E2580 – 著作権と図書館の関係を学ぶ入門書<文献紹介>

カレントアウェアネス-E

No.452 2023.02.16

 

 E2580

著作権と図書館の関係を学ぶ入門書<文献紹介>

利用者サービス部複写課・増田玲(ますだれい)

 

Coates, Jessica; Owen, Victoria; Reilly, Susan eds. Navigating Copyright for Libraries: Purpose and Scope. De Gruyter Saur, 2022, 547p., (IFLA Publications, 181).
https://doi.org/10.1515/9783110732009

  2022年8月,国際図書館連盟(IFLA)の著作権等法的問題委員会(CLM)の協力のもと,著作権と図書館の関係についての入門的な書籍がオープンアクセスで出版された。CLMの委員だったコーツ(Jessica Coates)氏,オーウェン(Victoria Owen)氏,現在委員であるライリー(Susan Reilly)氏の3人によって編集されている。本書は大きく4つのパートに分かれており,図書館に関連する分野を中心に,著作権をテーマにした20の論文が収録されている。資料のデジタル化やオンラインで提供されるサービスに係る著作権に関する問題といった,近年発生している課題への言及も随所でされている。各論文はそれぞれ独立した内容となっているため,関心のある論文のみ読むこともできる。

  本稿では,各パートの概要を簡単に紹介する。

  第一部では,著作権の基礎について,近代の欧州における著作権という概念の形成から,現代の著作権制度に至るまでの歴史を概観する。著作権の発展の歴史を辿ることは,以降本書で論じられるトピックに対応するために重要であるということが繰り返し述べられている。

  第二部は,利用者の権利と公共の利益が主なテーマである。図書館業務は著作権法の権利制限規定に強く支えられている。これにより,図書館は,現代の利用者にはもちろん,後世の利用者のためにも知識を保存し,提供することが可能となる。デジタル環境においても自身の役割を果たし,人々に情報を提供し続けるために,図書館員は利害関係者の一員として政策決定に関与する必要があるとした論文が収められている。

  第三部は,図書館に関連する分野における,著作権の国際的な発展が主なテーマである。例えば知的財産権全般を取り扱う世界知的所有権機関(WIPO)において,著作権法の権利制限規定が議題としてしばしば取り上げられることや,利用者の権利に焦点を当てている最初のWIPOの条約として,「盲人,視覚障害者その他の印刷物の判読に障害のある者が発行された著作物を利用する機会を促進するためのマラケシュ条約」(E2041CA1831参照)の例が述べられている。

  第四部では,デジタル環境下における著作権と図書館の問題について取り上げている。本書は新型コロナウイルス感染症の流行後に出版されているため,休館等により非来館型のサービスの提供を迫られた図書館の対応についても言及されている。例えば,電子書籍の貸出のようなサービスは,コロナ禍を機に多くの図書館でその導入が進められているものの,図書館における貸出と電子書籍の売上の関係についての分析が不足していることなどが指摘されている。また,第20章では,「テキスト・データ・マイニングとしての利用のために最も開かれた法律」として,日本における著作権法の権利制限規定が紹介されている。

  著作権の権利制限規定に強く支えられている現在の図書館の役割を維持し続けるためには,著作権に関する基礎知識は不可欠である。本書では主に英語圏や欧州連合圏の事例が取り上げられているが,本書で扱われるテーマは日本においても話題に上るものが多い(E2337 CA2016 参照)。第四部で取り上げられている電子書籍の貸出は今まさに普及しつつあるサービスであるほか,AIを活用した図書館サービスも今後ますます広まるであろう。本書のページの多くは,デジタル環境において新たに生じた著作権の問題や,それらの問題に図書館がどう対処すべきかについて割かれている。他国の事例からも得られる学びは大きいはずである。

Ref:
“New IFLA Publication: Navigating Copyright for Libraries”. IFLA. 2022-09-08.
https://www.ifla.org/news/ifla-publication-navigating-copyright-for-libraries%EF%BB%BF/
“Members”. IFLA.
https://www.ifla.org/units/clm/committee/
南亮一. マラケシュ条約の締結・著作権法の改正と障害者サービス. カレントアウェアネス-E. 2018, (350), E2041.
https://current.ndl.go.jp/e2041
友石泰二. 青少年のための電子図書館サービスの誕生と小さな一歩. カレントアウェアネス-E. 2020, (405), E2337.
https://current.ndl.go.jp/e2337
野村美佐子. マラケシュ条約―視覚障害者等への情報アクセスの保障に向けたWIPOの取り組み. カレントアウェアネス. 2014, (321), CA1831, p. 18-21.
https://doi.org/10.11501/8752504
山本順一. “Controlled Digital Lending”を巡る動向: CDLに羽化した図書館サービス理念と米国出版界の主張. カレントアウェアネス. 2022, (351), CA2016, p. 14-17.
https://doi.org/10.11501/12199169