E539 – 【連載】アジア・オセアニアの図書館事情:(4)インドネシア

カレントアウェアネス-E

No.90 2006.09.06

 

 E539

【連載】アジア・オセアニアの図書館事情:(4)インドネシア

 

 インドネシアには2,155館の公共図書館,1,585館の大学図書館,12,168館の学校図書館,1,199館の専門図書館がある。特に公共図書館には,州立,県・市立,村立,モスク,教会,仏教,寺院など,多数の種類が存在する。かつて州立図書館は,国立図書館の分館であったが,法改正により2001年から州に移管されている。大学図書館は州立大学と私立大学に設置されているが,州立大学図書館は90館にすぎず,私立大学の図書館が多数(1,495館)を占めている。学校図書館の内訳は小学校(7,613館),中学校(2,901館),高校(2,104館)であるが,すべての学校に設置されているわけではない。また設置されていても,かならずしも政府基準を満たしているとは限らないことに注意が必要である。  

 図書館団体や図書館支援団体として,IPI(Ikatan Pustakawan Indonesia : インドネシア図書館協会)など14団体が存在する。IPIは1973年に創設され,現在の会員数は約6,000名である。うちプロフェッショナルレベルの会員は約2,000名である。このほかにも,図書館に関係するNGO団体が多数存在し,郊外やスラム,大都市から離れた地域で,読書普及活動を行っている。図書館情報学教育は,全国17大学で実施されており,学部,大学院レベルの学位が習得できる。  

 専門的な図書館サービスを享受できる人々は必ずしも多くない。とりわ大都市から離れた,交通の便が悪い地方ではその傾向が顕著で,州立図書館と地方自治体などが共同して,移動図書館を提供している。移動図書館も自動車やトラックだけではなく,提供地域の特性に合わせて,バイク,自転車,ボートと,多種多様な形態がある。政府も国民,とりわけ遠隔地に居住し交通手段が限られている人々に対する図書館サービス改善プランを2003年から開始しており,州政府や県に対し配分された移動図書館は,70台に及ぶという。  

 国立図書館の利用者はここ5年間で急速に増加しており,2001年の14,718名から,2005年には20,519名になった。利用者の内訳でとりわけ多いのは大学生で,2005年では利用者の約8割を占めている。一般市民は約12%で,残りは高校生であるという。利用者増加の要因について国立図書館は,国民の購買力の減少,すなわち本の価格が高騰し,不急不要の本を購入しなくなったためと分析している。  

 ところで,2004年12月26日に発生したスマトラ島沖地震と,これにともなうインド洋の大津波により,アチェ州西岸では図書館も軒並み被害を受けた(CA1570E282E420参照)。被害はアチェ州立図書館をはじめ,公共,大学,学校といった各種図書館にわたり,移動図書館も例外ではなかった。程度も軽微なレベルから,全滅に近いものまでさまざまであった。だがインドネシア全土だけでなく,オーストラリア,ドイツ,マレーシア,シンガポールをはじめとする世界各国からの援助で,資料の再購入や施設の復興が図られつつある。国立図書館も,州立図書館や市立図書館に対する資料や移動図書館の援助を行ない,アチェ地方の図書館復興を2005年に最も力を注いだ事業のひとつとしている。

Ref:
http://www.nla.gov.au/lap/documents/indonesia06.pdf
E282
E420
CA1570