カレントアウェアネス
No.215 1997.07.20
CA1133
米国議会図書館−1996年を振り返って−
1997年にトマス・ジェファスン館100周年,2000年には図書館創立200周年を控え,米国議会図書館(LC)は1996年に,新技術による議会及び国民に対するサービスの向上,未整理資料150万点の滞貨解消,蔵書管理システムの改良,大閲覧室でのクリントン大統領の1996年通信法への署名といった実績をあげた。また,スコット(Donald Scott)氏を副館長に迎えて,経営改革案を推進し,1975年来のクック人種差別共同訴訟の解決を見た。以下に何点か紹介する。
経営改革案(MIP)
会計検査院(GAO)が委託していたLCについての2つのリポート(Booz-Allen & Hamilton社による経営面のレビューと,Price Waterhouse社による会計監査)が発表された。LCは特に,機能を縮小して「情報や知識のブローカー」へと変化すべきであるとするBooz-Allenリポートの意見に反対し,従来の使命の重要性を主張したが,妥当な勧告については,現在推進しているMIPに組み込まれるであろう。
なお,MIPは,1) 企画計画,2) セキュリティ,3) 労使関係,4) 人材開発,5) アカウンタビリティ機構,6) サポート機能の能率と適応性,7) 運営手順の合理化,8) 財政運営,9) LCの広報,という9つの構成要素から成っている。
議会に対する立法支援
1996年の議会調査局(CRS)による議会支援には以下のものがある。
クリントン大統領は2月8日,LCのトマス・ジェファスン館大閲覧室において1996年通信法に署名した(CA1124参照)。CRSは,独占禁止法や憲法修正第1条(表現の自由)への抵触といった法律上の問題分析を行い,この情報スーパーハイウェイ政策をより活性化するための立法に寄与した。
著作権局も,全米情報基盤(NII)の著作権法に及ぼす影響や,著作権を有するコンテンツのインターネット掲載におけるオンラインサービス業者の責任などについて,立法支援を行った。
新技術を導入したサービスの進展
LCが提供するインターネット上の資源はますます充実している。96年6月にはホームページも新しくなり,一般からのサーチが簡単にできるようになった。LC情報システム(LOCIS)が24時間利用可能になった。
1995年1月に開かれたWWWベースの立法関係資源THOMASには,法案要約やステータス情報,上下院の委員会報告,会議録索引(CRI)などが新たに掲載されている。また,上下院のホームページや独立宣言,憲法等史料本文へのリンクも増えた。96年9月30日現在,開設以来の総処理数は3千万件に上る。
LCはまた,下院監査委員会,上院議員運営委員会と共同で,第105回議会(現在開会中)開始を目途に,議会のための立法情報検索統合システムプランを開発した。CRSも,イシューブリーフをオンラインで議会内に提供するなど,刊行物やサービス案内情報のインターネットを通じてのアクセスを強化した。
LC法律図書館がホストを務め,現在11カ国が参加している世界法律情報ネットワーク(GLIN)(CA1059参照)も,96年7月にLCのホームページからアクセスできるようになった。
国立電子図書館(NDL)プログラム(CA1001参照)は,2000年の創立200周年に向け数百万件のアメリカーナ資料の電子化を目指しており,他の寄託機関の蔵書の電子化のための資金援助も行っている。35万の電子ファイルが既にオンラインまたはディジタルアーカイブで利用可能,170万ファイルが準備中である。オンラインコレクションの数は16に倍増した。また,オンライン展示は,「前線に立つ女性展」「ザクセン州立図書館の名宝展」の2つを加え,全部で12になった。さらに,3月に教師と生徒に向けた教育ページを開設し,9月には新学期特集を組んで,LC資料の教室での利用に関するアイデアなどを掲載している。
地図室(G&M)は,地理情報システム(CA898参照)によって,地図地理学会における先導的な役割を果たしている。民間との共同作業で,大フォーマットの電子画像を作成・転送・表示する技術を開発しているが,既に700以上の稀覯地図をスキャンしており,これを世界中に配信するための新しいファイル圧縮技術のテストに成功した。
これらLCのインターネット資源は,たとえば,タイム誌が「アメリカン・メモリー」を96年のベストの1つに挙げ,アトランティック・マンスリー誌はLCの展覧会情報を「最も注目に値する」として言及するなど,数々の賞賛を受けている。
その他のテスト段階にあるプロジェクトとして,著作権局電子登録・記録・納本システム(CORDS)(著作権局と高等研究計画局(ARPA)・CNRI(CA1023参照)との共同事業による,著作権の電子登録やインターネットによる納本のための新システム),CIPを電子的に行うプロジェクト(ECIP)などがある。
施設及び蔵書管理
トマス・ジェファスン館とジョン・アダムズ館の修復が一部を除いて完了し,96年1月にはジェファスン館西口が再開された。同館は100周年に当たる97年に公式の開館式を行う予定である。
LCは,GAO委託の2リポート及び,コンピュータ・サイエンス社との契約による蔵書管理に関する調査の結果をもとに,全館的セキュリティ・プログラムを開発中である。1996年には,ジェファスン館の利用者自動登録システム,新聞雑誌閲覧室の防犯ゲート設置,アダムズ館の電子的な書架アクセスコントロールシステムの稼働,ランドーバー別館の常駐セキュリティ担当職員の採用と新しい電子アクセスシステムの設置などが行われた。
資料保存については,「特別貴重資料」用の保護ケースの開発,緊急事態における対応プランの施行,2万5千件の図書の大量脱酸処理,メリーランド州フォート・ミードの第2書庫予定地の環境整備等が行われた。この第2書庫は,増大する蔵書(特に印刷物)や,滞貨解消プロジェクトと関連する整理済み資料のスペースの確保のため計画されている。
滞貨解消
LCでは引き続き未整理資料の滞貨解消につとめ(CA1023参照),1996年度中に150万件の滞貨を減らした。これで,1989年9月の滞貨調査開始時に比べ,累計47.2%減少したことになる。特に進展が見られたのは,289,509冊の目録作成など,印刷物資料の整理の部分である。また,95年度に始まった共同目録作成プログラムの参加図書館は213館に達し,96年度には,書誌レコード14,173件,著者名典拠97,964件,シリーズ典拠8,074件,件名典拠2,026件,分類ナンバー780件という記録的な数のレコードが作成された。
木藤 淳子(きとうじゅんこ)
Ref: 1996 Year in review. LC Inf Bull 56 (3) 45-51, 1997
Hearing held on General Accounting Office report. LC Inf Bull 55 (9) 193-195, 1996
Donald Scott appointed deputy librarian. LC Inf Bull 55 (15) 311, 1996
Cope, R. L. Management review of the Library of Congress: the 1996 Booz Allen & Hamilton Report. Aust Acad & Res Libr 28 (1) 16-33, 1997
世界の国立図書館の将来構想と電子図書館への挑戦 国立国会図書館月報(431) 2-21, 1997