E2081 – 2018年NDLデジタルライブラリーカフェ<報告>

カレントアウェアネス-E

No.358 2018.11.22

 

 E2081

2018年NDLデジタルライブラリーカフェ<報告>

 

 2018年9月15日及び9月29日,国立国会図書館(NDL)は,東京本館でNDLデジタルライブラリーカフェを開催した。本イベントは,デジタルライブラリーに関わる研究や最新動向を身近に感じてもらうため,毎回,テーマを設定し,その分野の専門家を講師として招いて実施している一般向け講演会である。今年度で3年目の実施となり,会社員,学生,研究者,図書館職員等,各回約25人の参加があった。

 9月15日開催の第1回「アイデアをかたちにする二次利用のたのしみ」は京都高低差崖会崖長の梅林秀行氏と同志社大学教授の原田隆史氏を招き,デジタルアーカイブ(DA)の二次利用について,それぞれ話題提供があった。

 梅林講師は,京都の地形と歴史を調査してきたDAユーザとしての視点から,二次利用について,理解のための補助線を資料へ引く作業と定義した。例えば,梅林講師の著作では,オープンデータとして公開されている地図データを,関連する他のデータと組み合わせたり,特定部分を切り出したりして掲載している。また,国際日本文化研究センターが公開している江戸時代の名所図会に色付けして,当時と現代の共通項の比較をしやすくしたものもある。こうした加工が,読む人の資料理解を助ける補助線となるのであり,DA公開に当たっては加工しやすい方法で提供されることが望ましいと指摘した。また,誰もが参加でき,資料を広く利用し,議論できる場である「公共圏」としてのDAの役割に触れた上で,公開されない資料は存在そのものが知られにくくなるとし,日本のDA提供機関が自主規制的に資料を公開しないことに対して,慎重な判断が求められていると指摘した。背景として資料を公開した機関の判断に責任を求める傾向が社会全体にあるため,DA提供機関は資料の公開に対して厳しい基準を設けることとなり,その結果ユーザが使える資料の選択肢が狭まっていると述べ,資料をどのように使うかというユーザの自己決定権を尊重し,議論や批判は自己決定の結果に対してすべきであると述べた。

 原田講師は,検索システムの専門家としての視点から,二次利用を行う際にコンピュータを利用してデータを取得するための方法としてWeb API(CA1677参照)について紹介し,また利活用に供する際の利便性のために,提供側がデータを標準化・構造化することの重要性を説いた。NDLサーチの検索結果を例として,人間から見たときの直感的なGraphical User Interface(GUI)とは別に,コンピュータが容易に必要な情報を取り出せるように構造化された窓口としてWeb APIが提供されていることを示した。また,Web APIを利用することでNDLサーチのデータを使った新たなソフトウェアを簡単に開発できることを自身の研究室で提供しているツールを挙げて紹介した。

 9月29日開催の第2回「ウィキペディアと図書館~人と場と情報~」はWikipedia日本語版管理者の日下九八氏と田原市中央図書館(愛知県)副館長の是住久美子氏を招き,「ウィキペディアタウン」を図書館が支援する事例を中心に,Wikipediaと図書館の視点からそれぞれ話題提供があった。

 日下講師は,「検証可能性」ほかWikipediaの編集方針について説明し,記事の信頼性は出典を記載することによって一定程度担保され,また読み手にも確認の手段が提示されていることを述べた。また,日本で近年盛んになっているウィキペディアタウンについて,ウィキペディアタウンイベントの講師の立場から紹介した。日本におけるウィキペディアタウンは,地域の事柄について,地域住民が街歩きをして,地域の図書館の郷土資料等を活用して調べた成果を投稿する取組として展開されていると解説した。その上で,「人は動ける,場所は動かない,情報は動かせる」として,Wikipediaによって,作成した情報を保存する場所の制約はなくなったが,郷土資料等の希少な資料を参照するためには作成者(人)が所蔵機関を訪れる必要性は残り続けることを指摘し,情報の所在地として地域の図書館の果たす役割に触れた。また,教育活動の一環としてWikipediaを編集することの是非について,書いたものが残り続けるため,本人の自発性が重要であるとし,書きたくない人に書かない自由を残すことが重要と述べた。

 是住講師は2017年まで自身が勤務していた京都府立図書館の自己学習グループ「ししょまろはん」における活動として,オープンデータ公開や「没年調査ソン」(E1847参照)を紹介するとともに,地域の図書館の立場からウィキペディアタウンを支援する試みについて紹介した(CA1847参照)。ウィキペディアタウンに対して図書館ができる支援として,会場の提供,関連資料の用意や地域情報の調べ方のレクチャーを挙げた。ウィキペディアタウンに図書館が関わる意義について,図書館の所蔵する郷土資料に光が当たることや,地域の魅力を再発見し,資料を使って調べた成果を世界に発信できることと説明した。

 今年度のデジタルライブラリーカフェを振り返り,問題意識と取組はそれぞれの立場や考え方に深く根付いていると感じた。今後も専門家と参加者に対話をしながら関心を共有してもらうことで,デジタルライブラリーに対する理解を深める場となればと願っている。

電子情報部電子情報企画課次世代システム開発研究室・青池亨

Ref:
https://lab.ndl.go.jp/cms/digicafe2018
http://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I027253520-00
http://db.nichibun.ac.jp/ja/
http://iss.ndl.go.jp/information/api/
http://www.slis.doshisha.ac.jp/~ushi/ToolNDL/
http://libmaro.kyoto.jp/
https://ja.wikipedia.org/wiki/プロジェクト:アウトリーチ/ウィキペディアタウン
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