E2383 – 番組を生んだ言葉の力:長崎県をビブリオバトルの強豪県に

カレントアウェアネス-E

No.413 2021.05.27

 

 E2383

番組を生んだ言葉の力:長崎県をビブリオバトルの強豪県に

長崎放送株式会社ラジオ営業部・永石剛(ながいしたかし)

 

   2020年11月,長崎放送株式会社(NBC)のラジオ番組「ラジオDEビブリオバトル」が,ビブリオバトル(CA1830参照)に関する草の根レベルの取組や波及効果が評価され,Bibliobattle of the Year 2020大賞の栄誉にあずかった。テレビやラジオ作品の受賞機会は数多くあったが,今回の受賞は,取組自体が評価されたと感じ,嬉しさもひとしおである。

●ビブリオバトルとの出会い

   この番組を作る契機は,2017年の全国高等学校ビブリオバトル決勝大会で,筆者の母校の生徒が長崎県勢として初のベスト7に進出したことを弊社ニュースで知ったことだった。当時の筆者はその名称さえ知らず,母校がこんな取組をしているのかという感想であったが,ビブリオバトルという耳なじみのない言葉が妙に頭の中に残った。この時はのちに関係する仕事をすることになるとは思っていなかった。

   その2年後の2019年4月,長年仕事をしてきたテレビの部署からラジオ営業部へ異動した。ラジオの仕事は初めてで,音声メディアと親和性の高いコンテンツは何かということを常日頃から考えていた。ある日,何かの契機で筆者の記憶の引き出しの中からビブリオバトルという言葉がふと甦った。テレビで取り上げるには取材等のコストがかかるが,ラジオであれば,コストもそれほどかからず,音声メディアとの親和性が高いコンテンツになるのではないかと考えた。しかし,どこに相談すればいいのかわからず,とりあえずわが母校に向かった。そこでの,県の高等学校文化連盟図書専門部委員長で国語教師の中島寛先生との出会いがこの番組が産まれる契機になる。その当時ありったけの知識でビブリオバトルとラジオの親和性の高さを話した際に「長崎県をビブリオバトルの強豪県にしませんか?」という言葉が筆者の口からふいに出てきた。今思えばこの言葉こそがパワーキーワードとなったと思っているのだが,中島先生が筆者の言葉を聞いて「やりましょう!」と興奮気味に返事をされたことをよく覚えている。この時,中島先生が県で初めてのビブリオバトルの研修会を検討しているという話があり,早速弊社と共催での実施を提案した。

   同じ年の夏休み最後の日曜日,初の研修会には県内の高校から9校,約30人の生徒が集まった。実は,その日まで番組スタッフ一同ビブリオバトルを実際に生で見たことがなく,全くの素人集団であった。研修会のコーディネートには不安はあったが,放送局は伝える仕事をする集団である。言いたいことを伝える技術やコツは参加した生徒にとって参考になるのではないかと,「伝える」というテーマで2人のアナウンサーによる座談会を開催した。その後,参加者全員で体験したミニ・ビブリオバトルから選抜して本選を行ったのだが,アナウンサーのアドバイスで明らかに1回目のプレゼンより進化するバトラーが続出した。これにはスタッフ一同興奮し,ビブリオバトルの熱に打たれた瞬間となった。

●番組化への道程

   こうなると番組化は,必然の成り行きだった。弊社は民間放送,番組を作るにはスポンサーが必要となる。営業担当の筆者が立ち上げたのだからスポンサーは意地でもつけるという意気込みで営業活動をした。しかしその意気込みとは裏腹に,スポンサー探しは難航した。まず「ビブリオバトル」という名称自体が知られていない。筆者の力不足でもあったのだが,なにより実際にビブリオバトルを見てもらわないとその魅力は伝わらないと実感した。

   番組化にあたり,ビブリオバトルの普及を目的に活動しているビブリオバトル普及委員会からは「開催されたビブリオバトル参加者全員のプレゼンテーションを1回の放送で聞かせる」というアドバイスを受けたが,用意できる放送時間の長さは約10分である。この長さだと,バトラーのプレゼンテーションは1人分しか紹介できず,それは不可能だった。そうこうしているうちに番組開始の期日は迫っていた。ビブリオバトルへの入門番組にしたいという説明を同委員会には繰り返した。放送開始10日ほど前に,ようやく同委員会から了承を得た。番組は10月に開始したが,スポンサーを見つけることは出来ず,ノンスポンサーでの番組開始となった。

   放送局には,社外の有識者に自社制作のテレビ番組を批評してもらう番組審議会という会議組織があるが,特別に「ラジオDEビブリオバトル」の第1回目の放送を聴く機会を作ってもらった。その場で,番組審議委員の1人から番組に非常に関心が寄せられたという話を聞き,早速その委員の経営する会社に説明に行った。ここでまた「長崎県をビブリオバトルの強豪県に」というパワーキーワードが効くことになる。実際に番組を聴いていることもあり,ビブリオバトルの魅力の一端を理解されているので話は早かった。毎週約10分で始まった番組だが,その半年後この会社を含む2社のスポンサーの支援を受け,2020年春から放送時間を約15分に拡大することになる。

●番組内容と波及効果

   番組は、各地で開催されたビブリオバトルを収録し、1回の放送にひとりのプレゼンテーションを紹介するのが基本スタイル。時には、ビブリオバトル界で話題のひとにインタビューした模様も放送している。

   弊社は西の果ての放送局だが,興味を持ったビブリオバトルには出来るだけ足を運ぶ。全国の放送局で唯一2020年1月の全国高等学校ビブリオバトルの取材に赴き,全国大学チャンピオンにその場で声をかけた。そして,このコロナ禍,ラジオに加えてネット配信もできるので,5月に実施したラジオの生放送とYouTubeでの生配信に参加してもらった。また,研修会もオンラインで実施しており,2020年6月に開催したオンライン研修会では,書店員芸人のカモシダせぶん氏にも東京の自宅から参加してもらった。番組に出演し、高校卒業後に当番組と同じコンセプト「長崎県をビブリオバトルの強豪県に」を合言葉に立ち上げた「ビブリオバトル長崎もいもい」代表の本田美織氏は、その活動を評価されBibliobattle of the Year 2020 新人賞を獲得。いわゆるW受賞となり、弊社の番組がビブリオバトル界において一定の知名度を得ていることを実感している。

●まとめ

   ビブリオバトルを取材するたびに今日はどんな本の紹介があるのか,ひいてはどんな新たな才能に出会うことが出来るのかが,密かな楽しみになっている。「長崎県をビブリオバトルの強豪県に」というパワーキーワードがいろいろな人を呼び寄せてこの番組が産まれた。弊社は,長崎・佐賀を放送エリアとする放送局だが,ラジコプレミアムに加入すれば全国どこでも聴くことが可能である。この受賞をきっかけに,ラジコプレミアムやYouTubeでの動画配信を通じて番組を聴いてもらい,全国の多くの人にビブリオバトルを知ってもらえると望外の喜びである。そして,あくまでも主役はバトラーの皆さんである。これからもどんどんお声がけするので,みなさまの番組への出演をお待ちしている。

Ref:
Bibliobattle of the Year 2020.
https://bibliobattle-award2020.mystrikingly.com/
“ラジオ DE ビブリオバトル”. 長崎放送.
https://www.nbc-nagasaki.co.jp/radio/radio-de-bibliobattle/
NBC長崎放送. “おうちで聴こう!つながるラジオ〜まけんぞ長崎・まけんぞ佐賀〜 NBCラジオ ライブdeミニビブリオバトル”. YouTube. 2020-05-05.
https://youtu.be/y1070k1GXas
吉野英知. 新しい本の楽しみ方「ビブリオバトル」の多方面への展開動向. カレントアウェアネス. 2014, (321), CA1830, p. 14-17.
https://doi.org/10.11501/8752503