E2111 – アウトリーチへのアプローチ:北米研究図書館協会(ARL)調査

カレントアウェアネス-E

No.364 2019.02.28

 

 E2111

アウトリーチへのアプローチ:北米研究図書館協会(ARL)調査

 

 図書館のアウトリーチ活動が検証なしに実践されている。こうした現状認識のもと,北米研究図書館協会(以下「ARL」)は,報告書シリーズ“SPEC Kit”の第361号として,“Outreach and Engagement”(2018年11月付)を刊行した。この報告書は,ARLが125の加盟館に対して2018年7月から8月にかけて調査を実施し,57館から得た回答結果をまとめたものである。報告書は,調査結果に加え,アウトリーチに関する使命と目的に関する声明,イベント企画書,アウトリーチに携わる職員の職位記述書等の実例で構成されている。以下,調査結果の概要を紹介する。

 まず,調査は,図書館のアウトリーチに対する認識と主要な活動を把握することから始めている。アウトリーチはそもそも定義づけが難しく,定義をめぐる記述回答も多様であったが,回答からは,活動の多面性やキャンパス・組織をまたいだ取り組み等,共通するテーマが見られた。活動内容は,ツアーやオリエンテーション,オープンハウス,著者トークイベント,映画上映等が一般的で,他には動物セラピーやハッカソン等も行われている。対象者に目を向けると,学部生,卒業生,教員を対象にした活動が多く,スタッフを対象としたものは少ない。さらに,留学生,1年次生,LGBTQIA+等のグループに向けた活動は一定程度行われているものの,リテラシーに困難を抱える利用者や受刑者・有前科者,ホームレス,移動図書館利用者,遠距離通学生といったグループにはサービスがほとんど行き届いていなかった。

 次に,制度的支援や目標設定等から,図書館におけるアウトリーチの位置づけが調査されている。ほとんどの館では,図書館が掲げる「図書館の使命と目的に関する声明」の中にアウトリーチ関連の内容が含まれており,また,職位記述書にアウトリーチに対する職責が書かれている図書館は53館(95%),アウトリーチに関する目標設定を行っている図書館も52館(95%),とアウトリーチへの問題意識が根付いている様子がうかがえる。ただし,回答館から例示された目標の多くは,イベント開催数やソーシャルメディア投稿数等の図書館内部に焦点を当てたもので,利用者の学びや体験といった外部に焦点を当て目標を設定していた館は少数であった。

 また,活動計画や人員体制等に関する質問もあり,運営実態が掘り下げられている。アウトリーチ活動の計画策定は,21館(37%)が年単位で行っていると答えたが,状況に合わせて対応している等の理由で「その他」を選択回答した館が最も多く,計画策定の複雑さを示す結果となっている。予算面では,47館(83%)が活動資金は図書館の中央予算から支出されるとした一方で,41館(72%)はプロジェクト・イベント予算を活動費に充てているとも回答した。後者の結果につき,報告書は,41館は専用の予算枠を持っていないと見ている。人員体制に関しては,通常は常勤職員がアウトリーチイベントのスタッフを務め,担当者はイベント毎に異なるのが一般的であった。また,スタッフは有志の職員によって賄われることが多いため,人員確保が懸念となっている図書館も存在する。他方,図書館友の会や学生団体の有志をボランティアスタッフとする館は少ないが,報告書ではスタッフになりえる人材として言及されている。

 続いて,調査では,活動評価や個別の活動事例等を尋ねている。活動評価をもとにイベントの中止や打ち切りを行ったことのある図書館は38館(68%)に上るなど,プログラムの決定に際して評価を活用する図書館は多い。しかし,活動評価の大部分は,人数調査,観察,ボランティアや連携先からのフィードバック,コメント収集など手間のかからない手法に依っており,評価に携わるのは主に企画担当者やマーケティング担当者であった。これらに関して,報告書は,インタビューやフォーカス・グループといった評価手法の採用,アウトリーチ評価をテーマとしたワークショップ等の開催による人材育成の可能性に触れている。また,活動事例として,各図書館が最近2年以内に行ったイベントや活動を詳述している。リソース・フェア,オープンハウス,期末試験のストレス解消活動等が共通して実施されており,その他,種の貸出図書館(E1398参照)やヒューマン・ライブラリー(E868参照)等のイベントも行われている。それらの活動予算は,ソーシャルメディアを使った0ドルのプログラムから5万ドルをかけた読書プログラムまで,実に様々である。

 最後に,調査結果は,予算の明確化や測定可能で有意義な目標の設定,様々な評価手法の活用といった推奨事項を挙げ,そうしたアプローチによって計画策定と柔軟な対応が可能になるだろうと締めている。「図書館のアウトリーチは,いまルネサンスを経験している」という惹句で始まる本報告書が示すとおり,図書館のアウトリーチ活動は未だ発展途上にある。「ルネサンス」の行方は,多様な実践と不断の検証にかかっているだろう。

関西館文献提供課・益本禎朗

Ref:
https://doi.org/10.29242/spec.361
https://www.arl.org/news/arl-news/4670-outreach-and-engagement-spec-kit-361-published-by-arl
https://www.arl.org/publications-resources/4696-webinaroutreach-and-engagement-spec-kit-361
E1398
E868