E2572 – 「コバショでビブリオ」発起人インタビュー

カレントアウェアネス-E

No.451 2023.02.02

 

 E2572

「コバショでビブリオ」発起人インタビュー

協力:尼崎市こども青少年課/ビブリオバトル普及委員会普及委員・江上昇(えがみのぼる)
編集・聞き手:関西館図書館協力課調査情報係

 

  ビブリオバトル(CA1830参照)の発展に寄与した人・団体を表彰するBibliobattle of the Year(E2383参照)の2022年の大賞に,兵庫県尼崎市の小林書店で開催されている「コバショでビブリオ」が選ばれた。主催者の一人である尼崎市職員の江上昇さんに取組の概要や経緯等についてお話をうかがった。

――この度はBibliobattle of the Year 2022の大賞受賞おめでとうございます。「コバショでビブリオ」について簡単な紹介をお願いします。

  「コバショでビブリオ」は,尼崎市の商店街にある小さな「まちの本屋」である「コバショ」こと小林書店で,2か月に一度開催されるビブリオバトルの定例会です。常連の参加者に加え,地域の方や学生さんが良いバランスで混ざり合い,毎回違った雰囲気で盛り上がっています。

  主催者はコバショ店主の小林由美子さんと,江上昇です。実は店主の小林さんは,業界では有名な本屋さんでして小さな書店でありながら,全集の販売で全国トップになったことがあるとか,まあすごい人なんです。(詳細は後で触れる書籍をぜひご覧ください。)小林さんは,ビブリオバトルをきっかけに,このお店で様々なイベントを仕掛けるなかで,コバショを「居場所」であり,「イベントスペース」である空間に作り上げてきました。江上は市職員ですが,前職は「漫才師」という少々変わった経歴です。その経験を生かして,障害のある人たちとコメディを演じたり,空き店舗をリノベーションしてイベントスペースを運営したり,地方公務員としての担当業務ではありませんが,プライベートでまちに関わる様々な仕掛けをしてきました。元々本好きだったこともあり,職員グループや公民館などでビブリオバトルを開催していたのですが,一度見に来てくれた小林さんをお誘いする形で,コバショでも開催するようになりました。

――ビブリオバトルの魅力はなんでしょうか?

  まずは「そもそもビブリオバトルとは」というところからご説明します。公式ウェブサイトによると「誰でも開催できる本の紹介コミュニケーションゲーム」とあります。「人を通して本を知る。本を通して人を知る」のキャッチコピーで全国に広がっており,小中学校や高校,大学,企業の研修等で開催されています。そしてもちろん多くの図書館でも開催され,本好き,読書好きのコミュニティが各地で形成されています。

  ビブリオバトルでは,参加者自身が面白いと思った本を持って集まります。そのルールには「先生が決めた本や課題図書ではなく,本を主体的に選択することがとても重要」という意図が隠れています。また,審査員ではなく参加者ら自身でチャンプを決める点も特徴です。参加者が主体的に参加するというところがビブリオバトルの重要な要素といえます。

  また,チャンプを決める際には,単にプレゼンテーションの優劣を競うのではなく,「どの本が読みたくなったか」を基準に採点されます。いかに自分の感動を共有し,共感を得られるか,という「パブリックスピーキング」の能力が問われます。バトルでは,なぜその本を選んだのか,なぜ紹介したいと思ったのかといった部分に自身の人生観や価値観,仕事の状況,家族や友人関係といった,その人を形作っている要素が垣間見え,バトルが終わった時には,お互いがまるで古くからの知り合いだったかのように打ち解けます。それが「本を通して人を知る」と言われる所以なのですが,本の紹介であるにも関わらず,自分自身の紹介にもなっていて,自身の人生がその5分のスピーチの中に滲み出る,というとても興味深い構造になっています。

――「コバショでビブリオ」のどういった点が受賞につながったとお考えでしょうか?ビブリオバトルを開催するようになってどのような変化がありましたか?

  2022年2月時点で,全国の351の公立図書館,303の大学で開催されている中で,大賞に小さな「まちの本屋」が選ばれたのは,その空間がまちに溶け込み,独自の魅力を放っているからでしょう。

  小林さんは,ビブリオバトルをきっかけに,本の販売や営業だけでなく,作家さんによる講演会や落語会の開催,餅つきや朝食会など,お店を使った様々なイベントを手がけるようになりました。20人も入れば立ち見が出る空間で様々な催しが開催され,どれもが満席になる。そんな不思議な存在感が関心を集め,2020年には川上徹也さんの『仕事で大切なことはすべて尼崎の小さな本屋で学んだ』で小説化。同年,小林書店を舞台にしたドキュメンタリー映画「まちの本屋」が制作され,全国で上映されています。まちの本屋が小説になり,映画になるなんて誰も想像していませんでしたが,これも店主の魅力とその空間の独特な存在感が創作者を惹きつけたからだと考えます。

  ビブリオバトルが,コバショがまちに開いていくきっかけになり,また,定期的に開催してきたことがこの場所を応援し,通ってくれる人たちとコバショとを強く結びつけていると考えます。

――最後に読者に向けて一言お願いいたします。

  本を愛する人たちが集う「ビブリオバトル」。全国で開催されています。ご興味を持たれたら,ぜひお近くでの開催場所を探して,参加してみてください。そしてもしご縁があれば,尼崎の小さなまちの本屋こと「コバショ」の会にもご参加を。よく喋る店主と気の合う読書好きがお待ちしております。ではでは。

Ref:
知的書評合戦ビブリオバトル公式サイト.
https://www.bibliobattle.jp
Bibliobattle of the Year 2022.
https://bibliobattle-award2022.mystrikingly.com
“普及状況(データ)”. 知的書評合戦ビブリオバトル公式サイト. 2022-02-25.
https://www.bibliobattle.jp/data
川上徹也. 仕事で大切なことはすべて尼崎の小さな本屋で学んだ. ポプラ社, 2020, 267p.
ドキュメンタリー映画 まちの本屋.
https://www.machinohonya.info/
永石剛. 番組を生んだ言葉の力:長崎県をビブリオバトルの強豪県に. カレントアウェアネス-E. 2021, (413), E2383.
https://current.ndl.go.jp/e2383
吉野英知. 新しい本の楽しみ方「ビブリオバトル」の多方面への展開動向. カレントアウェアネス. 2014, (321), CA1830, p. 14-17.
https://doi.org/10.11501/8752503