E789 – 公共図書館のインターネットサービスの現状と課題(米国)

カレントアウェアネス-E

No.128 2008.05.28

 

 E789

公共図書館のインターネットサービスの現状と課題(米国)

 

 米国では,米国図書館協会(ALA)やビル・アンド・メリンダ・ゲイツ財団などの助成により,フロリダ州立大学情報利用管理・政策研究所が1994年から,公共図書館におけるインターネットを通じたオンラインサービスおよび利用者へのインターネットアクセスサービスの提供に関する調査を行っている(CA982E353E699参照)。この調査はこれまでに8回行われているが,このうちの2006年11月から2007年2月にかけて実施された調査結果をもとに,ALA調査・統計局が2008年4月29日,現状・課題を整理したレポート(イシュー・ブリーフ)を刊行した。

 このレポートによると,米国内の16,543の公共図書館のほぼすべてが,利用者に対し無料でコンピュータおよびインターネットアクセスを提供するとともに,ICTスキルの習得や情報探索を支援できるスタッフを配置している。電子政府サービス,eラーニングなどの遠隔教育,ウェブサイトを通じた求人などが普及している現在,このような無料でのインターネットサービスは,家庭や職場でインターネットにアクセスできない人々にとって欠くことのできないものとなっている。また,インターネットベースの有料サービスを契約し,利用者に無料で提供している公共図書館も多い。もっとも多くの公共図書館が提供しているのは有料データベース(85.6%が提供)で,以下,宿題支援用リソース(68.1%が提供),デジタルレファレンスサービス(57.5%),電子書籍(38.3%),オーディオブックやポッドキャストなどの音声コンテンツ(38.0%)と続いている。

 その一方で,技術基盤の整備状況には課題が多い。特に課題となっているのは,インターネットへの通信における帯域幅である。マルチメディアや大量の画像データを利用したウェブサイトや,対話的なオンラインサービスが増加したこと,また54.2%の公共図書館が実施していると回答した無線LANアクセスサービスの普及などにより,利用者や図書館職員にとって,通信が「遅い(重い)」と感じられる状態が発生しているのである。レポートでは,全体の52.3%の図書館が,通信スピードが利用者のニーズを満たしていないと回答している。これは前年に比べ6%の増加である。

 このような通信帯域幅の不足に関しては,図書館が所在している地域により,事情が異なっている。地方の図書館の場合,そもそも利用可能な回線(事業者から提供される回線)に制約がある。費用が高い上に,契約可能な最大速度が比較的小さいのである。設備が貧弱であることから,都市部や郊外の図書館に比べ,インターネットベースのサービスや,無線LANアクセスサービスを提供している図書館が少ない。これに対し,都市部や郊外の図書館の場合は,ブロードバンド回線を契約しているところが多いものの,利用者数が多い,接続されるPCが多い,多様なインターネットベースのサービスが行われているといった事情により,1台当たりの通信帯域が不足しがちになっているのである。

 こうした状況を踏まえ,ALAでは「増加しているコミュニティのニーズに応えるべく,公共図書館には信頼性が高く,手ごろな価格で提供される,高品質なインターネットアクセスが必要である」と結論付けている。そして図書館職員に対し,このレポートをもとに,図書館の利害関係者向けに設備整備の必要性を働きかけていくよう,推奨している。

Ref:
http://www.ala.org/ala/ors/plftas/connectivitybrief1.pdf
http://www.ala.org/ala/pressreleases2008/april2008/ORSconnectivityreports.cfm
http://www.ala.org/plinternetfunding
http://www.ii.fsu.edu/plinternet_reports.cfm
CA982
E353
E699