E2337 – 青少年のための電子図書館サービスの誕生と小さな一歩

カレントアウェアネス-E

No.405 2020.12.24

 

 E2337

青少年のための電子図書館サービスの誕生と小さな一歩

広島県立図書館・友石泰二(ともいしたいじ)

 

●サービスの概要

   広島県立図書館は,2020年7月29日から,「青少年のための電子図書館サービス With Booksひろしま」のサービス提供を開始した。インターネットにつながる環境があれば,無料で電子書籍を借りられる(1回の貸出は2冊・14日間まで)サービスであり,青少年の心と学びを支援する書籍を中心に約7,000冊を提供している。なお,青少年以外の利用も可能である。

   本稿では,当サービスの導入の経緯,選書,反響等について紹介する。

●導入の経緯 ~子どもの支援が出発点~

   電子図書館サービスについては,当館でもかねてより情報収集を行ってきたが,まだ国内においては発展途上のサービスという印象を持っていた。

   しかし,新型コロナウイルス感染症の感染拡大という大きな環境の変化が起こった。当館を含め,図書館は来館サービスに大きな制約を受けたが,それ以上に学校が臨時休校を余儀なくされ,子どもの学習・生活に甚大な影響が出た。この時点での広島県教育委員会の最大のミッションは,子どもの学びをいかに支えるかというものであり,当館も県教育委員会の一機関として,図書館の新サービスとしての是非というよりも,コロナ禍のもとで子どもに図書館ができることは何かという視点で電子図書館サービスの導入を検討した。「青少年のための」というコンセプトはこの時点で固まっていた。

   2020年4月から事業化の検討を進め,図書館として,在宅時間の増えた子どもの家庭での学びを支え,本に親しむきっかけとするべく,5月から2つの事業からなる「うちで読もうよプロジェクト」を実施することとした。当館から直接学校・幼稚園・保育所や放課後児童クラブ等へ本を届ける図書貸出事業(貸出・返却時の送料は当館負担)と,家にいながら無料で本が借りられる電子図書館事業であった。電子図書館事業の実施にあたっては,青少年向けの蔵書が豊富なサービス業者を選定し,短期間での事業開始を目指し館内の部署を越えた体制を組んだ。

●選書 ~学校再開で方針転換~

   選書やシステム所管部局との調整が必要な電子図書館は,事業化されてもすぐにスタートできなかったが,諸準備を急ピッチで進め,何とか7月29日をスタート日とすることができた。

   しかし,その頃には学校は既に再開されていたため事業戦略を見直した。カウンセラー等へのインタビューを行った結果,学校再開後も不安やストレスを抱える子どもは多いと考えられること,慌ただしくなったカリキュラムで,学校・家庭ともに学びの支援が必要であることを踏まえ,選書の重点ポイントを修正した。もとより,従来の資料の選書傾向よりも,本に親しみの薄かった子どもに興味を持ってもらいやすい本も選んでいくことを考えていたが,これに加え,癒やし,悩みや生き方のヒントとなる本,学びにつながる本を中心に選書することとした。電子図書館ではデリケートな悩みを持つ子どもが他の人に知られず本を借りられるというメリットもあると思われた。

   また,青空文庫等を加えると約7,000冊の資料があるが,トップ画面に表示されるのは50冊から60冊のため,様々な特集を組んで入れ替え,情報の新鮮さを保つよう工夫している。

●反響 ~青少年に届ける難しさと手応え~

   サービス開始後,約4か月で2,593冊の貸出(11月30日現在)であるが,この値の多寡については現段階では評価しかねる。

   提供開始当初,このサービスは多くのメディアに取り上げられたが,青少年の利用増には直結せず,サービスの主たる対象である青少年の認知度をどう上げるかが課題となった。そこで,学校を通じた周知,若者向けのラジオでの広報,継続的なSNS発信,出版社の協力を得て,文豪をキャラクター化した人気漫画のモデルとなった作家の作品の特集を行った。その他,コンビニ等青少年の集まる場所にチラシを置く,学校へ出かけて体験会を開き,子どもの声を聴く機会を設けて事例紹介するなど,様々な方法を駆使しており,徐々ではあるが広がりを見せている。

   中でも,選書の一つの柱とした,子どもの心に寄り添う本は,着実に青少年に読まれており,コロナ禍における事業として手応えを感じている。電子図書館サービス導入を検討する県内の市町が増え,相談を多く受けており,幅広く最新刊を集めることが困難な現状かつ予算に制約もある中では,「青少年」「心のケア」という分野による絞り込みは1つのヒントと受け止められている。

   元々当館では2006年度からヤングアダルトサービスを開始しており,進路選択の参考になるものや,人生・社会等への関心を高めるものに重点を置いて収集し,サービスを展開してきた実績が今回いかされた。今後とも事業を走らせながらブラッシュアップし,青少年に限らず電子図書館サービスそのものの在り方も研究していきたい。

Ref:
青少年のための電子図書館 With Booksひろしま.
https://www.d-library.jp/withbooks/g0101/top/
“「うちで読もうよ」~ Stay Home! Read Books! ~プロジェクト~電子図書館事業 ~”. 広島県立図書館.
http://www2.hplibra.pref.hiroshima.jp/?page_id=3238
“「うちで読もうよ」~ Stay Home! Read Books! ~プロジェクト~ 図書貸出事業 ~”. 広島県立図書館.
http://www2.hplibra.pref.hiroshima.jp/?page_id=3217