カレントアウェアネス-E
No.122 2008.02.06
E745
研究図書館の未来を考えるために−「Google世代」は真実か?
2008年1月,英国において,信頼できるエビデンスに基づき,研究図書館のこれからのあり方について検討することを目的に行われた研究結果が「未来の研究者の情報行動(Information Behaviour of the Researcher of the Future)」として発表された。これは英国図書館(BL)と英国情報システム合同委員会(JISC)の委託により,ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンの情報行動・研究評価センター(CIBER)が実施した調査研究の成果である。
研究図書館の将来を考えるためには,長じて「未来の研究者」となる現在の青少年・子どもたちの情報行動の現状と今後を把握することが重要であり,本報告書の主な目的もこの点にある。インターネットの存在が前提となっている時代に生まれ育った若い世代は「Google世代」(報告書では1993年以降に誕生した人のことを指すと定義されている)とも呼ばれ,「最もウェブに対するリテラシーが高い」,「他の世代とは質的に異なっている」といったイメージを一般的に持たれることも多い。しかし,果たしてそれは妥当なのだろうか。報告書はこのような問題提起から始まり,関連文献や関連研究などを駆使して「Google世代」のイメージの妥当性を冷静かつ丁寧に検討し,出来る限り「正しく」若い世代の情報行動の実態を把握することに努めている。
精査の結果,「Google世代」に付与されていたイメージは必ずしも当てはまらないことや,「Google世代」の特徴と思われていたものが全ての世代に当てはまるといったことが明らかになり,私たちが若者に対するICTの影響を過大評価し,年長の世代へのそれを過少評価する傾向にあることが分かった。具体的には,(1)絶えずウェブに繋がっておきたいという欲求の強さは若い世代ほど高いということはなく,18歳から24歳のグループに比べ,65歳以上のグループの方がインターネット利用時間の方が長いというデータも存在する,(2)CIBERがJISCやBLのウェブサイトを利用している研究者の情報行動をログ分析から明らかにしたところによると,大学院生から教授に至るまでの人が電子図書館サービスを利用する際,表面的な情報をさっと手に入れるという強い傾向を示した,(3)Google世代の情報探索能力は必ずしも高くなく,彼らは手に入れた情報を評価する能力に欠けている,といったことがある。
報告書は,若い世代の情報行動についての分析を受け,「図書館が提供しているコンテンツへの認知度を高めること」,「もっとスタンダードで使い易いインターフェースを準備すること」といった研究図書館が今後とるべき戦略についての提案へと続く。また同時に,若い世代の情報行動について全国規模で調査を実施することの必要性と,出来るだけ早い段階から図書館,学校,保護者が連携して,子どもたちに情報リテラシー教育を行うことの重要性等についても指摘している。
発表されて以降,この報告書は図書館情報学に関連するブログや米国の図書館関連雑誌等で取り上げられているが,たびたび引用されているのが“that the future is now, not 10 years away.(未来は今である,10年後ではない)”というフレーズである。情報環境の変化がさらに加速していくことが予測されるなかで研究図書館が存在感を発揮するためには,迅速な行動が不可欠であることを報告書は印象付けている。
Ref:
http://www.jisc.ac.uk/media/documents/programmes/reppres/gg_final_keynote_11012008.pdf
http://www.bl.uk/news/2008/pressrelease20080116.html
http://www.jisc.ac.uk/news/stories/2008/01/googlegen.aspx
http://www.publishing.ucl.ac.uk/behaviour.html
http://www.libraryjournal.com/article/CA6525984.html
http://www.schoollibraryjournal.com/article/CA6524475.html
http://www.lisnews.org/node/28848
http://www.resourceshelf.com/2008/01/16/%e2%80%98google-generation%e2%80%99-is-a-myth-says-new-research/
CA1625
E583