カレントアウェアネス-E
No.160 2009.11.04
E986
インディアナ大学の音声・映像資料の保存についての調査報告書
米国のインディアナ大学ブルーミントン校は,全米有数の映画フィルムのコレクションを含む約56万点の音声・映像資料を所蔵している。その多くが劣化の危機にさらされており,同時にフォーマットの旧式化も進んでいることから,保存のための対策を実施する必要があるが,これまでにデジタル化されたものは8%にとどまっている。今後15年から20年の間に対策を実施しないと,保存作業が不可能になるか,非常に高コストのものとなってしまうとされている。この問題に対する全学的な取組みを検討するため,現在の保存状況等の調査が実施され,報告書がまとめられた。以下にその概要を紹介する。
同校では,約20万点を所蔵する音楽図書館を始めとする80の組織が,音声・映像資料を所蔵している。その構成は,オーディオ資料が64%,ビデオ資料が22%,フィルムが14%である。記録媒体の種類は,1890年代の蝋管(初期の蓄音機)から最新のデジタルファイルまで,51種類にわたっている。バックアップ用のコピーがとられているのは11%のみであった。
保存にあたっては,資料の価値に応じた優先順位を付ける必要がある。資料の27%は,他には存在しない「唯一」 (unique)のものとされ,それに次ぐレベルの「稀少」(rare)と判断されたものも17%あった。これらの資料のうち,特にオーディオ資料はフォーマットが古いものが多く,そのほとんどが至急の保存手当てをする必要があると判断された。
音声・映像資料の保存においてはデジタル化が一般的であるが,報告書では,フィルムについてはデジタル化はまだ定着した手法とはなっていないため,適切な環境での保管が現時点での保存対策の方法になるとしている。しかし,同校のフィルムのほとんどは,温度・湿度の管理のない環境で保管されている。そのため,ビネガーシンドロームと呼ばれる劣化が始まっているものもあり,それらについては,早急に複製を作成するか,冷凍保存する必要があると判断された。同校では,気温10度・湿度30%に保たれた保管用施設の二つ目を建設中であり,この条件であれば,ビネガーシンドロームの発症を300年後に先送りすることができ,フィルムの保存方法が確立するまでの時間を確保することができるとしている。
今後,この調査結果を基にして,全学レベルでの保存計画が策定されるが,その際に必要なこととして,権限を与えられた専門家,温度・湿度管理ので きる設備,価値ある資料を放置しないための所蔵資料の評価と管理,資料価値とフォーマット形式に基づく保存優先順位の決定の仕組み,資料へのアクセス改善のための目録整備,デジタル保存リポジトリの構築,等があげられている。
インディアナ大学のウェブサイトでは,アナログの音声・映像資料の保存問題は時間との競争であり,現在の世代の責務であるとしている。報告書でも,「この問題には今取り組まなければ,唯一の資料が永遠に失われてしまう」と取組みへの強い決意を示すとともに,同大学の取組みが他の機関にとっても参考となるであろうと述べており,充実した音声・映像資料を所蔵する機関としての自負や意気込みが感じられる。
Ref:
http://research.iu.edu/resources/media_preservation/index.html
http://research.iu.edu/resources/media_preservation/iub_media_preservation_survey_FINALwww.pdf
http://www.libraryjournal.com/article/CA6701836.html
CA1696