カレントアウェアネス-E
No.151 2009.06.10
E932
Web 2.0環境下で,学習者の期待に応える高等教育とは?(英国)
2009年3月,英国の高等教育関係者14名からなる「変わりゆく学習者の経験を調査する委員会」が,Web 2.0環境下における学習者の経験や期待に応える高等教育を実現する戦略・政策に資するべく行った調査の結果を,『Web 2.0世界における高等教育(Higher Education in a Web 2.0 World)』として刊行した。
同委員会は,英国高等教育アカデミー(HEA),情報システム合同委員会(JISC),教育コミュニケーション・テクノロジー局(Becta)などの支援を受けつつ,独自の立場から,(1) 現在の学習者が高等教育に入るまでの期間に営んでいるオンライン・ライフスタイル,(2) 学習者が高等教育に抱いていた期待と,実際に入ってから経験した現実,(3) 英国の高等教育におけるWeb 2.0の利用状況,の3点について,先行研究のレビュー,実務者や研究者からのヒアリングを元に調査し,成果を取りまとめた。(1)では,
- デジタル技術へのアクセス,利用,参加について,「持てる者と持たざる者」との間に 依然として格差=デジタルデバイドが存在していること
- とはいえ,若い学習者たちに,Web 2.0の技術の利用は広く浸透していること
- 学習者たちは,Web 2.0の世界を(i) 個人の秘密の空間(インスタントメッセージング(IM)など),(ii) グループの空間(ソーシャルネットワーキングサービス(SNS)の“Facebook”など),(iii) 出版公開の空間(ブログ,Wiki,動画共有サービス“YouTube”など)などと明確に区分して利用していること
- 学習者たちによる区分のうち,(ii)のグループ空間が,学習・教育の支援にとって有効であること
- 学習者たちは,意識的な協同,系統だったアイデアとアプローチの評価,情報源の批判的評価,効果的な情報探索といったシステム(体系)を望んでおり,探索・検索・情報の評価などを含む情報リテラシーの教育が重要であること
などが重要な調査結果として挙げられた。また(2)では,
- 学習者たちは高等教育に対し,整備された基本的なICTインフラと,中等教育までに受けてきた個人的,対面的なやり取りという伝統的な教育方法と連続した教育,を期待しており,学習のコンテクストにおけるソーシャルなICT利用については,そもそもあまりイメージされていないこと
- 学習者たちは,実際に経験した現実として,ICTインフラについては基本的に満足しているが,スタッフとの個人的なやり取りについては十分に満足しておらず,ウェブ環境でもそのようなやり取りが行われるよう期待していること
- ICTスキルが低く,学習者たちの支援・指導の役割を十分に果たせないスタッフ・教員がいること
などが,(3)では,
- 英国はブロードバンド普及率が高く,高等教育におけるWeb 2.0の利用では世界でも先進的な位置を占めていること
- その一方で,Web 2.0技術の導入は体系的になされているわけではなく,各機関で熱心なスタッフや教員がボトムアップで,独自に,断片的に導入しているといった状況であること
などが示された。
同委員会はこのような結果を受けて,学生・スタッフの双方において,デジタルデバイドと情報リテラシーの不足が喫緊の課題であると見なし,(a) 学習者のスキルの強化(適切な技術へのアクセスの保証,情報リテラシー教育,ウェブについての認識・理解(web awareness)の促進など),(b) スタッフのスキルの維持(情報リテラシー教育やデジタル環境下での教育・評価法の教育など),(c) インフラ整備(JISCなどの高等教育支援機関による,Web 2.0環境と教育に関する調査研究・情報提供や,助成機関による物理的インフラへの助成など),(d) JISCやBectaなど関連する機関間の連携,が重要だと勧告している。
Ref:
http://www.jisc.ac.uk/publications/documents/heweb2.aspx