カレントアウェアネス-E
No.413 2021.05.27
E2385
米国NARAでのトランプ前大統領のツイート等の保存について
天理大学人間学部・古賀崇(こがたかし)
米国のトランプ前大統領は,2017年1月から4年間の任期において,自身の信条や活動について頻繁にTwitterでの発信を行ってきた一方,その内容の誤りや偏りも度々批判されてきた。トランプ氏は2020年11月の大統領選挙での敗北についても,根拠を示さず選挙の不正を自身のTwitterアカウントから訴え続けた。最終的に,2021年1月6日に生じた自身の支持者らによる米国連邦議会への集団襲撃事件を契機として,規約違反を理由にトランプ氏の個人Twitterアカウントは永久停止に至った。同年1月11日,トランプ政権における大統領関連の公式ソーシャルメディアのすべてのコンテンツにつき,ツイートとして削除されたものや閲覧不可能になったものを含め,米国国立公文書館(NARA)が収集・保存しアクセス可能とする旨,告知が成された。対象は,トランプ氏の個人アカウント(@realdonaldtrump),および,トランプ政権期の米国大統領の公式アカウント(@POTUS。現在はバイデン現大統領の公式アカウント)等である。この点の概要や背景についてはNARAのウェブページに集約されているが,以下,簡単に解説してみたい。なお,本稿の内容は2021年5月5日時点のものである。
NARAが自身の権限によって,大統領のツイートなど公式ソーシャルメディアの収集・保存・アクセス提供を行う根拠となるのは,大統領記録法である。同法はニクソン大統領の不祥事(ウォーターゲート事件)を受けて,各大統領の在任中の文書や記録の管理や保管等を適切に行うために1978年に制定され,レーガン政権期から適用されている。その後,オバマ政権期の2014年に,大統領記録に電子記録を含むことを明確化するなど,同法の大きな改正が成された。また,連邦政府が業務の一環として発信した,ソーシャルメディアのコンテンツについても,NARAが管轄する記録管理の対象となる旨,NARAによる2013年・2015年それぞれのガイダンスで,連邦政府各機関宛に指示している。この点は,大統領記録にも当てはまる。NARAのウェブページでは,トランプ大統領の就任直後の2017年2月に,当時の大統領法律顧問であったマクガーン(Donald F. (Don) McGahn)氏の名義で,ホワイトハウスの全職員宛に,業務で用いたソーシャルメディアのコンテンツが大統領記録の対象となると指示したことを,その文面とともに明示している。また,トランプ氏在任中のホワイトハウスでは,大統領記録法に従い,NARAと相談のうえ,ソーシャルメディア上のすべてのコンテンツを収集・保存するアーカイビングツールを使用しており,これらの記録は2021年1月20日にNARAに引き渡された。
さて,NARAが大統領記録法と並び,米国の大統領とその経験者の記録の管理・保存とアクセス提供に関し大きな役割を担うのは,大統領図書館(Presidential Library)の運営である。これは,第31代大統領のフーヴァー以降の各大統領について,それぞれのゆかりの地に置かれている。大統領記録法のもとでは,退任後の大統領記録は一時的にNARAが保管した後,大統領図書館の完成によってそちらに移管される。この中で,オバマ氏の大統領図書館については米国の大統領図書館として初めての「全面デジタル図書館」として運営され,在任中のホワイトハウスのウェブサイトおよびソーシャルメディアの保存と公開にも力点を置いている。大統領在任中のオバマ氏およびミシェル夫人のソーシャルメディアのコンテンツは,zip形式でのダウンロードも可能となっている。
トランプ大統領図書館についても,すでにウェブサイトが公開されており,在任中のホワイトハウスのウェブサイトおよびソーシャルメディアは,NARAの管理のもとで,同ウェブサイト上で保存・公開が行われている。つまり,トランプ氏についてもオバマ氏と同様,「デジタル大統領図書館」としての運営が中心となると見込まれる。ただし,このウェブサイトでは,一部「注意書き」も明示されている。まず,“Archived Social Media”のページでは,大統領および政権関連のソーシャルメディアの公開アーカイブの一覧が提示されており,大統領の公式Twitterのアーカイブも@POTUS45(第45代大統領のアカウントを意味する)として含まれているものの,個人アカウントたる@realdonaldtrumpのアーカイブは,ここでは公開されていない。このページでは,「大統領自身ほか,少なからぬ政権スタッフが,個人アカウントを通じて業務上の情報を発信していた。この種のソーシャルメディアのコンテンツについては,NARAとしてできるだけ早く公開する予定である」と断っている。また,新型コロナウイルス対策についてのウェブサイト(coronavirus.gov)につき,トランプ政権期でのアーカイブは,現状の公衆衛生の危機が解消した後に公開する旨,告示している。
ともあれ,大統領としてのトランプ氏とその政権の活動について,遡及的な検証を保障する上での,NARAの役割と現状を,以上の通りまとめておきたい。
Ref:
@USNatArchives. Twitter. 2021-01-11.
https://twitter.com/USNatArchives/status/1348330024420700160
“Records Released In Response to Presidential Records Act (PRA) Inquiries, Trump Administration”. NARA.
https://www.archives.gov/foia/pra-trump-admin
“Presidential Records Act (PRA) of 1978”. NARA.
https://www.archives.gov/presidential-libraries/laws/1978-act.html
“Bulletin 2014-02 Guidance on managing social media records”. NARA. 2013-10-25.
https://www.archives.gov/records-mgmt/bulletins/2014/2014-02.html
“Bulletin 2015-02 Guidance on Managing Electronic Messages”. NARA. 2015-07-29.
https://www.archives.gov/records-mgmt/bulletins/2015/2015-02.html
DONALD F. McGAHN II. MEMORANDUM FOR ALL PERSONNEL. 2017-02-22.
https://www.archives.gov/files/foia/Memo to WH Staff Re Presidential Records Act (Trump, 02-22-17)_redacted (1).pdf
Barack Obama Presidential Library.
https://www.obamalibrary.gov/
“Archived White House Websites and Social Media”. Barack Obama Presidential Library.
https://www.obamalibrary.gov/research/archived-white-house-websites-and-social-media
Donald J. Trump Presidential Library.
https://www.trumplibrary.gov/
“Archived Social Media”. Donald J. Trump Presidential Library.
https://www.trumplibrary.gov/research/archived-social-media
“Archived Websites”. Donald J. Trump Presidential Library.
https://www.trumplibrary.gov/research/archived-websites
廣瀬淳子. 大統領記録の公開 : 大統領記録法とオバマ政権の大統領記録に関する大統領令. 外国の立法 : 立法情報・翻訳・解説. 2009, (240), p. 76-87.
https://doi.org/10.11501/1000082