カレントアウェアネス-E
No.142 2009.01.21
E881
図書館ねこデューイ <文献紹介>
ヴィッキー・マイロン. 図書館ねこデューイ: 町を幸せにしたトラねこの物語. 羽田詩津子訳. 早川書房, 2008, 322p. ( = Myron, Vicki.; Witter, Brett. Dewey: the small-town library cat who touched the world. Grand Central Pub, 2008.)
本書は,米国アイオワ州の小さな町スペンサーの公共図書館で飼われていた1匹のねこ「デューイ・リードモア・ブックス(Dewey Readmore Books)」の生涯の物語である。デューイは間違いなく,世界で最も有名な図書館ねこのうちの1匹だろう。米国内外のマスコミで度々取り上げられ,デューイに会うために遠方から駆けつけるファンも少なくなかったという。デューイが2006年に18年の生涯を閉じたときも(E574参照),世界中から弔いのメッセージが寄せられた。筆者のマイロン(Vicki Myron)氏は,スペンサー公共図書館の元館長であり,厳寒の朝ブックポストに捨てられていたデューイの第一発見者であり,デューイを図書館で飼うことを決めた人物であり,何よりもデューイの「ママ」だった人物である。
デューイは分け隔てなく,スペンサー公共図書館を訪れる人々の心にそっと寄り添い,温かな関係を築いてきた。このような特別な才能を持つデューイを「分かち合う」ことにより,スペンサー公共図書館のスタッフ,利用者,スペンサーの町の人々,そして世界中の人々が繋がりあっていく様子が,本書ではきめ細かな筆致で描かれている。それもそのはず,マイロン氏こそ,デューイの存在に最も支えられ,人生の苦難を何とか乗り越えてきた張本人なのである。
本書で明かされているマイロン氏の人生は,波瀾万丈である。アルコール中毒の夫と28歳で離婚,シングルマザーとして一人娘を育てながら32歳で大学を卒業し,スペンサー公共図書館に就職する。この間,兄弟を癌と自殺で立て続けに亡くしている。しかし彼女は悲劇に屈することなく,一人娘を育てるために懸命に働き,ついにはスペンサー公共図書館の館長となる。デューイと出会ったのは,マイロン氏が図書館長になって1年後のことだった。張り詰めた日々を過ごしていたマイロン氏にとって,デューイは日々の緊張から自分を解き放ち,心を通じ合わせることのできるパートナーとなり,18年に渡り,特別な関係を築き上げてきた。その後も苦難は容赦なくマイロン氏を襲うのだが,「長い歳月,つらい日も,楽しい日も,人生という本物の本のページを埋める記憶にすら残らない日も,デューイは私を抱きしめていてくれた」おかげで,乗り切ることができたという。
本書はデューイとマイロン氏の物語であるが,図書館員としては別の楽しみ方もできる。本書の各所に,1980年代後半から2000年代までの図書館の変化が描かれている。カード目録からコンピュータ目録へ,インターネットの導入,これらに伴う図書館の利用のされ方の変遷(利用者は増えたが,本を借りる人が大幅に減った等),こういったところに注目するのも一興かもしれない。
本書はニューヨークタイムズ紙のベストセラーランキングで1位を獲得,2009年1月21日現在も17週連続でベストテン入りを果たしている。この物語を米国の大女優メリル・ストリープ主演で映画化する計画も進行中であり,続報が期待される。
Ref:
http://www.hayakawa-online.co.jp/product/books/114543.html
http://www.deweyreadmorebooks.com/index.php
http://www.ala.org/ala/alonline/currentnews/newsarchive/2008/November2008/streepheartsdewey.cfm
http://www.libraryjournal.com/blog/770000077/post/1070036507.html?nid=2814
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