E980 – 米国の公共図書館におけるITサービスの現況

カレントアウェアネス-E

No.159 2009.10.14

 

 E980

米国の公共図書館におけるITサービスの現況

 

 2009年9月に,米国の公共図書館のITサービスと運営資金の現状についての調査報告書“Libraries Connect Communities 3”が米国図書館協会(ALA)により公表された。この調査は,ビル・アンド・メリンダ・ゲイツ財団の支援を受けて毎年実施されているもので,今回が3回目となる(E699,E839参照)。

 ほぼ全て(98.7%)の図書館がインターネットへのアクセスを提供しており,71%の図書館が,その地域で唯一の無料アクセスを提供していると回答している。注目すべき点としては,ワイヤレスアクセス(Wi-Fi)を提供している図書館の増加があり,その比率は前年の66%から76%に上昇している。電子資料については,9割の図書館がデータベースと契約しており,新聞・雑誌記事や各種試験の練習問題等へのアクセスを提供しているほか,音楽・映像資料や電子ブック等の提供館も半数を超えている。

 全体の35%の図書館でIT関連の訓練の教室を開設しており,特に都市部及び貧困率が高い地域での開設率が高くなっている。訓練内容は,コンピュータやインターネットの一般的な知識を教えるものが多いが,オンラインでの就職活動に関連するクラスも開設されている。また,許認可,納税,失業給付等の行政関連のオンライン手続きについて支援を行っている図書館も多い。

 一方,課題としては,接続速度の遅さや端末台数の不足があげられている。これらの改善の妨げとなっている要因として,費用やスペースの問題に加えて,回線等のインフラが未整備であることもあげられている。また,ITの専門でない職員がIT業務を担当している図書館が約63%となっていることも明らかになっている。特に地方の図書館ではその比率が75%と高くなっており,IT技術の進歩に対応するための職員の能力の向上も課題となっている。

 今回の調査が実施された時期は,世界的な不況が深刻化する直前の2008年秋であったが,その時点でも予算減の傾向にある図書館が多いとされている。不況により図書館は財政的に厳しい状況におかれているが,同時に,職探し等で図書館を利用する人も増加しているという状況にもある(CA1689参照)。報告書では,図書館は,人と交流する空間,情報の専門スタッフ,コンピュータとインターネット,そして様々な資料を提供できるという他にない存在であるとし,今後もその資源を充実させていくために,人々への注意喚起と支援を得るための活動が必要であるとしている。

Ref:
http://www.ala.org/ala/research/initiatives/plftas/2008_2009/index.cfm
http://www.ala.org/ala/research/initiatives/plftas/2008_2009/librariesconnectcommunities3.pdf
CA1689
E699
E839