4.4 ARL(研究図書館協会)

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千葉大学附属図書館 ライブラリイノベーションセンター  高木 和子(たかぎ かずこ)

(1) 組織

 研究図書館協会(Association of Research Libraries: ARL)は、米国とカナダの研究図書館で構成される図書館協会で、1932年に設立された。変化する学術コミュニケーションの環境や、研究図書館とそのサービス対象である多様なコミュニティに影響を与える公共政策に影響を与えることをその使命とする。

 ARL会員は、共通の研究使命・目標・関心・ニーズを有する研究機関に限られ、加入するには理事会の推薦を受け、会員による承認を受けなければならない。候補機関は、設定された基準を満たすことが必要とされる。現在の会員図書館123館の内訳は、大学図書館が113館(1)、非大学図書館が10館である。数の上では北米の全図書館の一部に過ぎないが、資産、予算、利用者という観点から見ると、大学・研究図書館市場の大半を占め、図書館資料の購入・購読に毎年10億ドルを超える金額を支出している。2004年度の会員図書館の支出総額は36億ドル(4,320億円)であった。

 理事会を構成するのは、会員により選ばれた代表で、3年の任期を務める。委員会、タスクフォース、作業グループも、特定の課題に取り組もうとする会員の代表から成る。職員は約20名で、その他に会員機関から派遣されてくる客員プログラムオフィサー(VPO)がおり、ARLのためのプロジェクトを遂行する。通常VPOの給与は派遣機関が負担する。会員機関の代表が集まる会員会議は年2回開催される。

 ARLは特定の使命や目的を達成するために、米国大学協議会(AAU)、研究図書館グループ(RLG)、米国図書館協会(ALA)、SPARC、OCLCなど、数多くの図書館・情報団体と協力している。

(2) 戦略計画

 2004年11月、ARLの戦略計画作業部会は理事会の指導に基づいて「ARL2005-2009年戦略計画」を発表した。2005年からの5か年間の主要優先事項を、(1) 学術コミュニケーション、(2) 情報・公共政策、(3) 教育・研究とすることが確認され、これらの優先事項を遂行するために、次の戦略指針が決められた。


 

 1) ARLは、効果的で伸張性のある、持続可能で経済的に実行可能な学術コミュニケーションのモデル開発の指導者となる。そのモデルは教育や研究やコミュニティへのサービスをサポートするバリアフリーのアクセスを提供する。

 2) 情報の管理・提供の方法を決定するような情報政策と、その他の公共政策に全国的、国際的に影響を与える。

 3) 会員図書館が、研究や大学・大学院教育に影響を与えるような変革に従事するために、新しい役割拡大を促進助長する。


 

(3) 主な活動

 研究図書館や研究コミュニティに影響を与える様々な問題に取り組んでいるが、次の7項目が主要な課題とされる。

 1) 著作権と知的財産

 著作者の知的財産権を守る方法を追求すると同時に、情報へのバリアフリーアクセスを促すために、ARLは他の高等教育・研究コミュニティの活動に参加してきた。現在取り組んでいる課題は以下のとおりである。

 1. 著作権者が不明な著作物(Orphan Works)の扱い

 2. フェアユース(公正使用)の問題

 3. 著作権108条研究グループの活動

 米国著作権法108条(図書館等の権利制限・例外規定)の見直しを要求

 4. 著作権保護規格(Broadcast Flag)ルール

 図書館員や消費者が、著作権で保護された作品を「公正使用」する権利が大きく妨げられ、機器間の互換性が制限されるとの懸念から、デジタル放送向けの著作権保護規格(2)に対して、図書館員や公益団体が共同で訴えを起こした。

 2) 多様性イニシアチブ

多様なグループからの職員採用を促進するために、研究図書館におけるキャリア機会を知らせ、マイノリティ・グループの学生を支援するイニシアチブである。会員機関職員には開発セミナー、相談、討論、研究など様々な機会を与える。

 1. リーダーシップ・キャリア開発プログラム

   マイノリティ・グループの中堅ライブラリアンに、18か月のリーダーシップ研修を提供する。

 2. 多様な職員の採用

   マイノリティ・グループの学生に2年間にわたり、最高1万ドルの奨学金を与える。

 3. キャリアリソース

   キャリア開発の機会とリソースを提供する。

 4. リーダーシップ

   「ARLリーダーシップ研究所」が、米国政府機関「博物館・図書館サービス機構(IMLS)」の資金を受けて、研究やリーダーシップ開発研修を行う。


 

 3) e-Scienceへの図書館サポート

 自然科学、応用科学、テクノロージー、生物医学、自然科学研究アプローチを共有する社会科学を含めて、e-Scienceを支援する。

 4) リーダーシップ開発

 高等教育の場における研究・教育ニーズを満足させるために、リーダーシップ開発を行う。

 1. ARLアカデミー

   図書館情報学の学生を特別研究員として受け入れる。

 2. 研究図書館リーダーシップ特別研究員プログラム

   会員図書館と共同で行う、管理職向けのリーダーシッププログラム。

 5) 法規と歳出予算

 公共政策プログラムの主要目的は、研究図書館と高等教育コミュニティに有利な立法的措置に影響を与えることである。担当者は、州、連邦政府、北米、外国政府機関の立法機関の動きを追い、情報、知的財産権、テレコミュニケーションに関する政策を分析し、影響を与える方法を模索する。さらに、国の研究所や機関への資金供与を促し、会員の利益を推進する。

 6) 図書館アセスメント

 統計・測定プログラムは研究図書館の業績と、研究・学問・コミュニティサービスへの貢献を測定する。ARLは学術図書館の業績基準、統計、管理ツールの開発、テスト、応用に関して指導的な役割を果たしており、1961年度以降、会員図書館の統計は毎年発表されている。医学図書館統計、法律図書館統計、保存統計、大学・図書館総経費統計のほか、1980年からは給与調査統計も集計されている。

 7) 新しい出版モデル

 研究資料や教育資料に対してバリアフリーアクセスを提供する、革新的なシステムの開発を率先して提唱してきたARLは、健全な市場を助成し、学術情報へのアクセスを妨害する市場バリアを小さくすることに努めている。

 ARLは上記の活動に加え、各種の出版物を通して、研究図書館や高等教育の関係者のみならず、学術コミュニケーションや情報政策の未来に関与する人々にも興味のある情報を提供している。会員図書館の統計、給与調査、SPEC Kitsにより、会員図書館の実態を知ることができる。



(1) ARL会員になることは、多くの大学図書館にとって重要な目標のひとつであると言われるが、その設立に尽力したスタンフォード大学は、2004年1月1日付けで脱退した。「ARLへの会費(年2万ドル弱)、報告努力、職員の関与に見合う利益を見出せないこと。ARLはスタンフォード大学や研究機関コミュニティのニーズに役立っていないこと」がその動機とされている。

(2) デジタル放送番組の著作権を保護するために、デジタル放送波にタグを埋め込み、テレビやレコーダなどの受信機が、タグ情報に基づいて再生や録画の許可を出すというもの。

Ref:

Association of Research Libraries. “About ARL”. http://www.arl.org/arl/, (accessed 2007-02-22).