カレントアウェアネス-E
No.144 2009.02.18
E889
研究評価を意識した新しい学術雑誌評価指標の模索
学術雑誌の評価基準として広く利用されているインパクトファクター(CA1559参照)。しかし近年,学術・研究業績を評価する動きが国内外で高まりつつある中で,このインパクトファクターに対する批判も多くなされるようになってきている。また,学術雑誌の評価指標であるインパクトファクターが,研究者個人の評価指標として誤用されることも多く報告されている。そのため,「n回以上引用された論文が,n本以上存在する」という値「n」をもってその論文の執筆者の評価指標とする,カリフォルニア大学サンディエゴ校のハーシュ(Jorge E. Hirsch)教授考案の「h指数(h-index)」をはじめ,新しい評価指標を探る試みは枚挙に暇がない。計量書誌学だけを対象としているわけではない図書館情報学分野の学術雑誌“Journal of the American Society for Information Science and Technology”にも毎号のように,新しい評価指標に関する論文が掲載されている。
このような傾向がある一方で,2008年6月には国際数学連合 (IMU) ,応用数理国際評議会(ICIAM) および数理統計学会 (IMS) が,“Citation Statistics”というレポートで,数学・統計学的観点から研究評価における被引用データの利用および誤用に警鐘を鳴らし,注目を集めた(E834参照)。ここでは,インパクトファクターやh指数を検証し,「研究には複数の目標があるのが普通であり,従って,研究の価値は複数の基準に基づいて判定されるべきである」として,簡単な引用計量だけで研究評価を行おうとする(主として英国の)動きが批判されている。なお同レポートは,日本数学会および日本学術会議数理科学委員会が邦訳している。
このように研究評価指標への関心が高まる中,インパクトファクターを算出・公表しているThomson Reuter社が2009年1月,学術雑誌評価分析データベース“Journal Citation Report(JCR)”をバージョンアップしたと発表した。従来の2年間の論文データを元に計算されたインパクトファクターに加え,新指標「アイゲンファクター(Eigenfactor)」および5年間のデータで計算したインパクトファクターを導入するとともに,自誌引用値も明示するようになったのが主な変更点である。アイゲンファクターとは,ワシントン大学のベルグストローム(Carl Bergstrom)准教授らによって開発されたもので,(1) Google社のページランクに倣い「重要な学術雑誌から引用され ている学術雑誌は重要である」と学術雑誌に重み付けをして引用の影響を算出する,(2) 学問分野ごとの引用傾向を考慮して比較可能とする,(3) 5年間の引用データをもとに算出する,(4) 1論文あたりの「論文影響値(Article Influence Score)」も算出している,(5) 指標データはウェブサイトで無料で公開されており,ウェブサイトでは学術雑誌の価格データを加味した分析も可能としている,等の特徴を有している。
Elsevier社の学術文献・引用情報データベース“Scopus”が採用したh指数,そして今回JCRが採用したアイゲンファクターといった新しい指標が,どのように学術雑誌評価,研究評価に影響を及ぼしていくのか,また学術雑誌評価,研究評価が今後どのように展開していくのか。数学界が提起した問題の重みも意識しながら,動向に注目していきたい。
Ref:
http://www.thomsonscientific.jp/news/press/pr_200901/350008.shtml
http://www.nii.ac.jp/sparc/event/2008/20081125.html
http://dx.doi.org/10.1073/pnas.0507655102
http://www.asis.org/jasist.html
http://www.mathunion.org/Publications/Report/CitationStatistics
http://mathsoc.jp/IMU/CitationStatisticsJp20080930.pdf
http://www.eigenfactor.org/
http://d.hatena.ne.jp/min2-fly/20090204/1233768162
http://japan.elsevier.com/scopussupport/Scopus_200706_release_info.pdf
CA1559
E834