E868 – 「生きている本」を読んで偏見を乗り越える“Living Library”

カレントアウェアネス-E

No.141 2008.12.24

 

 E868

「生きている本」を読んで偏見を乗り越える“Living Library”

 

 中身を見ないで表紙やタイトルだけで本を評価したことがないだろうか。じっくり読んでみると,それらが与えていたイメージが偏ったものであることが分かり,本のテーマについてより深い理解を得ることができるかもしれないのに。この考え方を,人間の相互理解に生かした活動“Living Library”が,注目を集めている。

 Living Libraryとは,障害者,性的マイノリティ,ホームレスといった,偏見を受けやすい人を“Living Books”(生きている本)として,普段彼らと接する機会のない人たちに貸し出し,「読書」を通じて,偏見やステレオタイプを乗り越え,多様な社会の実現を目指す試みである。2000年にデンマークで,暴力追放を目指すロックフェスティバルの企画の一部として開催されたのが最初だという。活動の価値が理解され,北欧理事会(Nordic Minister Council)と欧州評議会(Council of Europe)の支援を得られたこともあり,Living Libraryは世界中に拡大し,今では20か国以上で催されている。教育活動やイベントの一環として実施されることが多く,会場として実際の図書館を利用している例も少なくない。

 Living Libraryでの「読書」とは,利用者が自分の希望する「本」と1時間弱程度対話をすることを指す。対話という双方向のコミュニケーションを通じ,利用者とLiving Booksがお互いの考え方を知ることにより,偏見を軽減し,多様性を認め合うのが目標である。通常の読書では,書籍が読者から影響を受けて変化するということは考えられない。しかしLiving Libraryでは読者と読まれる本の両方が,対話を通じて能動的に変化するきっかけを得る可能性があり,これはLiving Libraryの大きな特徴の1つと言えるだろう。実際,Living Booksとなった人の意見には,「読者が自分のことを話してくれたので,私のセッションはお互いの経験を共有するものになりました」「自分に正直に,オープンな態度で読者と接すれば,Living Booksになることは自分自身にも実りのある経験となります」といったものがしばしば見られる。

 2008年12月6日には日本で初めてのLiving Libraryが京都で開催された。ホームレス,トランスジェンダー,薬物依存,アスペルガー症候群などをテーマにした,全11冊のLiving Booksが貸し出されたが,利用希望者多数のために利用待ちが起きるなど,日本での第1回Living Libraryは盛況のうちに終わった。2009年1月には東京都の高校でもLiving Libraryが開催される予定になっている。

Ref:
http://living-library.org/index.html
http://living-library.org/videos-from-the-kyoto-atac-living-library.html
http://living-library.org/readers-lining-up-to-take-out-books-in-japan.html
http://living-library.org/living-library-in-tokyo-japan.html
http://living-library.jp/index.html
http://www.e-at.org/atac/2008_12/info/index.html
http://d.hatena.ne.jp/ituki/20081206#p1
http://d.hatena.ne.jp/ituki/20081207#p1