E839 – 持続可能な利用者向けITサービスの提供に向けて(米国)

カレントアウェアネス-E

No.136 2008.10.01

 

 E839

持続可能な利用者向けITサービスの提供に向けて(米国)

 

 ビル・アンド・メリンダ・ゲイツ財団の支援を受け,米国図書館協会(ALA)とフロリダ州立大学は協同で,米国の公共図書館の運営資金とコンピュータやインターネットなどのITサービスの現状を明らかにするための調査を実施し,このほどその結果を“Libraries Connect Communities: Public Library Funding and Technology Access Study Final 2007-2008 Report”として公表した。なおこの調査は,2006-2007年度(E699参照)に続いて2回目となる。報告書は,(1) 5,400を超える全米の公共図書館に対し て実施した全国調査,(2) 全米各州の州立図書館機構の長(Chief Officers of State Library Agencies;COSLA)に対するアンケート調査,(3) 4つの州(ニューヨーク州,ノースカリフォルニア州,ペンシルヴェニア州,ヴァージニア州)に焦点を当てた調査及び現地取材,から得たデータを基に作成されている。

 調査結果から,公共図書館におけるITサービスについて,以下のようなことが明らかになった。

  • 73%の図書館が,コミュニティで唯一,無料で利用者向けコンピュータを提供している場所となっている(この数値は昨年と同水準である;E699参照)。
  • インターネット関連の各種サービスを実施している図書館の比率が,前回の調査に比べて2桁の伸びを記録している(例:オーディオコンテンツ38%→71%,宿題支援用リソース68.1%→83.4%)。また,図書館が提供するこのようなサービスを,より多くの人が貴重な情報資源として利用するようになっている。

 一方で,下記のようなことも明らかになった。

  • 地方政府からの資金提供は,よくても横ばい状態であるため,図書館のITサービスを支えるため,“soft”な財源(寄付,基金など)により一層頼るようになっている。しかしこれは事業の持続性を担保するような財源ではない。
  • ITサービスへの利用者のニーズに対して,応える図書館スタッフの数が足りていない。また,ITに関するスタッフのスキルを向上させるための研修が不十分である。
  • ITサービスを改善・向上していくために,必要なスペースを確保したり,インフラを整備する余裕が図書館の建物にない。

 以上のような調査結果から報告書では,公共図書館におけるITサービスに対するニーズと重要度は増しているが,長期的にサービスを保障するような運営資金,スタッフ,インフラ等に解決すべき課題があることを指摘している。そして,この課題を解決するために,連邦政府が中心となって国家レベルでの公共図書館支援策を考案すること,図書館ネットワークを構築すること,図書館と関連他機関との連携を進め,公共向けITサービス提供において公共図書館にかかるプレッシャーを分散し,構築した協力関係全体でコミュニティに奉仕すること,図書館スタッフの増員とスタッフ教育をはかること,などを提案している。

 公共図書館の運営資金獲得という課題については,OCLCが2008年7月に報告書を発表している(E818参照)。本報告書と合わせて参照することにより,米国の公共図書館の運営資金を巡る論点について,理解を深めることができよう。

Ref:
http://www.ala.org/ala/aboutala/offices/ors/plftas/pullibfunandtechaccstudy.cfm
http://www.ala.org/ala/newspresscenter/news/pressreleases2008/September2008/LibrariesConnectCommunities.cfm
E699
E789
E818