カレントアウェアネス-E
No.136 2008.10.01
E840
eポートフォリオの活用方法(英国)
英国ではここ数年,教育に関するあらゆる部門でeポートフォリオへの注目が高まっているという。eポートフォリオとは,「学習者の学習経験およびその結果身に付けた能力などの証拠となる,学習者が作成した一連のデジタル形態の学習成果物」を指す用語で,学習者が自分の成果を同僚の研究者,教師,評価者,雇用者等に示すものである。学習者個人に特化したものであること,これまでの学習成果を踏まえて今後の学習の方向性を計画するといった自省的な学習を促進することなどが特徴とされる。
このeポートフォリオに関する標準の共同開発や,関連技術・標準のパイロット調査などを通じて,eポートフォリオ用ツール・システムの効果的な活用方法の調査・開発を行ってきた英国情報システム合同委員会(JISC)がこのほど,学習者やeポートフォリオ運営者向けに効果的な活用方法を紹介する刊行物“Effective Practice with e-Portfolios”を刊行した。
同書は,eポートフォリオの概要と,eポートフォリオに基づく学習がなぜ重要なのかを示すことから始まる。そして,学習者,eポートフォリオに基づく学習に関わる実務者,教育機関,生涯学習,eポートフォリオで学習者を評価する人々の5つの観点から,eポートフォリオの有効性,可能性を考察している。このうち評価者を除く4つの観点に関しては,2つずつのケーススタディも示されている。そして最後に,eポートフォリオ実務者向けに,eポートフォリオに基づく学習を実現するための6つのステップ(定義,理解,準備,関与,導入,評価)を説明している。
またJISCの助成のもと,高等教育でのeポートフォリオ活用方法について,具体的なシナリオを想定して検討を行っていた研究チームHEEPSS(Higher Education E-Portfolio Scenario Study)が,2008年7月にレポートを刊行している。ここでは,英国の高等教育機関で考古学を教えている教員が,他の教育機関に転職するというシナリオを想定して,どのようにeポートフォリオを活用できるか,またその場合の課題(技術的課題も含む)は何かが分析されている。このレポートは同時に,現在のeポートフォリオ用ツールでは取り扱えないツール外のウェブ上のコンテンツ,例えば機関リポジトリ内コンテンツやFlickr,YouTubeなどWeb 2.0サービス内コンテンツについても,将来的にはeポートフォリオと連携すべきものとして検討を加えている。特に機関リポジトリを含む各種リポジトリについては,多くの考察が加えられている。
これらの資料では事例紹介・考察を通じて,eポートフォリオが個人の学習履歴管理やその評価ツールとしてのみ用いられるものではなく,就業・就学や転職・転学などの際のプレゼンテーションや,人事評価・専門職認定などにも役に立つものであること,そして継続的に自己開発していく人間としての学習者の学習経験を支える基盤となり,自省的なより深い学習を促進するものであることが繰り返し強調されている。
Ref:
http://www.jisc.ac.uk/whatwedo/themes/elearning/eportfolios.aspx
http://www.jisc.ac.uk/Home/publications/publications/effectivepracticeeportfolios.aspx
http://www.jisc.ac.uk/media/documents/publications/effectivepracticeeportfolios.pdf
http://www.jisc.ac.uk/Home/publications/publications/heepssfinalreport.aspx
http://www.jisc.ac.uk/media/documents/programmes/digitalrepositories/heepss_final_report.pdf