E2384 – 東京都立中央図書館におけるチャットボット実証実験

カレントアウェアネス-E

No.413 2021.05.27

 

 E2384

東京都立中央図書館におけるチャットボット実証実験

東京都立中央図書館・森口歩(もりぐちあゆみ)

 

   2020年12月,東京都立図書館はチャットボットの導入を見据えた実証実験を行った。以下,その取り組みについて紹介する。

●実証実験の経緯

   東京都立図書館は中央図書館,多摩図書館の2館体制で,国内の公立図書館では最大級の豊富な資料と,司書をはじめとするスタッフにより,調査研究から身近な生活に役立つ情報収集まで,利用者の幅広い活動を情報面から支援している。また,都内公立図書館への支援や学校の教育活動支援など,さまざまなサービスを行っている。

   運営方針の1つに高度・高品質な情報サービスがあり,中でもレファレンスは基幹的なサービスと位置付けている。しかし,東京都立図書館の運営方針やサービス内容は地域の図書館を使い慣れた人には複雑でわかりにくい,レファレンス自体の認知度が低い,利用者の目的は様々で必ずしもレファレンスを求めている訳ではない,などの課題があると考えている。

   そこで,技術の活用により効率的に課題の解消を図り,利用者満足度を高められないか検討した結果,チャットボットの導入を見据えた実証実験を中央図書館において行うこととなった。チャットボットとは,人工知能(AI)を活用した自動で会話(チャット)を行うプログラムのことで,今回の実験では,国内公立図書館で初めての試みである有人チャットレファレンス(CA1652参照)の対応も含め,サービスの有効性や可能性を検証することとした。

●概要

   2019年度に公募で選定した民間事業者がAI技術等を提供して環境構築したものを,LINEアプリ上で公開した。終了後は利用者アンケートを行った。なお,アンケート結果は,東京都立図書館ウェブサイトにて公開している。

  • 期間:2020年12月1日午前10時から12月25日午後8時45分まで。チャットボットは24時間対応,有人チャットは図書館の開館時間中のみ対応。
  • 内容:レファレンス記録やウェブサイト内の検索キーワードランキングをもとに,あらかじめ用意したFAQ(約200件用意)により,チャットボットが開館日時や利用案内等の一般的な質問や「東京」に関する情報源についての質問に自動応答する。有人チャットでは内容を限定せず,幅広い質問に司書が対応する。なお,今回のチャットボットは利用者からの質問内容を自然言語処理により解釈して,適切な回答データを選択しているが,回答を自動で生成するような,自己学習機能は備えていない。
  • 利用概数:友だち登録ユーザー数452人,自動応答セッション数645件,自動応答メッセージ数5,822通,有人セッション数45件。
  • 利用手順:東京都立図書館ウェブサイトに設置したQRコードを読み取り,LINEアプリを起動して,友だち追加する。質問を入力すると,AIがその内容を分析して適切と思われる回答を表示する。回答が役に立ったかどうか評価を選択し,満足できなかった場合は有人チャットへ切り替えることができる。
  • 図書館側の対応:事務室内に有人チャット用に設定した専用パソコンを設置し,カウンターや電話レファレンス担当と同様に,1時間30分交替で専任の担当を設けた。マニュアルを作成し,事前研修を実施したほか,40件程度の回答定型文を用意した。

●今後に向けて

   友だち登録ユーザー数は想定の500人より若干少ないものの,自動応答メッセージ数が5,000件以上に達し,チャットボットが気軽に利用されたことがうかがえる。アンケート結果162件では,9割が導入を「期待する」「どちらかというと期待する」と回答した一方で,今回用意したFAQの数では,所蔵状況,一般的な事実調査,観光案内など,利用者の幅広い要求への対応は難しいことなどが明らかになった。有人チャットは,少数ながら多様な質問が寄せられ,会話ログも含め,今後の検討に際して参考になる事例を得ることができた。

   チャットボットは,非来館サービスとして有望かつ利用者ニーズも高く,新型コロナウイルス感染症感染拡大によって一層必要性を感じることとなった。想定質問と回答の作成,図書館用語の言い換え,検証と修正の繰り返しなど,準備には大変手間がかかるが,利用案内には一定程度有効である。ただし,図書館への質問は広範にわたる。例えば,「地図」という質問からは,図書館のアクセスマップ・フロアマップ,蔵書としての地図,地図に関するパスファインダーなど,様々なパターンが予想される。レファレンスサービスや読書案内などの多様な質問については利用者が求める回答水準に達するまで,方向性も含め,より適切な回答への案内,質問内容の絞り込みなど,更に改善を検討する必要がある。

 「第29期協議会提言(令和3年3月提言)「都立図書館ならではのサービスを考える-保有する情報資源の一層の活用を目指して-」」では,短期的に実現できるサービスのひとつとして,「チャットボット及びチャットによるレファレンスサービス」について提言をまとめている。また,20年後の都立図書館の在り方を検討した「都立図書館在り方検討委員会最終報告~AI時代の都立図書館像~」では,デジタル技術を活用した情報サービスの強化の一環として,「時間的制約にとらわれない簡易な問合せの自動応答」を挙げている。

   これらを踏まえて,将来的には,東京都立図書館の機能やサービスの案内,簡易なレファレンスについて,自然な言葉で一定程度まで自動応対し,利用者の問題解決を24時間サポートするとともに,複雑な応対が必要な問い合わせに職員が集中する環境を確保することを目指している。今後,本稼働に向けて各種の準備を進めていく予定である。

Ref:
“令和2年度版 事業概要”. 東京都立図書館. 2020, 50p.
https://www.library.metro.tokyo.lg.jp/guide/uploads/02jigyogaiyou.pdf
“SNSを活用した東京都立中央図書館の自動応答等実証実験について(終了しました)”. 東京都立図書館. 2020-12-25.
https://www.library.metro.tokyo.lg.jp/guide/information/5943_20201124.html
“SNSを活用した東京都立中央図書館の自動応答等実証実験アンケート結果について”. 東京都立図書館. 2021-03-16.
https://www.library.metro.tokyo.lg.jp/guide/information/6208_20210316.html
“都立図書館在り方検討委員会最終報告~AI時代の都立図書館像~”. 東京都教育委員会. 2021, 31p.
https://www.kyoiku.metro.tokyo.lg.jp/lifelong/facility/library/files/measure/0325lasthoukoku.pdf
“第29期協議会提言(令和3年3月提言)「都立図書館ならではのサービスを考える-保有する情報資源の一層の活用を目指して-」”. 東京都立図書館. 2021, 24p.
https://www.library.metro.tokyo.lg.jp/guide/uploads/29teigen.pdf
小田光宏. チャットレファレンスサービスに必要な専門的能力. カレントアウェアネス. 2008, (295), CA1652, p. 7-9.
https://doi.org/10.11501/287019