E2684 – 脚本アーカイブズシンポジウム2024<報告>

カレントアウェアネス-E

No.476 2024.03.21

 

 E2684

脚本アーカイブズシンポジウム2024<報告>

日本脚本アーカイブズ推進コンソーシアム・石橋映里(いしばしえり)

 

  2024年2月18日、一般社団法人日本脚本アーカイブズ推進コンソーシアムは、文化庁委託事業の一環として、シンポジウム「作品を支える脚本の魅力とは:文化を伝える放送脚本・台本を未来へつなぐために」をオンラインで開催した。脚本アーカイブズシンポジウムは、主に放送番組の脚本・台本(以下「脚本等」)を収集管理し公開する「脚本アーカイブズ活動」を広く周知するために、毎年開催している。今回のシンポジウムには約500人が参加し、その8割が初参加であった。本稿では、脚本アーカイブズ活動と、シンポジウムの概要を紹介する。

●脚本アーカイブズ活動について

  テレビ草創期、ビデオテープは高価であり、過去の録画を上書きして再度使用されたため、映像と音声が保存されている放送番組が少なく、現在では当時の放送番組を知る手掛かりは脚本等のみとなっている(E1766 CA1958 参照)。当コンソーシアムでは、これらを貴重な文化資源と位置づけ、1980年以前の放送番組の脚本等約6万冊を国立国会図書館(NDL)に寄贈し、閲覧可能となっている。

●第一部:座談会「オリジナル脚本の魅力とは」

  池端俊策(当コンソーシアム代表理事)からの開会挨拶に続き、林保太氏(文化庁参事官(芸術文化担当)付文化戦略官)、吉永元信氏(国立国会図書館長)の挨拶と事務局からの活動報告の後、脚本家の野木亜紀子氏、羽原大介氏、司会として中町綾子氏(日本大学芸術学部教授)が登壇し、座談会が行われた。

  まず野木氏が、2023年12月に石川県七尾市で開催された「アジアテレビドラマカンファレンス」での発表のダイジェスト版として「日本のテレビドラマ制作の現状と問題点」を報告した。現在、日本で制作されるテレビドラマの本数は増加傾向にある一方、スタッフや予算、制作時間等は減少し、ドラマの質を上げるのが難しい現状にある。また2010年代から漫画や小説等を原作とするドラマが急増し、オリジナルドラマを作る機会が少なくなり、取材や企画能力が引き継がれずプロデュ―サーのスキルが乏しくなったことを指摘した。さらに日本の脚本家の執筆条件や新人育成の問題点を、諸外国の状況と対比して語った。羽原氏は、かつてアジア諸国が模倣した誇るべき日本のドラマ制作の力を、もう一度見直す時期ではないかと提言した。

  続いて、どちらも沖縄の本土復帰50年を記念し制作された沖縄を舞台にしたオリジナルドラマである、羽原氏が脚本を執筆した『ちむどんどん』(NHK)と、野木氏が執筆した『フェンス』(WOWOW)を紹介した。両氏が、自らの脚本が誕生するまでの経緯を語り、オリジナルを制作する際の取材の重要性や歴史・世相・法律・食文化・言葉といった専門監修の緻密さ等、具体例が語られた。

  オリジナル脚本執筆の魅力について、野木氏は自身が脚本を執筆したドラマ『アンナチュラル』(TBS)、『MIU404』(TBS)や、映画『ラストマイル』(2024年夏公開予定)等、複数の作品の舞台設定や人物が横断できる面白さを挙げた。羽原氏は、登場人物の誰かと自分が一体化すると感じる「瞬間」の喜び、そしてプロデューサーや演出家との出会いにより生まれるドラマ作りの楽しさを述べた。

  そのほか、参加者からの事前質問に答えた両氏の言葉は、これから生まれる新人脚本家や若手スタッフへのエールとなった。

●第二部:パネルディスカッション「アーカイブの現在・過去・未来:脚本アーカイブが目指すもの」

  田中範子氏(神戸映画資料館支配人)、山脇壮介氏(日本動画協会事務局次長・アニメ東京ステーション担当)、斎藤信吾氏(放送番組センター専務理事)、大石卓氏(横手市増田まんが美術館館長)、福井健策氏(骨董通り法律事務所)、司会として吉見俊哉氏(國學院大学教授)が登壇し、パネルディスカッションが行われた。

  映画、アニメ、放送番組、マンガ原画という異なる資料を扱う各館の現状報告に続き、資料の活用方法、人材育成、財政基盤、地域性を論点として意見交換が行われた。

  福井氏はアーカイブ運営上の壁として、単年度予算であること等多くの問題点を挙げた。そして各アーカイブ組織を支えるサポートセンターの設置を提言したほか、法制度の必要性等について説明した。

  大石氏は、専門家の雇用について厳格な資格要件を求めず、出来る範囲の資料保存を実践すべきとした。田中氏は、映画分野では専門家の人材育成が確立し、国立映画アーカイブ(E2014 参照)等では雇用の機会があると思われるが、自館では雇用する余裕はなく、人材不足を補うためボランティアを募ってアーカイブを共に作る意識で活動していると説明した。山脇氏は、商業利用されるアニメの特性から関連資料は各社で保存されることが多く、アーカイブ施設での保管が難しい現状を述べ、作品のデータベース「アニメ大全」(E2563 参照)に資料の情報を登録しておくことが必要であるとした。

  さらに地域との関係性について、田中氏は、自館で所蔵する全国の記録映像を例に、神戸以外の地域アーカイブとの連携の重要性を示唆した。大石氏は、各地域に由来するマンガ家の原画を保存するような場合、遊休施設を利用して資料保存する等の可能性について言及した。山脇氏は、アニメの聖地と呼ばれるアニメ作品の舞台となった土地やゆかりのある場所で現物を保管するアイディアを提案し、利活用の面からデジタルアーカイブ化の重要性を述べた。斎藤氏は、番組アーカイブを全国に拡大させる新たな展開として「全国放送番組アーカイブ・ネットワーク」を段階的に進め、放送番組の魅力を幅広く伝え地域社会に貢献する方針を紹介した。

  最後に、司会の吉見氏はアーカイブを地域に根付かせる重要性を「祭り」に重ね、文化の継承こそアーカイブの重要な仕組みではないかと結び、シンポジウムは閉会した。

  本シンポジウムが「脚本アーカイブズ」を考えるきっかけにつながることを願っている。

Ref:
“脚本アーカイブズシンポジウム2024 受付は終了いたしました”. 一般社団法人日本脚本アーカイブズ推進コンソーシアム.
https://www.nkac.jp/%E3%82%B7%E3%83%B3%E3%83%9D%E3%82%B8%E3%82%A6%E3%83%A02024-%E6%A6%82%E8%A6%81/
“2024年1月18日 放送脚本を追加公開しました”. NDL. 2024-01-18.
https://www.ndl.go.jp/jp/news/fy2023/240118_02.html
“放送脚本(日本脚本アーカイブズ推進コンソーシアム寄贈)”. リサーチ・ナビ.
https://ndlsearch.ndl.go.jp/rnavi/avmaterials/kyakuhon
第16回アジアテレビドラマカンファレンス.
https://www.atdc2023.org/
神戸映画資料館.
https://kobe-eiga.net/
横手市増田まんが美術館.
https://manga-museum.com/
放送番組センター放送ライブラリー.
https://www.bpcj.or.jp/
アニメ東京ステーション.
https://animetokyo.jp/
アニメ大全.
https://animedb.jp/
石橋映里. 「デジタル脚本アーカイブズ」の試行研究. カレントアウェアネス-E. 2016, (298), E1766.
https://current.ndl.go.jp/e1766
冨田美香. 国立美術館の映画専門機関「国立映画アーカイブ」. カレントアウェアネス-E. 2018, (345), E2014.
https://current.ndl.go.jp/e2014
植野淳子. 日本のアニメ総合データベース「アニメ大全」. カレントアウェアネス-E. 2022, (449), E2563.
https://current.ndl.go.jp/e2563
石橋映里. 脚本アーカイブズ活動の成果と今後の展望. カレントアウェアネス. 2019, (341), CA1958, p. 5-7.
https://doi.org/10.11501/11359091