カレントアウェアネス-E
No.358 2018.11.22
E2080
優れたグリーンライブラリーを称えるGreen Library Award
2018年8月27日,マレーシアで開催された世界図書館情報会議(WLIC):第84回国際図書館連盟(IFLA)年次大会(E2078参照)において,優れたグリーンライブラリー(CA1797参照)を称えるIFLA Green Library Award 2018の受賞館,中国・広東省佛山市図書館の表彰式が行われた。
Green Library Awardは,IFLAの環境・持続可能性と図書館(Environment,Sustainability and Libraries:ENSULIB)に関する専門部会(SIG)が,ドイツの出版社De Gruyter社の支援を受けて実施している賞である。「環境の持続可能性への図書館の貢献を示した最良のグリーンライブラリーへの評価」「環境教育における図書館の指導的役割と社会的責任への認知度向上」「環境の持続可能性に配慮した,建築/情報・プログラム/資源・エネルギー保全活動に関する世界中のグリーンライブラリー運動の支援」「グリーンライブラリー活動発展の促進」「グリーンライブラリー自身による自館の活動の全世界へのアピールの奨励」を目的に2016年に始まり,今年で3回目の開催である。
22か国32館からの応募があった2018年の審査は,米国・フランス・ドイツ・ポルトガル・スペイン・スウェーデン・フィンランド・オーストラリア・ニュージーランド・ケニア・パキスタン出身の,図書館情報学専攻の学生,図書館員(公共・大学),建築家といった多様な属性を持つ17人の審査員によって行われた。審査は,Online Dictionary for Library and Information Science(ODLIS)におけるグリーンライブラリーの定義「環境に配慮した立地,自然建材・生分解性製品の採用,資源(水・エネルギー・紙)の保全,責任ある廃棄物処理(リサイクル等)により,地球環境への悪影響を最小限に抑え,屋内環境の質を最大化するように設計されたもの」に加え,関連するサービス・活動・イベント・出版の実施,環境の持続可能性への社会的・指導的役割,国連「持続可能な開発のための2030アジェンダ」(E1763参照)への貢献等に基づいて実施される。2016年(7か国・地域30館からの応募)の受賞館,メキシコ・チアパス州の学校図書館El Pequeño Sol ecological libraryは,リサイクル素材の活用など環境への配慮に加え,児童とその保護者が設計・建設に加わったことが評価された。2017年(11か国35館からの応募)の受賞館,ドイツ・シュレースヴィヒ=ホルシュタイン州のバート=オルデスロー市立図書館は,最終的には地域支援型農業(CSA)の創設にも繋がった,メイカースペースの活用やコミュニティ形成を通じた都市緑化活動が評価されている。
2018年の受賞館,佛山市図書館はどのような活動が評価されたのだろうか。同館が提出した応募書類によると,佛山市は,2017年に中国政府から国家森林都市に認定され,新都心建設では,緑化率42%及び,雨水を利用して「ヒートアイランド現象」を解消するスポンジシティが目標となっている。図書館自体も,環境にやさしい建物に関する中国の規格(GB/T 50378-2006)の第2ランクに準拠し設計されており,外観は,「春」「夏」「秋」「冬」の漢字をモチーフとした同市の伝統的な切り絵のデザインとなっている。建物は断熱効果や採光に優れ,雨水の再利用やLED照明が採用されているほか,合計7つの庭園が館内各所に設置されている。運営面でも,水・電気・印刷用紙の利用ルールを定め,ペーパーレスオフィスも導入している。
利用者サービスでは,環境週間における関連資料の展示,SNSを用いた環境保護に関する資料の紹介のほか,ガーデニング講習会,椿及び椿を題材とした芸術作品の展覧会,盆栽展,等といった園芸に係る活動が行われている。また,リサイクル素材を用いて子どもが作成した地元の民俗文化を紹介する芸術作品を展示する事業も行っている。その他,伝統的な生活を保っている村落を訪問し,郷土史家や住民から話を聞くとともに,村落の写真や動画を撮影しSNSで紹介する活動も行われている。
次点に選ばれた館も含めると,同賞にはこれまで,欧州・南米・アフリカ・オーストラリア・アジアの,国立・大学の大規模館から,地域の小規模館までが選ばれている。それら受賞館は,建築・設備といったハード面や関連する政策・戦略以外にも,環境ビジネスに関する総合見本市の開催,ウィンター・ガーデン(温室)や屋外読書室の設置,環境にやさしい資料の装備,リサイクル素材による手工芸品ワークショップの開催とその販売収益による資料の購入,地元の野菜・果物・野草に関する情報提供や採取,児童・生徒への環境教育,等の諸活動が評価されている館も多い。
これまで日本からは同賞への応募はないようである。カレントアウェアネス・ポータル掲載の過去記事を振り返ると,種の貸出し,グリーン・カーテンの実施,農業支援,伝統野菜の栽培,野草に関する資料の収集,遊休農地を活用した児童を対象とした大豆栽培や味噌づくり等,環境保護を促進する取組が見受けられる。我こそはと思う館は,次年度,応募してみては如何だろうか。
関西館図書館協力課・武田和也
Ref:
https://www.ifla.org/node/10159
https://www.ifla.org/node/11207
https://www.ifla.org/node/10478
https://www.ifla.org/node/11523
https://www.ifla.org/node/60935
https://www.ifla.org/files/assets/environmental-sustainability-and-libraries/news/_pressrelease_greenlibraryaward2018.pdf
https://www.ifla.org/files/assets/environmental-sustainability-and-libraries/news/1-china_foshan_librarys_green_practice_-ilovepdf.pdf
http://www.fslib.com.cn/CPS/InFoManage/InfoDeail.aspx?infoID=4404
http://www.library.sh.cn/Web/www/shtsg/201889/n48212975.html
https://www.abc-clio.com/ODLIS/odlis_s.aspx#sustainablelib
E1763
E2078
CA1797