E2582 – 大学図書館の障害学生支援に関するシンポジウム<報告>

カレントアウェアネス-E

No.453 2023.03.02

 

 E2582

大学図書館の障害学生支援に関するシンポジウム<報告>

八洲学園大学生涯学習学部・野口久美子(のぐちくみこ)

 

  2023年2月5日,シンポジウム「大学図書館における障害学生支援のいまとこれから」を専修大学神田キャンパスにて開催した。本シンポジウムは科学研究費補助金基盤研究(C)研究課題番号20K12566「大学図書館における障害学生支援のための方略に関する実証的研究」(研究代表:松戸宏予氏(佛教大学))の成果報告会を兼ねている。当日は大学図書館員のみならず,公共図書館員や司書課程で学ぶ大学生など31人の参加を得た。

  松戸氏の開会挨拶の後,共同研究者である専修大学の野口武悟氏が大学における障害学生の現状,障害者をめぐる条約,法律等の動向を説明した。大学に在籍する障害学生数は増加傾向にあり,修学支援の体制づくりが喫緊の課題である。日本学生支援機構が障害のある学生の修学支援に関する実態調査を毎年度実施しているが,大学図書館に特化した項目はない。2018年には文部科学省が「大学図書館における読書バリアフリーサービスに関するアンケート調査」を実施したが,結果は未公表である。このような現状を踏まえ,本プロジェクトでは大学図書館における障害学生支援の取り組みの現状を明らかにし,持続可能な業務として展開するための方略を考察することを目指して研究を進めてきた。同じく共同研究者の筆者からは3年間の研究で明らかになった大学図書館の障害学生支援の実態について報告を行った。

  会の後半では,都留文科大学の日向良和氏のコーディネートでシンポジウムとパネルディスカッションが行われた。まず,事例報告として,山口大学学術基盤部学術基盤推進課図書館サービス係の日高友江氏(事前収録),国際基督教大学図書館パブリック・サービスグループの南和子氏から話題提供があった。

  日高氏からは発達障害学生の図書館利用について,学部やカウンセリング担当の教員など関係者と対応を協議する,職員研修会を行い声掛けの方法を学ぶ,やむを得ず期間や時間を区切った利用制限を行うなどの試行錯誤を重ねた事例の紹介があった。利用制限に関しては当時も,そして現在も答えは見つかっていないという。その上で,すべての学生に対して公平に学習の場を提供する意義を大学全体で考える必要があることを指摘し,今後,障害学生支援を進める上で大学の構成員の理解は不可欠であり,認識の共有が組織の成長につながるのではないかと締めくくった。

  南氏からは視覚障害学生から図書館へ支援依頼が寄せられたことをきっかけに,支援体制の見直しに着手した経緯の説明があった。大学としては1970年代から障害学生の受入実績があるものの,部署間連携は必ずしも十分ではなかった。図書館では障害学生のニーズの把握に時間がかかり,結果的に具体的な支援につながっていなかった。視覚障害学生に対しては図書館利用に際して困っていることをヒアリングした結果,図書館に相談しても何も対応してくれないのではないかという不信感の存在が明らかになったという。南氏は当事者との対話を通して信頼関係を構築する必要性を指摘した。加えて,教員や支援室からアクセシブルな資料の提供について協力依頼があり,出版社との交渉を図書館が担った事例が紹介され,図書館,支援室,その他の部署が各々担うべきことを整理し,各部署の得意分野を生かして出来ることから取り組み,点ではなく面で支える支援を目指していきたいと締めくくった。

  二つの事例報告を受け,埼玉県立久喜図書館・日本図書館協会障害者サービス委員会委員長の佐藤聖一氏,松戸氏がコメントした。佐藤氏は館種を超えた連携の必要性,障害学生支援に対する姿勢を学外にアピールすることの重要性を指摘した。松戸氏は英国の大学図書館における障害学生支援の事例を踏まえ,学内の他部署と連携しながら日常業務の中で出来る取り組みを意識することが支援の質を高める鍵になると提案した。最後に日向氏の進行のもと,南氏,佐藤氏,松戸氏によるパネルディスカッションが行われた。会場からは,潜在的に支援ニーズがある学生の存在やアクセシブルな資料の出版を版元に働きかける取り組みの事例について質問が寄せられた。

  本シンポジウムを通じてのキーワードは「連携」と「協働」であった。大学内はもちろんのこと,大学や館種の枠を超えた,シームレスな支援体制の構築がますます重要になろう。

Ref:
科研プロジェクト「大学図書館における障害学生支援のための方略に関する実証的研究」シンポジウム 大学図書館における障害学生支援のいまとこれから.
https://kaken3.wordpress.com/
“大学図書館における障害学生支援のための方略に関する実証的研究”. KAKEN.
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-20K12566/
“障害のある学生の修学支援に関する実態調査”. 日本学生支援機構.
https://www.jasso.go.jp/statistics/gakusei_shogai_syugaku/index.html
“【文部科学省】大学図書館の読書バリアフリーの状況調査について(お知らせ)”. 私立大学図書館協会. 2018-05-18.
https://www.jaspul.org/news/2018/05/post-69.html