求めることを強調するのは間違っているかもしれない。実際,ほとんどの図書館には固有の警備職員はいない。それどころか,人員不足の警備部門は,他人を傷付けたりでもしていない限り利用者を立ち退かせるための呼び出しには応じないことが多い。図書館員は,ケースバイケースで,自分達で状況に対処できるかどうか,或いは外部の助けを必要とするかどうかを決定せねばならない。

自信を持った断固とした態度は,事件に職員が対処する時に重要である。攻撃者に対してきっぱりと,特定の行動が「図書館内では受け容れ難い」と,そして「すぐに立ち去らないと警察を呼びます」と告げることは,臆病な職員が信じているよりもしばしば状況を解決する。しかしながら,問題利用者に立ち向かう決定を下した時には,職員は優勢な状態を失う危険性を常に認識していなければならない。以下は,対決が避けられない場合にその危険性を最小化する秘訣である。1)即座に断固たる態度で対応せよ。2)常にチームワークを保て。3)結論を与えよ。つまり「この行動を続けるのであれば,あなたは図書館から立ち去ることを求められます。」と告げよ。4)近づきすぎるな。5)手を触れてはならない。たとえ彼らを敷地の外へ導く時でも。6)議論するな。あなたの立場をきっぱりと述べ,簡潔に説明し,必要に応じてそれを余計な推敲をせずに繰り返せ。7)相手が対決姿勢を明確にしたならば,たとえ盗難が疑われる人物であろうと,逃げ道をふさいではならない。

問題利用者に関して特に重要なのは,以下の三点である。第一に,問題利用者は,お茶の時間に話の種となるとき以外は図書館員の議論の対象にならない。茶のみ話にはいくつかの利点もある。困難といらいらとを即座に,非公式に共有することは,職員がくよくよせずに不安な事態に正面から立ち向かい,それらを解決する助けとなるからである。しかしながら,問題解決に適した思慮深い分析と真剣な議論は休み時間では無理である。より公式で司会者のいる討論会―労働時間中に設定された―が,問題への対処法を定めるために必要とされる。

第二の重要なポイントは,専門職員も補助職員も,カウンターに立つ職員が問題状況下で自分達に期待されることを前もって知っておくことである。多くの者が困難と不確かさとで麻痺させられたように感じるのは,問題利用者及び緊急時の対応策が存在しないか,曖昧なものでしかないか,古いものしかないからである。適切な対応策の策定が必要である。

第三に,最前線の補助職員がしばしば失望しているのは,高い地位の管理職を含む図書館員の中には,問題状況下で管理上の責任を取るのを嫌がっているように思われる者もいるということである。多くの職員は,怒っている利用者と顔を会わせるのに尻込みしている管理職に見捨てられたように感じる。全てのレベルの職員の責任が全員に対して明らかでなければならない。そして専門職員は,たとえ「肩書」のない下位の者であろうと,緊急時においてはあまり楽しくない管理上の役割を常に進んで果たさなければならない。現職教育によってこの困難な管理領域が扱われるべきである。しかしながら,図書館学校と専門団体ともまた,カリキュラムの増加あるいは教育プログラムの継続を通じて図書館員の能力の水準を引き上げることに努めるべきである。

公共図書館は1990年代において非常に忙しい場所であり,多くの組織では,予算削減により職員の労働環境はストレスに満ちたものとなっている。その上に加えられる,問題利用者に驚き,かつ彼らに対処することに慣れていない職員のストレスは,意識の向上,訓練,より良い管理上のコミュニケーションによって引き下げられうる。図書館を経営する者と図書館学を教育する者とはこの問題に対処することに今より遙かに積極的になる必要がある。

長崎 洋(ながさきひろし)

Ref: Curry, Ann. Managing the problem patron. Public Libr 35 (3) 181-188, 1996