E880 – デジタル消費者:情報専門職の再形成 <文献紹介>

カレントアウェアネス-E

No.142 2009.01.21

 

 E880

デジタル消費者:情報専門職の再形成 <文献紹介>

 

Nicholas, David; Rowlands, Ian edit. Digital consumers: reshaping the information profession. Facet Publishing, 2008, 226p.

 本書は英国ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンの情報行動・研究評価センター(CIBER:Centre for Information Behaviour and the Evaluation of Research)の8年間にわたる情報利用者のオンライン行動の変化についての研究成果と,それに対する情報専門職の対応に関する提言をまとめた9編の論文集である。

 Nicholasらによる「デジタル消費者:序文と哲学」は序論にあたり,執筆の意図,アプローチ,各論文の概要,対象とする読者について述べている。次の3論文はデジタル消費の環境を扱い,「デジタル情報市場とその経済:独占の終焉」(Withey),「eショッパー:情報通の購入者の増加」(Russell),「デジタル時代の図書館」(Moss)から構成されている。その後に「デジタル情報消費者の心理学」(Gunther),「デジタル消費者の情報行動:ケーススタディ―ヴァーチャル研究者」(Nicholasら),「グーグル世代:若者のデジタル情報行動の神話と現実」(Williamsら)(E745参照)が続いている。特に「デジタル消費者の情報行動」と「グーグル世代」は本論文集の中核をなすもので,前者ではScienceDirectやWiley InterScience等の電子ジャーナルのトランザクション・ログの分析により,利用者行動を描き出し,後者では若い世代の情報行動を分析している。8編目の「デジタル情報消費の傾向と将来」(Gunther)では,デジタル製品の市場への浸透と技術の確立について述べている。最後に収められている「さてこれからどうするか」(Nicholas)では今後情報専門職が将来に向けてと るべき6つの指針が示されている。

 本書はオンライン情報利用行動と情報探索についての現状を提示した重要な論文集であるが,残念ながら情報専門職の再形成については提案が不十分であり,明らかな前兆があるにもかかわらず,従来の縄張りや廃れた情報パラダイムを未だに擁護しようとしている情報専門職が変化しなければその明日はないとし,情報専門職の自覚を促す編者の挑発的な意図がやや空回りしているようである。

(東北大学附属図書館:加藤信哉)

Ref:
http://www.facetshop.co.uk/mm5/merchant.mvc?Screen=PROD&Store_Code=1&Product_Code=651-0&Category_Code=
E745