カレントアウェアネス-E
No.127 2008.05.14
E779
NARA,連邦政府各省庁のウェブサイト記録作成を中止
米国国立公文書館(NARA)はクリントン前大統領およびブッシュ現大統領(第1期)任期終了時に,連邦政府各省庁のウェブサイトをハーベスティングし,スナップショットを作成していたが,2008年3月27日に公表した覚書において,ブッシュ大統領(第2期)の任期終了時には,これらの活動を行わないことを発表した。
NARAは今回の決定について,2008会計年度においては他の記録管理プログラムを優先すること,“Internet Archive”など他のウェブ・アーカイブサイトの利用可能性,政府全体のウェブサイトのスナップショット収集・保存に要する資源の問題,の3点を考慮したとしている。NARAは2008年4月15日にも補足説明“Web Snapshot Reply”を公表し,次の3点の理由を挙げ,今回の決定に至った詳細な理由を解説している。
- (1)「2002年電子政府法(E-Government Act of 2002;Pub.L.No.107-347)」207条で連邦政府各省庁によるウェブサイト保存が義務付けられており,NARAは“Guidance on Managing Web Record”,“Bulletin 2006-02”,“Bulletin 2008-03”の作成を通じて,連邦政府各省庁のウェブサイトの永久保存に関する情報を提供していること。
- (2)ウェブサイト保存は本来,政府各省庁が担うべきであるにもかかわらず,NARAがハーベスティングによりスナップショットを作成することによって,政府機関のウェブサイト保存に対する認識が誤ったものになるという懸念があること。
- (3)NARAが作成していたスナップショットは,大統領退任前の「とある」1日の「見た目(look and feel)」の記録に過ぎず,政府機関の活動を体系的に,完全に記録したものではないこと。またハーベスティングも4階層までの収集にとどまり,深層ウェブの情報や各省庁のイントラネット内の限定公開ページは収集できないなど,限界があること。
NARAはまた,歴史的価値が高いと判断した各省庁のウェブサイトは,作成した各省庁が保存手続きを整備し,NARAに移管させるよう働きかけている,としている。
このような動きに対して複数のブログから,政府情報の保存を“Internet Archive”といった民間のアーカイブサービスにゆだねてしまうことへの危惧や,各省庁のウェブサイトが有する歴史的価値の無視であるとの批判の声が挙がっている。米国図書館協会(ALA),北米研究図書館協会(ARL)など20団体も,NARAのワインスティーン(Allen Weinstein)館長に対し, 2008年4月29日付けで再考を促す書簡を送っている。
なお連邦議会の作成したウェブサイトについては,議会が連邦記録法(Federal Records Act)の対象ではないことを理由に,議会がウェブ情報の保存に対する公式な指針を作成するまでは,NARAがハーベスティングしてスナップショットを作成するとしている。またホワイトハウスのウェブサイト情報については,「大統領記録法(Presidential Records Act)」に基づき,全ての情報が永久に記録され,NARAへの移管を受けた上で,大統領図書館に保存されるという。
Ref:
http://www.archives.gov/records-mgmt/memos/nwm13-2008.html
http://www.archives.gov/records-mgmt/memos/nwm13-2008-brief.html
http://www.dotgovwatch.com/?/archives/34-The-National-Archives-Is-Quietly-Destroying-Millions-of-Documents.html
http://www.sunlightfoundation.com/digital_preservation_under_threat
http://www.arl.org/bm~doc/nara-web-snapshot-ltr-final.pdf