カレントアウェアネス-E
No.493 2024.12.19
E2759
利用者の図書館用語理解に関する研究(米国)<文献紹介>
調査及び立法考査局議会官庁資料課・鈴木茉由子(すずきまゆこ)
McDonald, C.; Trujillo, N. Library Terms that Users (Don’t) Understand: A Review of the Literature from 2012-2021. College & Research Libraries. 2024, 85(6), p. 906-929.
https://doi.org/10.5860/crl.85.6.906
米国の大学・研究図書館協会(ACRL)が刊行するCollege & Research Libraries誌85巻6号に掲載されている本論文は、図書館サービスに係るウェブサイトにおける図書館用語に対する利用者の理解について、先行研究であるKupersmith氏の2012年2月刊行の報告書“Library Terms that Users Understand”における文献調査の結果と、2012年から2021年までに発表された文献の調査結果を比較分析したものである。著者は、米・コロラド大学ボルダー校図書館のMcDonald氏と、Trujillo氏である。
先行研究では、1997年から2011年までに発表された、主に大学図書館のユーザビリティに関する51件の文献を対象に調査を行った上で、図書館用語を使用する際のガイドラインを7つ示している。「利用者が理解している用語・理解していない用語を調べること」、「利用者が誤解しやすい用語は使わない(または注意して使う)こと」、「サービス説明には一般用語を使うこと」、「わかりにくい用語に解説を加えること」、「トップページだけでは検索しきれない場合は中間ページを提供すること」、「利用者が検索経路を間違える可能性のあるページには代替経路を提供すること」、「使用する用語に一貫性を持たせること」である。
McDonald氏とTrujillo氏による本論文は、Kupersmith氏が示したガイドラインが現在でも有効であるかどうかの確認を含む調査結果を、図書館員と図書館ウェブ開発者向けにまとめている。本稿では、その概要を紹介する。
●本論文の概要
2012年から2021年までに発表された、利用者の図書館用語理解に関する51件の文献を調査している。研究対象の文献は、図書館情報学の書誌データベースであるLibrary, Information Science and Technology Abstracts (LISTA)とLibrary and Information Science Abstracts (LISA)を用いて選定された。調査項目は、「研究対象の文献を発表した教育機関や、文献の特徴」、「利用者が理解している図書館用語」、「利用者が理解していない図書館用語」の3つである。
●調査対象の文献
調査対象とした文献は、Kupersmith氏の先行研究と同様、主に大学図書館のウェブサイト上の用語についてのものである。本論文では、文献が取り上げている事項について調査を行い、その結果をまとめている。文献中で多く取り上げられているテーマは、ユーザビリティの調査、ウェブサイトやウェブアプリケーションの再設計、検索ツールの評価に関するものであった。文献では、利用者が実際にウェブサイトを使用して行ったユーザビリティテストによる評価や、アンケート等の手法を用いた調査が行われた。
●利用者が理解している図書館用語
利用者が理解している用語として、「本やメディアを探す」「詳細検索」「ヘルプ」等が挙げられた。図書館以外のウェブサイトでも一般的に使われている用語は理解されていることが示された。また、用語の下に説明をつけることや、用語にカーソルを合わせると説明が見られるようにすることが利用者の理解につながったという点において、先行研究と同じ傾向があることが報告された。
●利用者が理解していない図書館用語
調査対象の文献で利用者が理解している、または理解していない用語として挙げられているものを著者らが集計したところ、利用者が理解している用語が41個であったのに対し、理解していない用語は106個であり、理解していない用語の方が多かったとしている。特に「ジャーナル」「記事」「データベース」という用語は理解されていなかった。例えば、利用者がデータベースを使用して記事を検索するために、「データベース」のタブに移動する必要があることを知らなかったという事例が挙げられていた。ちなみに、先行研究でも、雑誌や新聞等の定期刊行物を一括して表す用語である「ジャーナル」が理解されておらず、直接的に「本」と表現せず「アイテム」「リソース」と表現したものは理解されないという事例も挙げられていた。
●調査結果を受けての議論
本論文は、先行研究が示した7つのガイドラインは全て、現在も有効であるとした上で、新たに8つ目の項目として「慣例に従うこと」を提案している。図書館用語の理解度は、利用者の経験則に基づく。そのため、図書館以外のウェブサイトにも見られる用語を使うなど、利用者が過去にその用語を見聞きした経験を、図書館のウェブサイトにも当てはめて行動できるようにするのが望ましいとしている。
また、本論文は、先行研究と同様に、ウェブサイト上での用語の理解に関する研究であり、今後は物理的な図書館空間における用語についての研究も進むことが期待されるとしている。
●おわりに
日常生活で使う言葉であっても、複数の刊行物を一括して表す「ジャーナル」等、図書館特有の使われ方をする用語は、示す範囲が広くあいまいで理解されにくい。特に理解されていない用語の1つである「データベース」について、『図書館情報学事典』(日本図書館情報学会編、2023)によれば、データベースは2つに大別される。利用者が求める知識やデータそのものが収録される一次情報データベース(デジタル化資料等)と、一次情報についてのメタデータ等が収録される二次情報データベース(図書館の閲覧目録であるOPAC等)である。理解されていない用語は注意して使い、一次情報と二次情報どちらを探すための「データベース」なのかをわかりやすく表示する必要があるだろう。
国立国会図書館においても、サービスカウンターで利用者に対して調べ方を案内する際に、「WARP(国立国会図書館インターネット資料収集保存事業)」、「国立国会図書館デジタルコレクション」といったデータベース名や、「請求記号」「図書館送信・個人送信」等の用語をしばしば使用する。用語に簡単な説明を加えたり、別の言葉に置き換えたりと、利用者にとってなじみのない用語である可能性を念頭に置いた資料案内を心がけたい。
Ref:
McDonald, C.; Trujillo, N. Library Terms that Users (Don’t) Understand: A Review of the Literature from 2012-2021. College & Research Libraries. 2024, 85(6), p. 906-929.
https://doi.org/10.5860/crl.85.6.906
Kupersmith, John. Library Terms That Users Understand. eScholarship. 2012.
https://escholarship.org/uc/item/3qq499w7
日本図書館情報学会編. 図書館情報学事典. 丸善出版, 2023, p. 232-233.